第16話 お祭り前

 大輝に姫路さんとの関係がバレてから2日、今日は日曜日だ。

 俺は祭りの準備をしながら大輝が俺の家に来るのを待っている。


 最初は莉沙がみんなの家に向かって1人ずつ乗せていくみたいな話をしていたけど、さすがにそれは申し訳ないという話になった。

 

 その結果、莉沙の家に集合という形になったのだ。俺は莉沙と家が近いからすぐに着く。

 大輝も割と近いけれど、莉沙の家に行く通り道で俺の家を通るから一緒に行こうという話になった。


 それで準備をして待っているわけだ。

 準備といってもただ普通の服を着て待っているだけだが……。


 こういう時にオシャレでもできればいいんだろうけど、生憎俺はあまりファッションに興味はないし人と遊ぶこともそんなに多くない。


 大輝や莉沙と遊ぶ時だって大体制服だからな。

 でも、さすがに夏祭りに制服は変だと思い今日はちゃんと私服を着ている。


 ジーンズに白いTシャツっていう超普通な服だ。


 自分のファッションセンスが普通すぎることにガッカリしているとインターホンが鳴った。


 モニターを見れば大輝が目の前にいる。


「今出る」


 俺は玄関に行き、白いスニーカーを履いてすぐに扉を開ける。


「よ」


「うっす」


 大輝と軽い挨拶を交わしながら家の鍵を閉める。


 すぐに莉沙の部屋に行くのかと思っていたら大輝が俺の靴をじっと見つめていることに気づいた。


「なんだよ?」


「いや、お前その靴好きだよな」


 見ていたのは俺の靴らしい。

 言われて俺も自分の靴を見つめる。本当に普通の白いスニーカーだ。

 

「まぁ、そうだな」


「だよな。中学くらいからか? 


「お前、よく見てるな……」


 図書室でバレた時から、いやそれよりも結構前から大輝には少し恐怖心を覚えることがある。

 人の靴なんてそんなに気にしないだろう。


 俺たちは莉沙の家向かって歩く。


「いや、学校の時履いてくる靴が黒とか多いから目につくんだよ」


「確かに……」


 そう言われてしまうとそれ以上何かを言うことは出来ない。

 学校に行くときの靴はそんなに意識してないし色とかとバラバラだからな。


「大切にしてんだな」


「まぁ、そうだな……」


 大切にしてなかったら中学から休みの時だけ履くなんてわざわざそんなことしないだろう。

 学校に履いていけば嫌でも履いていく回数が増えてどれだけ丁寧に扱っても汚れるからな。


「それにしても、足は成長してないんだな」


「今俺は27.5だ! 普通だろ」


 大輝は俺のことをバカにして笑ってくる。

 確かに中学から足のサイズは変わってないけど27.5は別に小さくないと思う。小さくないよな?


 2人で笑いながら歩くとすぐに莉沙の家に着いた。小学校が同じだからあっという間だ。


「おっは〜」


 家の前に着くと莉沙が目の前にいた。

 勉強会の時とは少し違う格好で、白いTシャツを細かいチェック柄のワイドパンツというやつだろうか、それにインしている。

 なんかおしゃれって感じだ。

 

「おはよ……ってもう昼だろ」


「あたしさっき起きたし朝でしょ」


 莉沙の感覚はよくわからない……。

 俺は「はぁ」と軽く笑いながら周りを見渡す。

 すると玄関から莉沙のお母さんが出てきた。


「あ〜! 響也くんじゃない! またかっこよくなった?」


「ええと……そんなことはないかと」


「いいや、なってる! 私が言うんだから間違いない!」


「え、あちょっと……」


 まだちゃんと挨拶もしてないのに、どんどん莉沙のお母さんは詰め寄ってくる。

 莉沙のお母さん、いい人なんだけどちょっと苦手というかすごいぐいぐいくるんだよな……。


 それを制したのは莉沙だ。


「ねぇ、ママ! 響也が困ってる!」


「えぇ〜もっとお話ししたい〜」


「はいはい、後でね〜」


「あ、今日はよろしくお願いします!」


「全然いいよ〜ん」


 莉沙はお母さんの背中を押して車の方に押していっている。

 慌てて挨拶をして改めて莉沙のお母さんを見るとめちゃくちゃ若い。何歳だったっけ? 前に聞いた気がするんだけど忘れてしまった。

 20代って言われても全然違和感がない感じだ。


「おはよ〜ん」


 続けて来たのは姫路さんたちだ。

 後ろには宮田さんと一之瀬さんがいる。


「うっす!」


「こんにちは〜」


 姫路さんに続いて宮田さんが体育会系の挨拶。一之瀬さんは丁寧な感じで挨拶をする。

 宮田さんは女子バスケ部だっけ? そんな感じがめちゃくちゃする。

 対する一之瀬さんは吹奏楽部だったはずなのでらしい感じがする。


 軽く挨拶を返すと姫路さんが俺の方にやって来た。

 なんだろうか?


「ねえ、どうかな?」


 なんのことか、なんて聞かなくてもわかった。

 姫路さんの格好は……うん、真っ白なワンピースだ。

 それでお姫様のようにちょんとスカートのようになってる部分をつまんでいる。


 つまり、また褒めて欲しいということだ。

 慣れてないんだからやめてほしい。

 でも、前みたいに触るわけでもないしあの時ほど拒否しようとは思わない。


「えぇっと」


 でも、こんな場面今までにないし姫路さんの私服を見たのも初めてだし、こんなの姫路さんに似合わないわけがない。

 俺が言葉に詰まっていると何故か姫路さんの後ろの宮田さんと一之瀬さんが楽しげにこちらを見ている。


 見なくても後ろにいる大輝はニヤニヤしているだろうし、こんな視線を集められるも言えることも言えなくなる。

 だから、姫路さんに少し近寄って姫路さんにだけ聞こえる声で言った。


「に、似合ってると思うよ……。初めて見たけどうん……」


「他に言うことは?」


 潤んだ目でそんなことを言われる。

 なんでそんな無茶振りをさせてくるんだ。


「他にって……か、か、可愛いんじゃない?」


 恐らく正解であろう、答えを姫路さんに返すとポンと顔を真っ赤にした。

 多分、俺も赤い。頬がめちゃめちゃ熱い。


「は、85点!」


「………………え?」


 よくわからない採点をした姫路さんは背を向けて宮田さんたちのところへ逃げるように走っていった。

 しかも100点じゃないし。


 そうなるんだったら言わせないでくれ……。


「「おぉ〜〜〜〜〜〜〜〜」」


 宮田さんと一之瀬さんはなぜか俺も見て感心したような声をあげる。

 なんだよその反応。


「お前、何言ったんだよ?」


 何か予想をしているのかニヤニヤしながら近づいてくる。


「別になんにも」


 そっけなく返す。


「何にも言ってないのに姫路が顔真っ赤にしてんのか? さすがラブラブだな」


「だから、そういうのじゃないって言ってるだろ?」


 なんでそんな勘違いをするんだろうな?

 これからちゃんと説得しなければならない。

 姫路さんはどうせ俺のことをおちょくっているだけなのだから。


「はいはい」


「本当だからな? 余計なこと考えるなよ?」


「おう」


 さっきよりは真面目な返事になったけど、信じているかは微妙だな。

 まぁ時間が経てば信じるようになるだろ。


「うわ、俺最後かよ……。ってなんで姫路そんな顔赤いの?」


 そんなやりとりをしているうちに昴生がやってきて全員が揃った。

 

「お! 全員来たね! じゃあ行こっか」


 莉沙の声で俺たちは車に乗らせてもらった。


◆◆◆◆◆◆


 莉沙の家の車は2つあってそのうちの1つがワンボックスカーだ。

 俺たちはそれに乗らせてもらっている。


 席順は適当だ。

 普通にみんなで乗ったら男子3人が1番後ろで、女子は俺たちの前に座っている。


 各々好きなことを楽しく話している。


 俺は窓際の席で住宅街から徐々に家が減っていく景色を眺めている。

 莉沙のおばあちゃんの家がある町で開催される祭りは俺たちの住んでいる市から車で約2時間。

 

 移りゆく景色はだんだんと緑に変わっていき、田舎に向かってる実感がする。

 俺たちが集合したのが15時だ。それから時間が経っているから少しずつ日が傾いていて綺麗な草原がなびいている。


「夏祭りなんていつぶりだろうな」


 後ろで静かにしていた男子3人の中で大輝がポツリとつぶやいた。


「全然行ってないのか?」


「う〜ん。最近は行ってないな〜。最後は中学だっけ?」


「…………うん」


 大輝に聞かれて少し詰まってから答える。


「へぇ〜。俺は部活の奴らと去年も結構行ったなぁ」


 昴生はバスケ部だから、行く人はいっぱいいるんだろう。

 運動部ってやっぱり陽キャって感じがするし行くことが多いのだろう。

 女子バスケ部とかもあるしな。


「まぁ、俺らは部活やってないしな。去年とかは響也がドタキャンしやがったから行くのやめるかって話になったしな〜」


「ははは……あの時は悪かったよ」


 去年……高校1年生時は莉沙と大輝と近くでやっている夏祭りに行こうという話になった。

 最初は断っていたんだが莉沙があまりにもうるさいから思わず頷いてしまい、行くことになった。


 頷いてしまったからには行くしかないと思い、行く準備をしていた当日。

 でも、いざ行くとなったらやっぱり家からは出たくなくなった。


 だって、楽しくて綺麗で儚くてそれでいて思い出すと辛い過去なんて思い出したくないだろう。


 

 

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