第7話 席が最悪な勉強会の始まり


 勉強会当日。

 俺は自信のある教科以外、主に英語の教科書とかをカバンに詰めて図書館に向かっていた。


 今は六月。

 だんだんと熱くなっていく日差しを肌で浴びながらゆっくり歩いていく。

 ちょうど正午を過ぎた頃で日差しが一番強く感じる。


 十三時に図書館に集合だから普通に歩いて行けば少し早く着くくらいだろう。

 時折吹く風が心地よくて思わず全身で受け止めたくなる。


 しばらく歩くと高校が見えてきた。

 俺の家から図書館は学校を挟む形で反対側にあるから必然的に通ることになる。

 グラウンドを見てみると誰もいなかった。


 そりゃそうだろう。今はテスト期間だからいくら部活を毎日やる鬼畜高校でもテスト前の土日くらいは休みになる。


 その休みがあるから今日も勉強会ができるわけだ。

 俺や姫路さんは部活をやっていないから家の用事がない限り大丈夫だが他の人は違う。

 姫路さんや莉沙と一緒にいて、今日来そうな女子は部活をやっていたはずだしこんな時でもないと来れなかっただろう。


 そういえば結局誰なんだろうなメンバーは。

 女子は恐らく四人で姫路さんと莉沙と宮田さんと一之瀬さん。いつも一緒にいるメンバーだ。


 男子は俺と大輝以外はわからない。

 莉沙の家の車が確か十人乗りくらいのワゴンだから祭りに行くことを考えたら男子はあと2人くらい。

 う〜ん。わからん。


 どうせもう少しでわかるのに気になって考えてしまう。


 一人で勝手に頭を悩ませながら歩いているとあっという間に図書館に着いた。

 確か入り口の前で集合だったはずだ。

 そして入り口の前まで歩いていきそこで目にした光景で俺は顔をしかめてしまった。


「げ」


 まず目に入ったのは姫路さんと莉沙だ。

 姫路さんはなんと制服で来ていた。てっきり私服でくるものかと思ってたんだけどな。……別に私服を期待していたわけじゃない。


 そして莉沙はジーンズのショートパンツに白いシャツというシンプルな服だった。

 シンプルだけどいつもより露出されている脚は余計に長く見えてしまって思わず目が行きそうになってしまう。


 そして予想通り宮田さんと一之瀬さんもいた。

 二人はこちらにひらひらと手を振っている。


 軽く返しながらその左を見るとそこにいたのは大輝。

 そしてその横には佐藤和希と佐藤昴生がいた。


 完全に狙ってやがったな!


 絶対にやったのは莉沙だ。姫路さんからこんなことをするとは思えない。

 噂が落ち着いてきたと思ったらクラスにいる三人の佐藤を勉強会に呼ぶとか中々やってくれるじゃないか。

 俺が嫌なものを見るまで佐藤和希を見ていると気持ち悪い笑みでこちらを見てきた。


「やぁ。一番地味な佐藤くん」


「…………」


 軽く手を上げながら挨拶をしてくるが俺はしっかりと無視をした。

 大輝にどういうことか聞こうと近寄りにいくと先に話しかけてきたのは佐藤昴生の方だった。


「よっ。響也」


 気持ち良い笑みでこちらに挨拶をしてきた。


「おう。いるとは思わなかった」


「なんかどうしても来てって岡本がうるさいもんでさ。別に嫌じゃないからいいんだけど」


 やっぱり莉沙だったか!

 なんでこうもめんどくさいことを……。でもいつものことか。


 それに佐藤和希は嫌いだが別に昴生は嫌いじゃない。

 普通に話す時は話すし、性格が明るくて絡みやすい。結構女子からもモテるそうだ。


「大輝、どういうことだ」


 俺は大輝に事情を説明してもらおうとした。


「いや、俺もメンバー知らなかったんだからどうもこうもねぇよ。まぁいいだろ、勉強するだけなんだし」


 確かにそうだった……。俺だけじゃなく大輝も知らなされてなかった。

 それに大輝の言う通り勉強だけならあの気持ち悪い佐藤もそんなにうるさくならないだろう。


「よ〜し! それじゃあ入ろっか〜」


 俺たちは莉沙の掛け声で図書館に入ることになった。


◆◆◆◆


 ここの図書館はあまり広くはない。

 けれど、その分来ている人も多くなく落ち着いて勉強するにはちょうどいい環境だった。


 主に一階は図書館らしく本がたくさん並べられている。

 年季の入った本棚が図書館らしい雰囲気を出していて書店とは少し違った本の匂いが心を穏やかにさせてくれる。


 でも俺たちの目的は本ではない。

 二階にあがると少し広めのホールになっていて、机や椅子がまばらに並べられていた。


 もちろん、机だけではなく低めの本棚には本が置かれていたり図書館らしい感じになっている。

 周りを見るといくつか部屋があってホールとは違い机がしっかり並べられていて本気で勉強する人向けのような場所もあった。


「じゃあここら辺にしよ〜」


 莉沙がのんびりと言ってみんなが頷く。

 そして一つの机には椅子が四つ並べられていて誰がどこに座るのかみんなで目線を合わせる。


「じゃあうちはここね〜!」


 そんな中、空気の読めない莉沙は普通に自分の目の前にある椅子に座った。

 本当にバカなのか?


 莉沙以外の七人はどうするか迷うことになる。

 誰も動き出さないことを見て最初に動いたのは大輝だ。


「じゃあ俺はここな〜」


 そう言って大輝は莉沙の横に座った。その時に宮田さんと一之瀬さんの方を見て意味深な視線を送っていたのは気のせいだろうか。


 ここの机に残されている椅子はあと二つ。

 大輝と莉沙が座ったなら俺も座るか? そう考えているうちに二人が一気に残りの席に座った。


 宮田さんと一之瀬さんだ。


「あたしはここで」


「私もここかな〜。莉沙が心配だし」


 確か一之瀬さんも頭が良かったはずだ。

 莉沙が心配なら近くにいた方がいいかもな。


 ということは必然的に残された四人がもう一つの机と に座るというわけだが。


「…………」


 もう声も出なかった。

 残されたメンバーは俺と姫路さんと昴生と佐藤和希。


 これだと佐藤くんが好きな姫路さんと佐藤くんの三人トリオだ。

 もしかして大輝はこれを狙ってさっきの視線を二人に送っていたのか?


 確認しようと大輝を見るとニヤリとした笑みを正面の二人とかわしていた。

 クソ野郎が!


 でも、残された席はないため仕方なく座ることになった。

 俺が姫路さんの横で昴生と佐藤和希が俺たちの正面に座る感じだ。


 どうしてこんなことに……。これでまた高校の生徒に見られたら変な噂が広がりそうな気がしてならない。

 でも、勉強をするだけだしあまり話すこともないから大丈夫か?


 俺の心配をよそにみんなそれぞれ教科書やノートを広げていく。

 それに合わせて俺も英語の教科書とかを出すことにした。


 しばらく無言の時間が続く。


 勉強会なんていうからもっとうるさくなるものかと思っていたけど図書館ということもあってかうるさくならずに済んでいる。


 カリカリとシャーペンが紙の上を走る音だけが聞こえてくる。

 テストをしている感覚だ。


 それから三十分以上経ったくらいで沈黙を破ったのは佐藤和希だった。


「ねぇ、姫路さん。ここわからないんだけど教えてくれないかな? 物理は苦手で」


「いいよ〜」


 俺の隣に座っていた姫路さんはすぐに頷き佐藤和希の元へといく。


 まぁ勉強会なら教え合うこともあるよな。

 確かあいつは物理で八十五点とか言ってたっけ? いつもどのくらいの点数とっているのかは知らないけど、取れないことを期待している。


 英語の単語に目を通しながら二人の様子を見ていると、姫路さんは普通に教えているけど佐藤和希がそれを聞いている感じがしない。


 顔は机を向いているけど目線は完全に姫路さんにいっている。

 そんなに好きなら告白すればいいのに……。


 ただでさえ姫路さんの好きな人が佐藤くんって割れているんだから可能性は高い方だ。

 するなら今くらいしかないだろう。多分あいつはフラれるだろうけどな。


 教え終わったのか姫路さんが体を元に戻すと佐藤和希が嬉しそうな顔をした。


「ありがとう姫路さん。やっぱり頭いい人は違うなぁ」


「そんなことないよ〜」


 姫路さんを褒めた佐藤和希だったがあまり姫路さんは反応しなかった。

 俺と喋っている時より口数少ないよな。


 姫路さんが戻ってくると一度沈黙が破れたから俺に話しかけてくる。俺にだけ聞こえるような声で。


「ねぇ、英語は順調?」


 少し煽るような口調だ。

 俺も姫路さんと同じように姫路さんにだけ聞こえるような声で返す。


「まぁな。そっちは英語と数学だろ? こっちより難しいんじゃないの」


「私を誰だと思ってるの?」


「人の写真撮っても消してくれない意地悪な人」


「うるさい」


 思いっきり耳を引っ張ってくる。


「痛い痛い!」


「じゃあ言動には気をつけよっか」


 なんだよその笑みは。サイコパスみたいな顔してるんだが……。

 これは下手なことを言わない方がよさそうだ。


 俺は恐る恐る視線を教科書に移すことにした。

 すると、正面に座っていた昴生がこちらを見つめていた。


「どうしたんだよ?」


「いや……なるほどね」


「なにが?」


「なんでもない」


 なんだったんだ? 今のやりとり。

 勉強ではない違うことを考えているような顔だった。


 それからまたしばらく沈黙が続く勉強会になった。

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