第9話 ファミレスでの恋バナ?
大体30分くらいだろうか。莉沙とダラダラと話してた俺たちは元の場所に戻ることにした。
図書館に戻り階段を上がって2階に行くと、まだ休憩をしている人、また勉強に戻っている人の二つに分かれていた。
俺がいた机の方のメンバーはみんな勉強をしていた。佐藤くんの二人も姫路さんも机に顔を向けていた。真面目だな。
逆に大輝たちがいる机はみんな休憩をやめていなかった。
大輝は多分もう勉強したくないんだろうな。頬杖をついて携帯をいじっている。
大輝の正面にいる二人、宮田さんと一之瀬さんは何かを相談しているようだった。
場所が場所だから声を出さないで携帯を見ながら指を差し合ったりしている。多分、携帯に打った文字で会話しているんだろうな。
俺たちも元の席に戻ることにした。
席に着いたはいいものの俺もやる気がなくなってきていた。
もともとこんなに長時間勉強するタイプじゃなくてコツコツやっておくタイプだからな。
机の雰囲気的に俺だけ携帯をいじるっていうのも変だし勉強をしようと思うんだけど全く手が動かない。
心の中でため息をついてどうしようか迷っていると隣の姫路さんの手が全く動いてないことに気づいた。
気になって顔を見てみると正面、佐藤和希の方を見ていた。
そう思ったけど、目はどこか遠くを見つめているようで何かを見ているというよりはぼーっとしている感じだ。
「大丈夫か?」
とても小さな声で声をかけた。
なるべく近寄って耳元で言ったから聞こえているはずだが全く気付く様子がない。
……本当に大丈夫か?
全然気付く様子がないので手に持っていたペンで芯が出る方とは逆の方、キャップの部分で姫路さんの肩をつついてみた。
すると、やっと気がついたのかこちらにゆっくりと顔を向けた。
「え、なに?」
「なにって……手止まっててぼーっとしてたから大丈夫かと思って」
指摘すると自分の固まったままの手を数秒間見つめた。
「あぁ…………。全然大丈夫だよ、ちょっとぼーっとしてただけ」
「そう? ならいいけど」
誰にでもぼーっとするときくらいあるか。
でも、姫路さんが手を止めるなんてなんか変な感じがするな。いっつも真面目に勉強するタイプだと思ってた。
俺は再び机に向かったけどやっぱりあんまり勉強ができることはなかった。
適当に教科書を眺めているとさっきまで差していた夕焼けがだんだんと暗くなってきていた。
あっという間だったな……。
周りを見てみれば俺と同じように集中できていない人がほとんど……いや全員だな。
それは勉強会をやっているからとかではなくてシンプルに勉強に疲れただけだろう。
これ以上はあまり意味がなさそうだな。
そんなことを思っていると莉沙が切り出した。
周りにはもう人が残っていなかった。
「よ〜し! 今日はこのくらいでいいんじゃない? あたし結構イケるレベルまではきた気がする〜!」
本当だろうか。少し疑ってしまう。
どうせ目標点数に届いても届かなくても莉沙は祭りに行くのは確定だ。
「それな〜。こんな勉強したの久しぶり」
宮田さんも莉沙に続いた。
勝手なイメージだけど宮田さんも俺と同じでコツコツやるタイプだと思う。授業中は真面目だし。
だからこのくらい勉強したら疲れるだろう。
「僕は完璧だよ。姫路さんのおかげかな」
佐藤和希も続けた。
お前の話は誰も聞いてない。ほら、姫路さんも何も反応していない。
そこまで言って落ちたら笑い物だな。
「じゃあ今日はこれでやめにしよっか」
姫路さんの一声でみんな帰る準備をする。
俺も適当に教科書をカバンに突っ込んでいると、隣の姫路さんが声をかけてくる。
「最後の方全然手動いてなかったけどそんなんで私に勝てるの?」
「そっちこそ動いてなかっただろ。あんまり舐めてると負けるぞ」
「それはないね〜。95点くらい取れば響……佐藤くんには勝てるし」
「舐めやがって」
ちょっと強気に返したけど事実だった。
多分どれだけ勉強してもケアレスミスやらなんやらで90点代前半くらいにしかならない。
もちろん、勝つ気でやるけどあまり期待はしていない。
帰る準備が終わった俺たちはみんなで図書館をでた。
外はすっかり暗くなっていて藍が空を染めていた。空を見上げれば雲一つない夜空で星が点々としていた。
莉沙を先頭にみんなで歩き始める。
こうなると基本的に女子と男子に別れることになる。先頭が女子4人で後ろが俺たち。
女子は4人で楽しそうに話しているけど俺たちはそうもいかない。
別に普段から4人でいるわけでもないからただ黙々と歩く。
すると、大輝が「おい」と声をかけてきた。
「ん?」
「さっきどこ行ってたんだよ」
さっき……そう聞いてすぐになんのことかはわかった。休憩時間のことだろう。
大輝と同じ空間にいなかったのはあの時くらいだしな。
「あぁ……ちょっと外の空気吸いに行ってたんだよ」
「莉沙もか?」
「そうだけど……なんで?」
「いや、二人とも全然帰ってこなかったから気になってな」
「お、おう?」
なんか大輝はいつもそういうことを聞くときはちょっと茶化して聞いてくるんだけどな……。
今日はなんかちょっと違った。気のせいかもしれないけど。
しばらく歩いているといつの間にか駅前に着いた。なんとなく後ろを歩いてきたけどそういえば家の方向とは少し違う。
少し違和感を感じていると先頭の莉沙が振り返った。
「じゃあ入ろ〜!」
ちょうど止まった場所は駅前にあるファミレスの前だった。
まさかこれから行くのか?
「え、入るのか?」
「当たり前じゃん」
「お、おう……」
だったら先に言えよ……。まぁ用事ないからいいんだけど。
みんなは元々知っていたのかこういう流れが当たり前なのか普通に莉沙に続いていった。
わかんねぇ……。
俺たちが入ったファミレスは全国展開されているチェーン店だ。
中は4人席が何個も並んでいて外が見える窓の方には2人席もある。
俺たちは8人だから4人席が2つ並んで空いている席に案内される。
4人席とは言うが6人でも座れそうだ。
まぁ8人だから4人ずつ別れるだろうが……なんでこうやって半分に別れる席ばっかり続くんだ。
どうやって別れるのか様子を伺っていると最初に座ったのは宮田さんと一之瀬さんだ。
「うちらはここで〜」
まず、4人席の片方が埋まる。
バランス良く行くなら莉沙と姫路さんが残りの席に座るか、男子が二人座るか。
どうするのか黙って見ていると宮田さんと目があった。
「じゃあ、佐藤……響也くんと浅野くんこっちね」
「え?」「は?」
なぜか俺と大輝が指名を受けた。
別に誰と座りたいとかはないけど、よくわからない人選だ。あんまり関わりがないからな。
よくわからないまま俺たちは席に座ることにした。
俺たちが座ると残りの4人は隣の席に座ることになる。その様子を俺の正面にいる2人は何かを考えながら見ていた。
何してるんだ?
「ねぇ
「やっぱりそうだよ、
宮田さんの名前は一花で一之瀬さんの名前は彩だ。お互いの名前を呼び合って見つめ合った後、俺たちの奇怪なものを見るような視線に気付いたのか慌ててメニューを取り出した。
「よ〜し、何にしよっかな〜」
「一花は肉しか食べないでしょ」
「だから肉の中で何にするかって話だよ」
「太るよ」
「ちゃんと運動したら筋肉になるし!」
急に話を変えたな……。
少し気になるけど、そこまで気になるわけでもない。
大輝も不思議に思ったようだがあまり気にしていなかった。
「じゃあ私これね」
「うちはこれ〜」
女子2人が決め終わった後で俺たちにメニューを渡してきた。
俺は適当にチーズハンバーグにした。やっぱりチーズは美味いからな。
大輝はカルボナーラだった。大輝は割と体がしっかりしてるから肉を食べるもんかと思ったんだがな。
頼んだメニューが来るまで携帯をいじったりして暇を潰していると宮田さんが「ねぇねぇ」と話しかけてきた。
「響也くん、好きな人いないの?」
あんまり関わりがないのに名前呼びなのは他にも佐藤がいるからだろう。
それにしてもまたその話題か。今週はその話が尽きないな。
「いないけど」
「「おぉ〜〜〜〜」」
え、なんなんだ?
いないって言っただけなのに、2人揃ってなんだか嬉しそう? よくわからない。
「じゃあさ、今いいなって思ってる人とかいないの?」
「……………………」
いいなって思ってる人か。つまりちょっと気になっている人ってことだろう。
いつもこういう話になると大体最初に浮かんでくる人は――――
やっぱり、今はそういう人はいないみたいだ。
「いないかな」
「え〜〜〜〜」
俺がいないと言うと残念そうな顔をした宮田さん。俺に好きな人がいないだけなぜ残念がるんだろうか。
「嘘だろ」
「え、まじ? 浅野くんなんか知ってる感じ?」
「おいおい、嘘じゃないぞ」
大輝はなぜか俺の言葉を嘘だと言った。
俺は大輝に好きな人がいるとかそういう類の話をしたことは一度もないぞ?
「いや、嘘だな」
「だから違うって」
「え、なになに? ちょー気になるんだけど!」
大輝が余計なことを言うせいで宮田さんたちが体を前のめりにしている。
今、大輝から変なことを言われたら面倒臭いぞ……。
「まぁ、こいつには好きな人がいるって話だ」
「だれだれ〜!?」
「それは秘密だな」
「え〜なんでさ!」
「多分こいつも気づいてないからな」
「「????」」
大輝の言葉に女子2人は意味がわからないのかポカンとした表情をした。
それはそうだろう。俺も意味がわからない。
好きな人がいるのに自分が気がつかないことなんてないだろう。
でも、もしそうだとしても大輝が相手の名前を言わなかったのは大貴って感じで安心した。
その後すぐにメニューが運ばれてきて、その話は終わった。
手をつけようとしていると膝をとんとんと大輝に叩かれた。
横を見ると視線を落としているのでそちらを見ると俺たちの足の間で携帯を開いていた。
検索画面で文字だけ打っている状態だった。
『雛那のことまだ引きずってんのか?』
なぜその話が出てくる。
今は全く関係ないはずだ。
それに、もう過去のこと。2年以上前のことだ。
引きずるも何もないだろう。それに俺は引きずってない。
でも、俺は大輝のメッセージに目を通しても返事をすることはせずにチーズハンバーグを食べ始めた。
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