第3話  不思議な縄

 キースの危ない手つきの皿洗いに、ハラハラしつつ、店の掃除はスムーズに言った。

 銀色の縄は、伸縮自在なのだ。


 2人が酒場から解放されたのはもう明け方だった。

 眠る処も無く、お金も無ければ街中の神殿を頼るしかないだろう。

 オーリには不本意だったが、この選択肢しかない。


「ブリスジンの神殿で休ませてもらいましょう」


 オーリがそう言うと、キースは大人しくついて来た。


 謎の縄で腰と腰をくくられているので、オーリ一人では活動出来ないのだ。


 王都ブリスジンの朝は早い。

 街の中心部にロイル(この世界の神)の神殿はあった。

 二人が神殿に保護を求めて行った時には、神殿の朝は始まっていた。

 朝の礼拝が行われており、人の出入りも多かった。


「ついでにこれも取って下さい」


 縄を手に取って、オーリが言うと、


「逃げなければ取ってやるって!!」


 怪しい笑顔でキースは言う。


 神官に泣きついたが、魔法の物だから、かけた本人にしか解けないと言われた。

 溜息のオーリである。


 キースはそんなオーリの気持ちも知らず勝手にベッドに入り、もう寝息を立てていた。


「もう少し、奥に行ってくれませんか!! キース!!」


「無礼だな! 王子と呼べ。キースティン王子……」


「はぁ!?」


 キースは完全に寝ぼけて本当のことを言っている。

 どうでも良いだが、もう勘弁である。

 とにかく、暫く言う事を聞いて開放してもらうのだ一番速い手立てだろう。

 そう思い立ったオーリであった。


 キースは夕方まで寝ていた。

 オーリは昼過ぎは起きて、昼ご飯を頂き「ご馳走様でした」まで言っている。

 後はひたすら、キースが起きるのを待った。


 何気にキースを見る。

 綺麗な顔立ちである。

 手入れの行き届いた長い指をしていた。

 その左中指にあった指輪の紋様に見覚えがあった。


 何故なら、オーリはその紋様の当主様の案内係だったからだ。


「そろそろ起きて下さい、王子様、夕刻ですよ」


 オーリが言ってみた。


「では、ロンレット夫人を呼んでくれ。彼女に朝の身支度を頼みたい」


 キースは寝ぼけていた。

 因みにロンレット夫人は、貴族だ。

 女に興味のない、キースは平気で貴族の夫人を身支度に呼ぼうとしていた。


 思った通りの反応であった。


「ロンレット夫人はおられません、そのまま起きて下さい」


 オーリが言った。

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