第10話 もう1つのテーブル

 あたし、はちょっと気まずいテーブルで困惑しながらも頼んだメニューが来るまでの間携帯をいじっていた。


 なんでこんなグループ分けになっちゃったんだろ。ほら、あっちは一花と彩で仲良いし響也と大輝は言うまでもないでしょ?

 だから男子同士と女子同士で仲良かったらそれなりに話すこともあるじゃん?


 けど、こっちは違う。

 あたしと姫奈は仲良いけど目の前の2人はそんなに仲良くない。というか話してることを見たことがない。

 あたしは昴生なら話すけど隣にいるヤツとは話さないし。


 それに2人とも携帯を見てるしそもそも会話が起きる気配もない。

 やっと勉強も終わって楽しく話せると思ったのになぁ。

 

「響也くん、好きな人いないの?」


 あたしたちが沈黙の時間を続けていると後ろの席から面白そうな話題が聞こえてきた。

 響也の好きな人。

 そんなワードを聞いた瞬間、全部の意識が後ろの席に向いた。


 もちろん、体は前を向いたまんまだけどめちゃめちゃ集中して耳を傾ける。

 だってめっちゃ気になる!


 響也の好きな人の話なんて中学からしてないし、今の響也の好きな人がわかったらあたしのがめっちゃ変わる。

 あれ? 響也の好きな人がわかってもあんまり変わんないかな?

 でも、気になるしとりあえず耳を傾ける。


「いないけど」


 もぉ〜〜! めっちゃつまんないじゃん! それになんでちょっと尖った言い方してんの!

 まぁ無理もないかもしれないけど……。


 しばらく聞いていると次は気になる人がいないのかって話になった。

 好きじゃなくても気になるくらいだったら……そう思ったけどまた響也の答えはいないだった。


 ちょーつまんない! なんなの? 高校生なのにいないわけないじゃん!?

 あ、あたしはいないけどね? 特別だから!


「嘘だろ」


 え? 急に大輝が話に割り込んできた。

 ほら、やっぱり隠してたんだ! やっぱり響也にも好きな人いるのか〜。


「ねぇ、姫路さんの好きな人って誰なのかな?」


 あたしの意識は急に左斜め前に向いた。

 そこにいるのは佐藤和希だ。

 今めっちゃいいとこだから黙っててよ! 


「………………私の好きな人?」


 かなり間があってから姫奈が返事をした。


「そう。一応僕も佐藤だからさ、気になっちゃって」


 まぁ……確かに気になるかも。

 あたしも姫奈の好きな人は知らないし、多分誰も知らないと思う。

 だって今広まっている噂は広まってるんだから。

 

 あたしたち以上に姫奈の好きな人を知っている人はいないと思う。

 姫奈も全然教えてくれないし……。


「へぇ、気になるんだ?」


 さっきまでぼーっとしていたけどすぐに顔をいつも通りにした姫奈は煽るような顔で佐藤和希を見る。

 まぁ気になるって言っちゃってる時点で佐藤和希が姫奈をどう思ってるかはなんとなくわかるけど。


「ま、まぁそうだね」


 佐藤和希は少し照れている。

 ……わかりやっす。


「う〜ん。自分の好きな人をそんな軽く言えるならもう言ってるよ」


 その通りだ。自分の好きな人なんて簡単に言えるわけがないし、言ってそれが広まったら告白しなくても相手に自分の感情がバレちゃう。

 そんなの怖い。

 だから、佐藤和希なんかに姫奈が教えるわけがないと思う。


「まぁそうだよね……」


 勝手に聞いて勝手に落ち込んでる。

 まず、聞かなくてもこいつじゃないのはあたしでもわかる。


「じゃあちょっとだけヒントあげるよ」


 え、まじ?

 あたしたちにも教えなかったのに! もしかしてあいつのこと……はないか。

 

「なんか聞きたいことあったら聞いていいよ。3つだけね」


 しかも3つ! なんでそんな言う気になったの!

 あたしたちにはなんも教えてくれないのに!

 

「じゃあ、その人はカッコいい人?」


「カッコいいよ。大体好きな人ってカッコよく見えない?」


 姫奈がカッコいいって言うんだからそれなりにカッコいいんだろうな〜。

 けど、全然見当つかないや。


「よし。じゃあ、何組かな?」

 

 いや、なにがよしだ。

 自分のことカッコいいと思ってるんだろうな。そういうとこがき…………かわいそうだからやめよう。


 それに何組かなんて言うわけないじゃん。

 言ったらいくら苗字が佐藤だからって絞れちゃうし。

 仮にうちのクラスだったら今このファミレスいる佐藤くんの誰かってことになっちゃうし。


「1組」


「え!?」


 言っちゃったよ! 言っちゃった!

 思わず最初に声を出したのはあたしだ。

 だって今まで言わなかったのに! なんでこんなやつに聞かれて答えるのさ!


 それに1組って! あたしたちのクラスじゃん!?

 ってことは、ここにいる誰かってことになるわけでしょ?


 姫奈…‥もしかして本当にこいつのこと……。

 だとしたらあたしが守ってあげないと。こいつ絶対ロクな男じゃない。


「お、おぉ……そうなんだ」


 まさか、答えてくれるとは思わなかったみたいで佐藤和希はちょっと驚いている。

 その気持ちだけはよくわかる。


「じゃあ、あと1つね」


「じゃあ、なんで噂が広まったんだよ」


 急に話に入ってきたのは昴生だ。

 さっきまでは黙って聞いていただけなのに急に興味を持ったのかな?


 それに好きな人のことについて聞くはずなのに、聞いてきたのは全然違う質問。

 確かに関係ないことはないけど、そんなことに使っていいのかな?


「ちょっと、僕が質問してるんだけど」


「誰がお前だけって言った」


「それに好きな人についての質問じゃない」


「関係ないことはないだろ」


 え、なになに。なんか喧嘩しそうなんだけど。

 仲良くないのはわかってたけど、もしかして仲悪い感じ?

 あたしがどうしようかあたふたしてると姫奈が2人を宥めるように言った。


「じゃあその質問に答えようかな。私も自分の好きな人バレるようなことは言いたくないし」


 まぁ、そうかもしれない。

 けど、もう好きな人いってるようなもんじゃない? だって目の前にいる2人か後ろの響也、この中の誰かってことでしょ?


 ちょっと、言い過ぎな気がするんだけど……。

 それにあたしは元々なんとなくわかってたのがほぼ確信に変わっちゃった。

 やっぱりそうなのかな。


「姫路さんがそう言うなら……」


 佐藤和希は渋々頷いた。

 姫奈に弱すぎる。


 すぐに話し始めるのかと思ったけど姫奈はなかなか口を開かない。

 どうしたのかと思ってたらこっちを見てじーっと見つめてくる。まるで「言ってもいいの?」って言ってるみたいだ。

 多分、本当にそんなことを思ってるんだと思う。


 なんであたしたちに気を遣っちゃうのかなぁ。あたしたちが悪いのに。

 そういうところも姫奈っぽくて好きだけど。


 姫奈が言いづらそうにしてるからあたしから言うことにする。


「それはあたしが話すね。でもさ、なんでそんなこと気になるの?」


 昴生に聞いてみた。

 もし、男子が佐藤って苗字だったら普通は佐藤和希みたいな反応になる気がする。

 噂の真偽はあまり気にしないと思う。だから気になった。


「あ〜それは今までそんな噂なかったのに急に出てきたことと、姫路ってそんな簡単に自分の秘密を広めるようなことしないと思って」


 昴生の言う通りだった。

 姫奈はなんでも完璧にこなしちゃう。だから今までも色恋話みたいなのは1つもなかった。

 だいぶ人を選んで話すことを決めてるっぽいから。ガードが硬いんだよね。


「なるほどね。その通りだと思うよ」


 あたしは続ける。


「実際今回もさ、姫奈は広めたくて広めたわけじゃないし」


 そうは言っても噂なんて広まって欲しくない人がほとんどだと思う。

 何かの大会で優勝したとかそういういい噂ならいいけど今は違う。


「先週の土曜日さ、今ここにいる4人の女子で遊んでたんだよね。それでこことは違うファミレスに行ったんだけど」


 先週の土曜。噂が広まる月曜日の少し前のこと。

 あたしは、ゆっくりと経緯を話していく。


「それでやっぱり女子って恋バナ好きだからさ、そういう感じの話になったわけ」


 最初は好きな俳優とかそんな話だったけどいつの間にか恋バナになってた。

 どんな人がタイプとか、逆にこういう人は嫌だとか。誰しもがしているような普通の話。

 それで最後は好きな人いるかいないかみたいな話になった。


「最後に好きな人がいるかいないかって話になってさ。みんな色々言ったんだけど、最後に姫奈が苗字が佐藤の誰かが好きな人って言ったんだよね」


 今、学校で広まっている噂とほぼ変わらない言葉だった。

 あの時は本当にびっくりした。いる人とかいない人とかバラバラだったけどさすがにここまで絞れることを言う人はいなかったから。


 それに昴生も言ってたけど姫奈はそういう話を言わないタイプだ。

 だからなおさら驚いた。


「それでさ、ファミレスなの忘れてすごい大声で姫奈に色々聞いちゃってさ」


 多分、大声って言ってもそんなに大きくはなかったかも。でも、3つ隣のテーブルくらいまでなら聞こえそうな声だったかも。

 どっちにしろ迷惑……。


「そしたら、たまたま後ろが4組の子でさ〜聞かれちゃったっぽくてそれで広まっちゃったって感じ」


 あの時は完全にやらかしたと思った。

 だって、顔は知ってたけど全く話したことない子だったしなにより姫奈の好きな人の情報が全部バレちゃった。


 姫奈もその子のことは知らなかったみたいだけど、学年中の人は大体姫奈を知ってる。

 だから、すぐに広まっちゃった。


「だから、あたしたちが悪いんだよね。こんな噂を広めちゃったし」


「なるほどね。じゃあ最後に1つだけ姫路に聞きたいんだけど」


 昴生はあっさり納得したみたい。

 佐藤和希はただ聞き入っていた。

 

 納得した上で昴生は姫奈に聞きたいことがあるみたい。


「なにかな?」


「噂ってさ本当であれ嘘であれ大体の人は否定すると思うんだよね。本当だったら好きな人がバレるし、嘘だったら肯定する必要がないから」

 

 昴生の言う通りだった。

 あたしもずっと同じことを思っていた。あたしたちが広めた原因になって言うのも変だけど、姫奈が最初から否定してたらこんなに広まってないと思う。


 姫奈はちょっと目を見開いてから答えた。


「う〜ん。どうしてだと思う?」


 ちょっとからかうような顔だ。


「今のでなんとなくわかった」


 え、なに? 今の会話。

 全然意味わかんないんですけど!


 結局この話はこれで終わってその後すぐにきたメニューに手をつけることになった。


 

 





 


 

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