第3話 メイドカフェ初心者VS可愛い自覚がないメイドさん

「お待たせしましたにゃん」

「……」


 レイナさんが持ってきたものを見て俺は思わず黙り込んでしまった。

 いや、しょうがないと思うんだ、こればっかりは。


「嫌いでしたか……?」


 隣で瞳を潤ませて言う彼女に文句を言う勇気はない。

 だが……


「レイナさん、そ、それは何かな……?」

「カップル専用のラブラブいちごフラペチーノですにゃん!」

「うん、やっぱりカップル専用だよねぇ……」


 引きつった笑みしか浮かばない。

 ピンク色のカップにハートのチョコとクッキーが飾り付けられていて、可愛さ満載なのは百歩譲っていいとしよう。メイドカフェで出てくるものだ、だいたい予想がついていた。


 でも、でもだよ!?


「そのストローはないんじゃないかな……?」


 それには、飲み口が二つついているストローが刺さっていた。

 別にそれで一人で飲む分にはまだいい。恥ずかしいし、なんでカップルで来ているわけでもないのにカップル専用のものを飲んでいるんだ、という疑問は振り払えばいい。


 だが、俺の予想だと……


「私もご一緒させてほしいにゃん!」


 あぁ……やっぱり……

 俺は頭を抱えた。普通のメイドカフェがどうなのかは知らない。だが、さすがにこんなことはやらないと思うんだ……


「レイナさん?」

「にゃん?」

「さっきも言ったけど、君は可愛いんだ。男にそんなこと言ったら勘違いされても文句は言えないよ?」

「べ、別にいいにゃん!」


「はっ?」


 レイナさんがビクッとしたのを見て慌てて声のトーンを戻す。


「いや、えっと、別にいいってどう言うことかなぁって……」

「ご、ご主人様になら勘違いされてもいいにゃん」

「なんで?」

「優しいから……」


 耳まで真っ赤にして言う彼女に唖然とする。

 優しいってこれくらいは普通だと思うんだ……


 と、彼女が上目遣いで見てくる。


「一緒に飲んじゃ、だ、だめ……?」


 あーーーーーーーーーーーーーー可愛いっ!!!!!!


 ダメだろ、犯罪だろ。こんな可愛い子が猫耳カチューシャつけて? 瞳を潤ませて? 上目遣いで切実そうに? 頼んできたら断れるわけがない!!


「わ、わかった」

「ほんと!?」

「でも!」


 レイナさんが首をかしげる。

 嬉しそうな彼女には悪いが、条件はつけさせてもらえないと俺のメンタルが死ぬ。


「同じタイミングで飲むのは禁止だ」

「そ、そんなぁ……」


 一緒に飲むとなるとめちゃくちゃ顔が近くなる。そんな至近距離に美少女の顔があるなんて非リアの俺には耐えられない。


 俺の言葉にレイナさんが悲しそうな表情を浮かべるが、こればっかりは譲れない。


 心を鬼にしてきっぱりと告げる。


「これが守れないなら一緒には飲まない」

「うぅっ……わかりました……」


 ホッと息を吐く。この子と一緒にいると本当に精神面がやられる……。

 フラペチーノを見るとだいぶソフトクリームが溶けていた。


「先に飲む?」

「メイドなので! ご主人様先にどーぞですにゃ!」

「わかった」


 どーぞですにゃに思わず笑いそうになるが、ぐっと堪えてフラペチーノに口をつける、と。


「んっ」

「ど、どうでしょうか……?」


 思わず声を漏らす。そんなに期待していなかったが意外にも……


「美味しいね」

「よ、よかったです……にゃん」


 はにかみながら頬を染める彼女に、もしかして、と察する。


「これ、レイナさんが作ったの?」

「は、はい!」


 勢いよく頷く彼女に驚く。ポンな子に思えたが、こういうことは得意なのかもしれない。


「そうなんだ。ありがとう」

「う、うん……」


 彼女の目を見つめて伝えると、目をそらされてしまう。


 ほんと可愛すぎるんだがどうしよう。

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猫に癒されたいと入った店。なぜか猫耳カチューシャのメイドさんに懐かれました。 美原風香 @oto031106

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