第2話 王子のアバンチュ-ル
こうしてキースは、三日間の自由と引き換えに宰相の娘を娶ることになった。
キースにとっては、王妃は誰でも良いのだ。
庶民の着る服を着せられ、僅かな路銀も持たされて城から放り出された。
もっとも、育ちの良いキースにお金の意味を知る由もない。
一日目はもう夕方だった。
お腹がすいたので、適当な店に入ったら、酒場だった。
お酒は飲んだことがあるが口に合わなかった。
安酒のせいだろう。
一人で飲んでいたら、何人かの男に誘われた。
全部自分と同じ匂いがした。
好みの男がいなかったので、全部、丁重にお断りした。
キースの斜め前に後からフラっと入ってきた男がいた。
金髪を肩までのワンレグスにした男だった。
背丈も体格もキースに似ていた。
かなりの美形だ。
どストライクである。
「よっ!! 同輩!! 一緒に飲まないか!? 俺のことはキースと呼んでくれ」
キースはワンレンの男に声をかけた。
ワンレンの男は驚いたようにキースを見た。
「名前は?」
キースに聞かれて、
「お……オーリ」
と答えた。
「じゃあ、今日の出会いに乾杯しようぜ!!」
「ええ……」
オーリは終始ビックリ顔である。
何でもキースのペースで進められていくので、自分の調子が狂いっ放しだ。
オーリにも事情があった。
ほんの気分転換のつもりで、寄った酒場で、こんなことになっているが、早く宿を確保して仕事を見つけなければ、大変なことになる。
もう、帰るところはないのだ。
ところが、キースがオーリを離さなかった。
やっと見つけた理想の男である。
婚礼前のアバンチュールをこの男と楽しむ気でいた。
完全にオーリの事情など無視である。
乾杯を五回までしたところで、キースは眠ってしまった。
やっと解放されたと喜んだオーリは、そ~っとその場を離れようとして尻もちをついてしまった。
「なんだ、これ~?」
すると、キースと、自分の腰のあたりに得体の知れない銀色に光る縄で括られていたのだ。
「あっ!逃げようとしたな。でも無駄だぜ。これは俺とお前の愛の絆さ~」
「愛!?」
オーリはピクリとした。
(この男は……僕と同じ…?)
それだけ言うと、キースはまた眠ってしまった。
オーリは呆気にとられつつも、何とか腰に巻かれた縄を解こうとするが、
この縄は、変なところで柔軟があり、解こうとすると事態がややこしくなるだけだった。
夜も更けてーーーー
「何? 二人あわせて銅貨を五枚しか持っていない?」
酒場の亭主は顔を赤くして怒っている。
「僕は酒を一杯飲んだら、出るつもりだったんですよ。だから銅貨五枚もあれば足りるでしょう?」
店主は、オーリの言う事も信じていない。
「お前は俺に借りがあるんだ。驕るべきだ」
「初対面でどんな借りてすか?」
キースの言う事に、オーリは反論をした。
どう考えても、オーリに落ち度はないと思うのだが……
酒場の店主は、許してくれそうになかった。
「罰として、皿洗いと店の掃除だ!!」
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