第13話 テストの打ち上げ

 司に殴られてから4日経った。

 今日はテストの最終日だった。


 莉沙のおかけで落ち着くようにはなったけど勉強に集中できるほど切り替えは出来てなかった。

 日曜日は全然集中できないまま月曜日を迎え、英語のテストを受けた。


 多分、目標点数の80点はいってると思う。けれど、姫路さんとの勝負には負ける気がする。

 それくらいの点数になるのがわかる。


 他の教科は特に苦手な科目がなかったから、あまり点数には影響がなく、いつも通りだと思う。

 まぁ、テストが返ってこないとわからないけど。


 大輝たちは普通に接してくれている。

 急に司が怒って意味がわからなかったはずなのに何も聞いてこない。

 それが興味がないのか気を遣ってるのかわからないけど……いや、絶対後者だ。


 俺はなるべくいつも通りにしてるつもりだけど、いつも通りにしようとしてる時点で多分違う。

 だから、いつまでもこのままじゃいけないと思ってはいるけれどそんな簡単に切り替えられるような話でもなかった。


 現にテストが終わり学校から早く返ってきたのに、こうやって家のリビングでぼーっとしてるんだから。

 今日は水曜日だけど委員は休み。こういう時は大輝とかと遊ぶんだけど今日はさっさと帰ってきた。

 俺が変な雰囲気なままなのは迷惑だからな。


 そのまま何もすることなくぼーっとしているとピンポーンとインターホンが鳴った。

 今は14時だ。いつもなら家にいない時間だし宅配の人でもきたのか?


 ソファから立ち上がりモニターを覗く。


「はぁ……」


 画面の向こう側にいたのは大輝と莉沙と姫路さんだった。

 せっかく迷惑かけないように帰ってきたのにわざわざ家にまで来るとは。

 仕方なく応じる。


「はい……。何の御用でしょうか」


「何その口調……。テスト終わったから打ち上げしよーっと思って」


 打ち上げね…………。今までそんなことしてこなかっただろうが。

 これも俺に気を遣ってくれてるんだろうか。


「いや、俺は別に――」


 断ろうとした時ふと、少し前の言葉が蘇る。


――――頼ってほしいな


 莉沙と帰った時に言われた言葉だ。


 俺がいると迷惑だと思ってるのは多分俺だけでこの3人は俺のために来てくれている。

 じゃないとわざわざ来てくれないだろう。

 

「ちょっと待ってて開ける」


 俺は答えを変えて玄関の扉を開ける。

 すると、すごい大きいレジ袋を持っている大輝たちがいた。

 俺の目線に気付いたのか大輝が袋を持ち上げる。


「あぁ。打ち上げなんだからなんかあった方がいいだろ?」


「そうだな」


「お〜響也んちだ〜」


「当たり前でしょ」


 誰の家に来たつもりなんだ。

 でも、姫路さんは俺の家に入るのは初めてなんだしこんな反応でもおかしくないか。


「「ん?」」


 すると、大輝と莉沙が声を揃えた。

 

「どうした?」


「ん〜? いやなんでもない! 早く入れて!」


 俺が聞くと莉沙はすぐに何事もなかったように俺の背中を押して家に入ってくる。

 大輝は何も言わずに難しい顔をしていた。




 最初はリビングに入れようかと思ったけど、みんなが俺の部屋がいいって言うから仕方なく階段を上がり俺の部屋に入れた。


 大輝と莉沙はいつも通りすぐに腰を下ろしている。

 しかし、1人でだけ変な行動をしている人がいた。姫路さんだ。


 姫路さんは俺の部屋に入るなり、すぐにベッドの下を見始めた。

 その格好だと見えちゃいけないとこが見えそうなのでやめてほしいんですけど……。そんなことも気にせず何かを探している。


「何してるの……?」


「ん〜? いや、やっぱ男の子がえっちなビデオとか本とか隠すならベッドの下が定番かなと思って」


 確かに漫画とかドラマとかだとそういう場面はよく目にするけど実際はそんなことないだろう。

 そもそもビデオとか本とか持ってる人いるのか?


「いや、最近はみんな携帯……あ」


「へぇ〜〜〜〜?」


 しまった、と思った時には姫路さんは既に怪しい笑みを浮かべていて俺の手にある携帯を見つめる。

 見つめながら体勢を起こすと俺に向かって一直進してきた。


「なんだよ!」


「見せなさい! お姉さんがチェックしてあげるから!」


 俺が避けてもすぐに取ろうとしてくる。

 そんなに気になるのか……。姫路さんもそういうの興味あるのか。

 いつかの図書館の鬼ごっこみたいなことをしてると大輝と莉沙が固まっているのに気付いた。


「おい、助けろよ!」


「いや、やっぱり勘違いじゃないだろ」


「なんの話だよ!」


 俺が姫路さんに追いかけられてるのになんて呑気な。それに勘違いってなんの話だよ。

 絶対、今関係ないだろ!


「お前ら、いつからそんな仲良いんだ?」


「「え?」」


 俺たちは2人揃って動きを止める。

 完全にやってしまった。いつも通りの俺たちを見せてしまった。

 前は姫路さんのおかげで誤魔化せたけど今回はそうもいかない気がする。


「だから、浅野くんの勘違いだって」


「いいや、お前らはこんなやり取りするほど俺たちの前で話してないし、それに」


 少し溜めてから大輝が姫路さんにばっちり目線を合わせていった。


「姫路が響也のことを響也って呼んだのは2回目だ」


「……………………」


 だめだ! 姫路さんは完全にフリーズしてしまった。俺は姫路さんから呼ばれる時に特に気にしていなかった。

 確かにさっき家の前で俺の名前呼んでたな……。でも、2回? もう1回は思い出せない。

 

 俺と姫路さんが固まっていると大輝は真面目な表情から一転、笑みを浮かべた。


「なーんてな。考えすぎだよな。でも、これでお前も普通に戻ったっぽいな〜」


 はぁ……焦った。

 じゃあ今のは冗談で俺を元気にするために言ったのか? あんまり元気にはならないかったけど。

 

 でも、いつの間にか戻ってる気がした。いつも通りに。


「なぁ、響也。コップくれると助かるんだけどいいか? せっかく買ってきたし」


 レジ袋の中をチラリと見せられる。

 確かにそのまま飲むわけにもいかないしな。


「取ってくる」


 俺は一言いって1階へ戻る。

 人数分のコップを手に取り階段を上がっているとなにやら賑やかな声だけが聞こえてくる。

 

 また変なことされてないだろうな……。

 ちょっと心配になって駆け足で階段を上がりすぐに部屋の扉を開く。


「ちょっとなにして……って卒アルか」


 はしゃいでいたのは姫路さんで俺の中学の頃の卒アルを見ていた。

 まぁ確かに気になるよな。俺も姫路さんの卒アルは見てみたい。


 姫路さんが見てるのはもちろん俺のクラスで俺の顔を見ている。


「ねぇ、全然変わってないよね。あ、でもちょっとだけ表情柔らかい?」


「そうかもな。こいつ中学の頃より大人っぽくしようとしてるから」


「いや、大人っぽくなったでいいだろ」


 なんで余計なことを言うのか。

 表情が柔らかいのは事実だけど理由はそうじゃないことを俺も莉沙も大輝も知っている。

 知らないのは姫路さんだけだ。


 ふと、俺のクラスのページの女子の方に目をやる。そこにいるのは――


「莉沙とか気にならないか?」


「なるなる!」


 俺はその顔を見てさりげなくページを変えた。

 大輝は3年のとき同じクラスだったけど莉沙は違う。ちょうどいい言い訳になった。

 多分、ぎこちなくできたと思う。


「え〜髪、黒!」


「そりゃあ染めたの高校からだし、あたしが染めた理由忘れたの?」

 

「あはは、そうだった」


 2人の意味深なやりとりが少し気になる。

 莉沙が髪を染めた理由? 普通に染めたかったからじゃないのか?

 うちの高校は髪色自由だし、莉沙が染めたのは1年の割と最初の方だったから染めれるのを知って染めたのかと思ってた。

 けれど、他に理由があるらしい。


 テンションの上がってきた姫路さんは次々にページをめくる。俺たちのクラスは1組だったしもう見られることはないだろう。


 体育祭のページに行くと俺と大輝のツーショットがあった。


「ねぇ、なんでこれこんな顔してるの?」


 指を指してるのは俺の顔だ。

 大輝に肩を組まれた俺はめちゃめちゃ嫌そうな顔をしている。

 なんでだっけ? そもそもこんな写真載っけるなよ……。


「これは体育祭で賭けしててさ、こいつが負けた直後に撮った写真だ」


「あ〜だから浅野くんは満面の笑みなのね」


「そういうこと」


 確か100メートル走でどっちが速いか見たいな単純なやつだった気がする。

 賭けたのもジュースで別にそこまで痛い出費じゃなかったけど、あまりにも大輝が煽ってくるから鬱陶しくなったんだ。

 懐かしいな。


「じゃあ負けず嫌いなんだね」


 俺の目を見て姫路さんは笑う。

 

「そうかもな……。こういう勝負は負けるのが嫌で真面目にやってたから大体勝ってた」


 この時は普通に負けたけど……。大体の勝負は勝ってきた気がする。本当だからな?

 そもそも負ける確率が多い勝負はしないことにしているし。


「ふ〜ん? じゃあ、今回はどうかな?」


「………………」


 余裕のある笑みで煽るような視線を送ってくる。


 大輝と莉沙はなんのことかわからない顔をしている。そりゃそうだろう、2人だけの勝負なんだから。


「早く結果が知りたいね」

 

「あぁ……」


 俺は自信なさげに頷く。


 それから卒アルをしまった俺たちはテストの話になり、ここができたとかあれが難しかったとかそんな話になった。


 そこからどんどんと話が外れ雑談になっていって俺たちは日が暮れるまで部屋で喋っていた。

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