第15話 勝負の行方と関係の変化……?
とんでもなく怖い姫路さんを見てから、お祭りのことについて少し話した俺たちは昼休みを終えた。
祭りは日曜日に行くことになった。花火を見てから帰ると少し時間が遅くなると言う心配こそあったけれど、そこら辺はまぁ許容範囲というやつだ。
しっかり全員行けるようでなによりだ。
今は、1週間ぶりの委員の仕事をしに図書室に来ている。
仕事といっても特にすることはないんだけどな。
そういえば、ちょうど1週間まえにここで変な鬼ごっこみたいなことをして勝負を仕掛けられたんだっけ。
今思えばなんでこんな無謀な戦いに挑んだのかよくわからないけど、結果的に俺の点数が頭より伸びたからよしとするか。
椅子に座ってぼーっとしていると、図書室の扉がガチャ音を立てて開いた。この時間に来るんだからもちろんあの人しかいない。
「ひぃっ」
その姿を見て俺は少しだけ怯えてしまった。
さっきの佐藤和希を罵倒するような目をまだしているように見えたからだ。
「何変な声出してるの?」
「いや……なんでもない」
俺のことを少し不思議に思いながら姫路さんはいつも通り隣に来る。
全く、自分が怖かったことを少しも自覚していないのか……。
「じゃあ、私の英語のテスト見る?」
既に嬉しさが滲み出ている顔で俺に聞いてくる。
こういうところ、好きじゃない。
「いや、別にいいよ。どうせ負けてるし」
「ほらほら、そう言わずに〜。見て!」
言いながらカバンを漁って出したテストを俺の目の前に広げる。
しかし、近すぎて全く数字が見えない。目の前に広がるのはただ真っ白な景色。
「近くてなにもみえないけど……」
「え〜? ちゃんと見てよ〜! 仕方ないなぁ…………ほら!」
見てって言われても見えないんだから仕方ないだろ。そう思っている俺のことなんか気にしないで姫路さんはテストを俺から離す。
そして点数の場所に目をやると――
「なっ!」
なんと点数は100だった……。
「え〜っと〜、響也は88点で私は100……ってことは私の勝ちってことでいいのかな〜?」
わざわざ確認するように俺を煽ってくる姫路さん。もう100点の時点で負けはないんだからそこまで嫌がらせしなくてもいいだろ……。
というか、100点なんて取られたら俺がどう頑張ったってどっちにしろ勝てる点数じゃなかったってことだ。
なんでこんなに点数取れるんだよ……。乗った俺がバカな気分だ。
「そ〜いうことになりますね」
「やったぁ〜! 私の勝ち!」
回転椅子の上でクルクルと回りながら両手を上げて喜んでいる。
本当に回るのが好きらしい。
あと、スカートでそれをやらないで欲しいんけど……次やったら注意しようそうしよう。
「それで? 俺にしてほしいことは?」
勝負で勝った方が負けた方になんでも1つお願いできる。
このルールがあるから俺は乗ったんだ。あの写真を消してほしいから。
けれど、結果は負け。
姫路さんの言うことを受け入れるしかない。
「う〜ん、じゃあ褒めて?」
「そんなことでいいの?」
せっかく勝ったんだからもう少し違うことをしてくると思ったんだが……。
「なるほど。そのくらいはしてくれるんだ?」
「なっ……まぁいいけど。すごいね、さすがです」
若干……いや、だいぶ棒読みで褒めてみる。
これくらいだったら別にお願いされなくたってやる。そんなに器の狭い男じゃない。
「だーめ。言ったでしょ? 体で表現した方が伝わるんだよ?」
「俺が内心褒めてなくても嬉しいの?」
「うん」
「なんだそれ……」
じゃあ伝わるも何もないじゃないか。
それにそんなことやったらまた前みたいにおちょくられて終わるだけだ。
もう引っかからないからな。
「………………」
「もしかして前みたいにされると思ってる?」
俺が黙って怪しげな視線を姫路さんに送っていると俺の思考を完全に読んで顔を近づけてくる。
「そうだね。信用ならない」
「うわ、ひどっ! 大丈夫、今回はやらないから」
「いや、絶対やるね」
「じゃあ、やったら私の言うこと聞かなくていいから」
「本当?」
「まじだよ」
それなら別にいいか……。
俺は撫でるのが嫌なんじゃなくておちょくられるのが嫌なんだ。
なんか弄ばれてるみたいなんだよなぁ……。多分そうなんだけど。
姫路さんは美人だしみんなの人気者だからそう感じるのかもしれない。
姫路さんは1週間前と同じように俺に頭を向けてくる。こちらから姫路さんの表情は見えず見えるのは綺麗な黒髪だけ。
俺は仕方なく手を少しずつ近づける。
この前と同じように少しずつ。
もう少しで姫路さんの頭に触れるところで少し体温を感じた気がして手が止まる。
なんだか変に緊張するな……。
「ねぇまだ〜?」
「い、今やるから」
急かされた俺はそのまま姫路さんの頭に右手を触れさせた。当てるというよりは添える感じで。
触れた瞬間姫路さんは少し体をビクッとさせたけどそれだけでそのあとは普通にしてる。
こんな感じで嬉しいのだろうか?
「これでいいの?」
「うん、いいね」
「じゃあ……」
「だめ! もうちょっと!」
「えぇ……」
なんかただ手を置いているだけなのは変な感じがして少しだけ左右に摩ってみる。
姫路さんがどんな顔をしているのかわからないから、いいのか悪いのかもわからない。
いつまで続ければいいのか、戸惑っているとガチャンと音が鳴った。
「うわ……まじでいるじゃん」
「「………………………………」」
俺たちは入ってきた大輝を見てそのままの姿勢で固まった。
◆◆◆◆◆◆
大輝に変な場面を見られた俺と姫路さんは椅子に正座をして座っていた。
大輝はカウンターにちょこんと座っている。
「へぇ? それでなんだかんだお前が委員の時は姫路がここに来てたと?」
「はい……」
今はなんで姫路さんがここにいてどういう関係なのかを大輝に伝えたところだ。
この状況じゃ隠しようがないし、仕方がなかった。別にやましいことをしてるわけじゃないからな……? いや、さっきのはちょっと怪しいな。
「別にやましい関係ではないってか?」
「それは本当だって」
「そうなのか? 姫路」
「うん、そうだよ」
「頭撫でられて?」
「それは! 本当にたまたまだから! タイミングが悪かったんだって!」
「ふ〜ん?」
大輝は全く俺たちのことを信じていないような反応だ。
確かにあんな場面を見たら俺たちの言うことを信じてくれるわけもないだろう。俺だったら信じない。
でも、やましい関係じゃないのは本当だ。けれど、今これ以上説得したところでどうにもならないだろう。
だから、今度時間が空いてから説得することにしよう。
「でもなんでここに来たの? 今まで1回も来なかったでしょ?」
確かにそれは疑問だった。
そもそもこの高校の図書室なんて誰も訪れることがない。みんな活発だから部活をやっているし今の時代、本を借りる人なんていないからだ。
それに大輝は今までここに来たことがないからなぜこのタイミングで来たのかがわからない。
俺の家にきた時は、考えすぎとか言ってたから誤魔化せたと思ったんだけど。
「あぁ、それか。普通に怪しいと思ったからだ」
「え、だってあの時考えすぎって……」
「あれは嘘だ」
「「えぇ……」」
策士かよ……。
普通に誤魔化せたと思ってたのに。
「だって、響也って2回も言ったのは聞き逃さなかったし安心させた方がいつも通りにしてくれるかなと思ってな」
響也って2回……。1回は俺の家に来た時もう1回は――――あ、俺が殴られた時か。
確か、あの時そう読んでいた気がする。
殴られた直後だから記憶がはっきりしないけど。
「でもでも! なんで図書室ってわかったの?」
姫路さんは抗議するように大輝に問い詰める。
確かにそれは気になる。俺たちの仲を怪しいとは思っても図書室ってわからないだろう。
「それは勘だ」
「「えぇ……………………」」
なんだこいつ。意味わかんねぇ。
ちょっと怖くなってきた。姫路さんも引いている感じだ。
昼休みの姫路さんくらい怖い。
「でも、ここだと思った理由はあるぞ」
俺たちは黙って続きを待つ。
大輝は教師のような口調で俺たちに説明を始めた。
「前、姫路と響也が一緒に帰ったって噂流れたろ? あん時に帰宅部の姫路が一緒にいるのが変だと思ったし、響也の反応が変だったからな」
ギロッと姫路さんの目がこちらを見る。
俺は両手を見せて横に振る。こんなのひどい、俺のせいじゃないのに。
「まぁ、そう言うわけだ。気になってたこともわかったし俺はここら辺でおいとまするわ」
自分の用が済んだと、すぐに立ち上がって図書室の出口に向かっていく。
こちらを見ずにひらひらと手を振っている。
「お幸せになぁ〜〜〜〜」
「「うるさい!!!!」」
そういう関係じゃないって言ったのにな……。
これは今度しっかりと説得しなければならない。
しっかり声が揃った俺たちは大輝に無駄なことを言われたからか少し気まずい空気になる。
本当に付き合ってないんだからやめてほしい。
というか、俺と姫路さんが付き合うとかおこがましい。
「ねぇ」
少しの沈黙のあと、姫路さんが遠慮気味に俺の方を見る。
「確認だけどさっきのやつ、お願いに入ってないからね」
「嘘だろ……………………」
そういえば、そのくらいやるとか言ってたんだった。
見つからなければよかったんだろうけど、大輝に見られてしまったから最悪だ。
じゃあ本当のお願いは一体なんなのだろうか。
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