第11話 昔の友人との再会……
結局、あの後から何も話の進展はなくてただ雑談をするだけになった。
昴生はなんだか納得したみたいだし、姫奈も普通にしている。
最後になんか意味深なやりとりがあったけど、あたしには全然理解できなかった。
それに響也たちの話も聞きそびれちゃったし! もう!
どっちも中途半端に聞いちゃったから気になる!
今はご飯を食べ終わってみんなで店を出たところだ。
ここからは、みんな家の方向が違うからバラバラに帰ることになる。
あたしは、響也と大輝それから姫奈と帰っていた。
そして店を出た時から前を歩く大輝と響也の様子が変だ。
響也はなんか浮かない顔をしている。さっきの話かな? 何話したんだろ。
いつも大輝とくっついて歩いているのに、今は微妙に距離がある。多分、あたし以外は気づかないような距離感。だけど、何かあったのはわかった。
「ねぇ、莉沙」
「ん〜?」
2人のことを気にしていると、横を歩いていた姫奈が声をかけてきた。
姫奈はいつも通りだ。
「あの2人なんか変じゃない?」
……姫奈も気づいていたみたいだ。
ちょっとびっくりした。あたしと姫奈では響也たちといる時間が違う。
響也とは小学校から、大輝は中学校からだ。でも、姫奈は高校からだから一年とちょっとだ。
それでもこんな些細な変化に気づいたのだからすごいなと思う。
「うん。だいぶ変だよね」
「やっぱり? 莉沙がそう言うなら間違いないね」
2人ともその変化に気づいたけれど、だからと言って何かをできるわけじゃなかった。
多分こうなった原因はあたしが聞きそびれちゃったさっきの話だと思う。
だけど、何を話してなんでこうなったのかがわからないから何も言えなかった。
普通に何があったか聞ければいいんだけど、響也の表情が少しいやだいぶ暗かったからそうできなかった。
すると、前からガラの悪い男たち3人が歩いてきた。
といっても、学ランを着崩しているくらいでちょっとチャラいくらいだ。
普通にすれ違う。
すると、「あっ」と声を出して後方の足音が止まった。
周りに人は歩いていなかったから、気になって振り向く。
あたしだけじゃなく4人みんなだ。
「うわ! やっぱり大輝じゃねぇか!」
「ん? おぉ
振り向いた人は3人の真ん中を歩いていた人だった。大輝と知り合いみたい。
それでよーく顔を見てみたら大輝が司って言った人が誰かすぐにわかった。
中学校が一緒だった
あたしとは1年生の時だけクラスが一緒だった。あたしはたまに話すくらいだったけど響也と大輝は仲良かったはず。
特に大輝と司は中学も一緒だったはず。
司は大輝にしか気づいていないのか、大輝に近づいていく。
「久しぶりだなぁ。あんま変わらないんだな」
「そっちは、だいぶ変わったみたいだな司」
大輝はふっと笑いながら答える。
大輝の言う通り司はだいぶ変わってた。
中学1年だけ一緒だったっていうのもあるけど、髪が長くて後ろで結んでるし中学の時は制服をここまで着崩す人じゃなかったからだ。
「そうか? まぁ、確かにちょっと変わったかもな。なにしてたんだよ?」
「あぁ、勉強会ってやつだ。それ終わった後に飯食ってた」
「勉強会ねぇ……大輝は偉いな」
「いや、俺も誘われなかったら行ってねーよ」
間違いない。
大輝は勉強くらいだからなぁ。
「じゃあ、俺行くわ。あんまり話すと周りに迷惑……って莉沙か?」
話しながら視線をあたしたちに向けた司はようやくあたしに気づいたみたい。
まぁ、無理もないか。あたしだって髪は金色なわけだし。
「おひさ〜」
「おぉ、久しぶり。なぁ大輝、俺より変わってね?」
「あぁ、ぐれたからな」
「ぐれてないし!」
3人で目を合わせて笑う。
こうやって昔の知り合いとたまに話すのは楽しいなと思う。
まぁ、大輝がいなくて司と2人きりだったらこうなってたかはわからないけど。
そういえばさっきから響也が何にも話していない。あたしなんかよりも、司と話すことがありそうなのに。
気になって響也の方を見てみると、俯いていてなにも話す気配がなかった。
緊張してるのかな? 仕方ないなぁ。
「ねぇ、司。あのさ――」
「てめぇ、響也か?」
あたしが響也に話を振ろうとしたタイミングで司が響也の方を見る。
気づいたみたい。
だけど、さっきまでの声色とは打って変わってすごく低い声になっている。てめぇって……。
ちょっと怖かったくらいだ。
「そうだけど……」
響也が恐る恐るといった感じで顔をゆっくりあげながら答えた。
それを確認すると目つきを鋭くした司は響也に詰め寄る。
ものすごい迫力と勢いだ。司はバスケ部だったから体が大きいこともそう見える理由かもしれない。
「よう、久しぶりだなぁ。元気にしてたか?」
「ま、まぁ……元気だけど」
響也は司に目を合わせることなく答えた。全体的にいつもより縮こまってる感じがする。その目は泳いでいていつもとは違う雰囲気だ。
どうしたんだろ?
あたしのイメージでは仲が悪いってことはなかった気がする。
あたしは響也たちとクラスが3年間違ったけどよく遊んでて、いつも響也たちのクラスに行けば一緒に話しているのを見かけてたし。
3年生の時は雛那が転校しちゃってその回数も減っちゃったけど。
そんなイメージだから今の2人の雰囲気には違和感がある。
他人が見たらどう頑張っても仲が良くは見えない雰囲気、一触即発みたいな感じ。
特に司が今にも怒鳴りそうなくらい近づいていた。
「そりゃそうだろうな。あんな可愛い女連れてんだからな」
そう言って姫奈の方を見た。
姫奈はちょっと怖がってあたしの背中につく。
「ちょっとなに? その言い方」
あたしは咄嗟に口を出した。
司は女の子のことを女って乱暴に呼ぶ人じゃないと思ってた。少なくとも中学までは。
それにあんな言い方したら誰だって怖がるに決まってる。
だから注意したんだけど司はあたしの声が聞こえてないみたいだった。
「………………」
響也はずっと黙ったまま。
なんでなにも言わないんだろ。それにずっと弱腰だし。
中学のころはこんな話し方じゃなかった。
ていうか、同級生だったらこんな雰囲気にならないでしょ。
「へぇ、否定しないんだな? お前もう忘れたのか? 雛奈のこと」
え? 今、雛奈って言った?
なんで今その話が関係あるの?
「……ねぇよ」
響也はボソッと独り言のように何かを呟く。
「あ? 聞こえねぇよ」
司は脅すようにさらに詰め寄る。
「忘れるわけねぇよ」
やっと声が出た響也からはそんな答え。
そんなの当たり前だ。響也が雛奈のこと忘れることなんてあるわけない。
「はっ。じゃあなんだよあいつは」
また視線をこちらに向ける。
あたしじゃなくて後ろにいる姫奈に。
「おい、なんなの急に。姫奈は関係ないでしょ」
あたしは我慢できなくて司に言った。
さすがにあんなことを言われたら黙っているわけにはいかない。
今度はちゃんと聞こえてたみたい。
「は……? あいつひなっていうのか?」
「そうだけど……」
それを聞いた瞬間、司は響也の胸ぐらをがしっと掴んだ。
すごい力が入ってるのがここからでもわかる。
響也はされるがままだ。
「とんだ皮肉だなぁ! てめぇ雛那にあんなことしといて次はまた違うひなってか!?」
「おい、やめろよ!」
大輝が急いでとめにかかる。
あたしは姫奈が後ろにいるからなにもしてあげられない。
大輝の静止の手を思いっきり振り払った。
そこにさっきまでの司の影はなかった。
「止めるってことはお前も知らないんだな? こいつがなにしたのか」
倒れ込んだ大輝に司が聞く。
響也が雛那に……? 確かに1番雛那と関わりがあったのは響也だけどそんな話は知らない。
何かっていうのが曖昧だけど、多分今の話は雛那に何か嫌なことをしたとかそういう意味だと思う。
じゃないと司はこんなに怒らないしそれ以外で怒ってたら意味がわからない。
「ってぇな……。なにしたって? お前が怒るようなことしたなんて聞いたことねぇよ」
「やっぱり知らねえのか。こいつはな――」
「やめろ!」
ここにきて響也がやっと司の胸ぐらを掴み返しながら声を出した。
それも辺りに響くような声量で。
「あ? 自分が嫌われるのが怖いか? 」
「……」
響也はまた黙る。
すぐに胸ぐらを掴んでいた手から力が抜けていくのが目に見えてわかった。
全然なにが起きてるかわからない。
どうしたらいいんだろう?
「とんだ臆病もんだなァ!」
響也がまた黙ったのを見て顔を完全に怒りに染めた司は掴んでいた両手のうち右手だけを離して思いっきり振り上げる。
そして響也の顔を思いっきり殴った。
あたしは咄嗟に状況が理解できないで固まった。
「響也!」
「てめぇ、なにすんだよ!」
最初に叫んだのは姫奈だ。
さっきまで隠れていたのにいつの間にか背中から抜け出した姫奈は響也に駆け寄る。
ちょっと遅れてあたしも駆け寄った。
大輝はすぐに立ち上がり司の胸ぐらを掴む。
今にも喧嘩が始まりそうだ。
「響也! 大丈夫!?」
「平気だ」
「そんなわけない!」
すぐに体を起こそうとする響也を止めて、すぐにポケットから出したハンカチで響也の頬を優しく撫でる。
頬は地面に倒れた時に擦ったのかちょっと傷がついていて、鼻からは血が出ていた。
「あたしティッシュあるから」
鼻もハンカチで拭こうとしていたからティッシュを使った。
これくらいしかできることがない……。
「お前には関係ねぇだろ!」
「は? 急に人殴っといて何言ってんだてめぇ」
あたしたちの横では司と大輝が思いっきり睨み合っていた。
今にも殴りかかりそうな大輝を見て後ろから司の連れの人たちが両腕を掴んだ。
「離せや!」
「無理」
「さすがにお前やってることやばいぞ」
1人は冷静に。もう1人は非難するように司に声をかける。
2人に引っ張られた司はずるずると後ろに下がる。
「うちの司が急にごめん」
連れの人が謝る。
「申し訳ないけど今あんたら関係ないだろ」
「確かに関係ないけど、さすがに人殴ったら見過ごせないよ」
見た目はチャラいけど意外と落ち着きがある。
「本当は今すぐここで謝らせたいんだけど、こいつこうなったらしばらく止まんないからさ後日改めて謝罪に来るから、今日のところは見逃してやってくれない?」
多分、この人たちも状況を知らないはずなのにすごい落ち着いてる。
確かに今ここで解決はしなさそうだった。
あたしも理解するのに時間欲しいし。
「いいや、無理だな。警察に通報してもいいレベルだ」
「やめろ、大輝」
警察なんて物騒なワードが出た瞬間止めたのは響也だ。
人を殴るなんて暴行罪ってやつになるはずだ。
だから今呼んだって響也にとってはいいことのはずなのになんで止めるんだろう。
「は? お前殴られたんだぞ?」
「あいつは何も悪くない」
「何言ってんだ? 俺は許せないな」
そう言って大輝は司に殴りかかる。
2人が腕を抑えてるから司は抵抗できない。
「大輝!」
響也の力強い声が響く。
振りかざした手が司の目の前で止まる。
大輝はすぐ頭に手をやりぐしゃぐしゃと頭を掻いた。
「あぁもう! わーったよ。殴らなきゃいいんだろ」
まだだいぶイライラしてるみたいだけど、なんとか抑えたみたい。
殴ったら大輝も同じになっちゃうから止まって良かった。
「それじゃあ後日」
落ち着いている人がそう言って司を連れて帰る。
それを見た姫奈が立ち上がった。
「あの!」
姫奈の声に3人が振り向く。
「次同じことしたら許さないから」
聞いたこともない姫奈の低い声。
顔は見えなかったけど、多分すごい怖い顔をしてるのがわかる。
それを聞いた司は何も言わずにまた顔を前に向ける。
顔を戻す僅かな瞬間で見えた司の表情が恐怖の色に染まっていたのは見間違えじゃないと思う。
あたしは何も出来なかったな…………。
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