【短編】世継ぎ王子は理想の花婿の夢を見る
月杜円香
第1話 世継ぎ王子は理想の花婿の夢を見る
ビルラード王国の昼下がり、天気もが良い。
洗濯物良く乾くと、下働きの女が喜んでいる声が、城のバルコニーへ出て一息ついているキースのもとまで聞こえてきた。
彼、キースティン(キース)は二十一歳、己のコンプレックスと戦っていた。
王家に美形は付きものだが、ビルラード王家は東方の美姫と謳われたカタリナ・ディーク(王家の直系の意味)を輩出した家系である。
彼の父、ビルラードもなかなかの男前だ。
そして、キースも父似であった。顔に文句はない。.
なのに? 何故か!? 茶色い髪に茶色い瞳なのだ!!
何故にこんな、良くあるパターンで出てくるのだ? おじい様にあたる英雄王のゼフラード王は、神の化身だと言われる銀色の髪と瞳をしていたというし、父上も淡い金髪で深い青い瞳だ。
母親のファライザは、山奥の小国の王女であったが、男勝りで有名な、顔も姫とは思えぬの
3歳年下の弟のガイザードは、顔も姿も母親似の外見をしていたが、金髪と青い瞳の色を受け継いでいた。
顔以外は、羨ましくてたまらないキースである。
キースは、大きく溜息をつく。
そこにもう一つの元凶が来た。
「王子様、今日こそは我が娘、エカテリーナの肖像画をご覧になって下さい。
娘はピチピチの17歳。顔は我妻に似て、カタリナ姫に遠く及ばずとも美形の部類ですぞ!!」
キースは頭が痛くなってきた。
美女だろうが、ブサイクだろうが関係ないのだ。 そう言う意味ではない。
▲▽▲
数十年ほど前に大国ヴィスティンが起こした戦争は諸国を捲き込んだ。
その時の王、ゼフラードは剣を一本と僅かな手勢だけで、国に侵入して来たヴィスティン兵を打ち負かし、英雄王と讃えられた。
ゼフラード王の長男、ラルフォン王の時代になると、城下は落ち着きを取り戻し、公正無私の良政な時代が来た。
人々はラルフォンを賢王と讃えた。
そして、今から7年前にラルフォンは、世継ぎのないまま甥のキースの父、ビルラードに王位を譲ったのであった。
それまで西域の砂漠の国で好きに生きてきたキースは、14歳にして一夜にして母親の故国のビルラードに呼び戻されて、王位継承者になってしまったのだ。キースの生活もガラリと変わっってしまった。
いきなり始まった、帝王教育。
父は、宰相に任命したグルル卿に政務を任せて、一から帝王学を学んでいる。
「別に、王になんかなりたくないよ」
本気で言ったら、グルルは泣いて縋ってきた。
「ダメです!!キースティン王子様でなければ、ビルラード王国が滅びます」
グルルの目は、かなり本気モードだった。
「わかったよ、グルル大げさだな」
「王子様は純粋過ぎてグルルは心配なのですよ」
「何があるって言うんだよ。まぁ、いいや。お前の娘の肖像画見せろや」
グルルが何か、含みのある言い方をする時には、王家の魔法使いのマリリルに何か占わせた時だ。
魔法使いのマリリル・ロイルは父王のお気に入りだ。
金の水瓶を使って、水占をする。
腕は良い方である。
グルルは脇から、小振りの肖像画を取り出し、キースに渡した。
チラッと見ただけで、キースは見る気が失せた。
「やっぱりやめた!茶髪じゃないか!」
「はあ!?それがどうかしましたか?」
「俺と結婚したいなら、せめて、金髪碧眼になってから来い!!」
「エカテリーナは、金髪にも見える茶色の髪ですぞ。瞳は、夕闇のような紫色ですし、そりゃ……銀の森の若長のような美少年など、そんなにいるものではありません」
「ううっ!!お前……」
キースはグルルに無理やり、肖像画を渡された。
「グルルの目は確かですぞ。王子の銀の森(この世界の聖地)の
グルルは、キースが俯いている下から、覗き込んで聞いて来た。
「て……」
「は!?」
「手紙を送っただけだ!! もう二年にもなる!! 十五歳になるなら、さぞ、美しくお育ちでしょう。一度、城で茶でも飲みましょう……と」
「何やら、怪しいお誘いの手紙ですね」
キースはその時のことを思い出して憤慨した。
「当の手紙は、本人に届いていないんだ!守役に読まれて、出禁になったんだ!」
「そりゃ、お気の毒に……」
「ふん、どうせお前は自分の娘を私に嫁がせようとしてるのだろう? 私の頼みを聞いてくれたら、エカテリーナ? だったっけ? 結婚してやっても良いぞ」
「おお……王子様~~」
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