第29話 伝説となった獲物

 と、いうわけで、ヤクザっぽい冒険者二人の話を聞いていた俺とメディチ家の3美女は、魔力増幅と魔力移転というスキルを使い、俺に魔力を注入するという結論を出した。


 時間がない。暴れ回っているアランに多くの人が立ち向かっているが、傷ひとつつけられず弾き飛ばされている。


 中には負傷者も結構いるし、ずるずる引きずると被害が増えるのみだ。


 そう思っていると、冒険者二人は、急に大声でやってきたばかりのまだ戦闘に参加していない者たちに向かって言う。


「あの悪魔を倒すためにはこの男に魔力を注入しないといけないんだ!」

「俺は魔力移転が使える冒険者だぜ!だから俺のワンドに魔力を流してくれ!」


 体の細い冒険者は、ワンドを取り出し、それを空に向ける。すると、周りの人たちが騒然としている。現在、俺の指揮下にある騎士団と貴族たちはすでにアランと戦闘中だ。後からやってきた他の貴族たちは俺の言葉に従う理由も道理もない。


 だから、おいそれと動くものは見当たらなかった。


「私のお兄様に力を貸してください!」

「晴翔様は私たちを救ってくれた命の恩人です。ですので、きっとラオデキヤ王国のみんなも守ってくれるはずです!」

「お願いします!晴翔を助けてください!」


 3美女は頭を下げて周りの貴族たちに協力を求めた。


「あ、ありえない……メディチ家の人たちが、一人の男のために頭を下げるなんて……」

「いつも多くの国内国外からの権力者たちがお近づきなりたくて胸をヤキモキさせるほどの美人たちが……」


 と、貴族の人たちは戸惑いの色を見せる。


 そこへ一人の男が大声でみんなに向かって言う。


「あの男は美味しい大王タコを討伐してくれた男だ!お陰で俺が支配する海は再びの平和になったんだ!」


 そしてもう一人


「あのお方は、私が支配する領地に現れたレッドドラゴンを退治してくれました!王宮からの呼び出しがあったので久々に王都にやってきたのですが、あなたに会えて嬉しい限りです」


 あとはドミノのように


「俺が持っている畑を食い荒らす巨大イノシシを倒してくれたのもあの男だ!」

「女性たちの服を溶かすネチネチスライムを倒して、治安を守ってくれたのもあの男よ!間違いない!」

「あの男は俺の別荘に生息する上級モンスターを倒してくれたんだ!クエストの報酬だけだとしょぼいから、別途にお礼しようとしたけど、何も言わずに去ったからずっと気になっていたのによ……」


 極めつけは


「あ!!!だこあぎ!!!だこあきのお兄ちゃんだ!!」

「き、きみは……」

「お兄ちゃん!大好き!」


 俺の作るタコ焼きをいつも買ってくれる女の子が急に現れて俺に飛びついてきた。


「こ、ここは危険だぞ」

「ほえ?お花火大会やっているんじゃなかったの?」

「……」

「ほ、ほら!エレン!こっちおいで!」

「やだ!あたし、だこあきのお兄ちゃんがいいの!」


 平民の服装をした母と思しき女性がやってきて、エレンという女の子を引っぺがそうとするが、俺の戦闘服のズボンをぎゅっと握り込む彼女の姿に母は戸惑う。


「家がここから近いから、娘が花火大会だと誤解してここまで走ってきました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません……」

「いいえ、こっちこそ、お騒がせして申し訳ございません」


 貴族たちは俺たちの会話をまるで愛くるしい自分の子供を見守るように見つめている。


 それから、


「ありったけの魔法!俺がくれてやる!」

「私も協力いたします!」

「メディチ家の美女たちの頭を下げさせた男だ。何を見せてくれるのか楽しみで楽しみでしょうがないな!」

「国家存亡の危機だというのに、何もしないのは貴族としてあるまじき行為です!」

「私たちは、魔王支配地域に隣接した国々の人みたいに強くはありませんが、こうやって、魔力でお助けすることはできますわ!」


 護衛を引き連れてきた貴族たちは、手をあげて、魔力を体の細い冒険者のワンドに送り込む。クラスの低い貴族や護衛の人たちはワンドを持ち出して、同じく魔力を体の細い冒険者に送り始める。


「お兄様!私も協力いたしますわ!私の燃えたぎる魔力……全部使ってくださいまし!」

「晴翔様、私も送ります」

「私も!」


 3美女はドヤ顔で他の貴族や護衛たちに倣い、手をあげる。


 だが、


「アニエスさんとアリスとカロルにはやってほしいことがありますから、魔力は消費して欲しくないです」

「「?」」


 小首をかしげる3人に俺は耳打ちした。すると、3人は納得顔でうんうん言いながら、体の細い冒険者のワンドに集まる凄まじい量の魔力を見つめる。


 やがて、限界に達した貴族や護衛たちがよろつく頃、タイミングを見計らった体の細い冒険者がガタイのいい冒険者に合図した。


「今だ!!!相棒!!!」

「分かっているぜ!こんな馬鹿でかい魔力の塊に魔力増幅をかけるのは生まれて初めてだ!血が騒ぐな!行くぞ!!」


 と、ガタイのいい冒険者はワンドを取り出し、大きい魔力の塊に魔法をかける。すると、魔力の塊は勢力を増し、約2倍に膨れ上がった。


 そして


「おい兄さんよ!全部受け止めろ!!!」

「はい!」

!!」


 体の細い冒険者はワンドを俺の体に向けて魔力の塊を放った。すると、俺の中で欠乏していた何かが満たされていく。

 

「か、感じる……強い力……」


 この力があれば、理論上、絨毯爆撃も一斉砲撃もなんでもかんでも可能だ。


 だけど、ただ単に先端兵器召喚しぶっ放すだけだとどこか物足りない。


 日本からやってきた俺がラオデキヤ王国の方々にお見せしたい究極の兵器。


 だんだんとその兵器が頭の中で鮮明になっていく。


 圧倒的スケールと強さと外観。


 やっぱりこれ一つしかない。


 今の俺なら間違いなく召喚できるはずだ。


 俺はいたって冷静な口ぶりでその兵器の名を口にする。






「戦艦大和、召喚」





 すると、空中に全長約264mに達する巨大な戦艦が傾いた状態で姿を現した。

 

 いわゆる超弩級戦艦大和型の2番艦(武蔵)と呼ばれる戦艦である。


「ああ……」

「……」

「な……」

「お……」


 感想を言う人は存在しない。みんな絶句したまま、照明弾に照らされた46cm主砲3基9門のなす圧倒的オーラに顎が抜けるほど口を開けている。


 戦闘をやっている貴族や騎士団員も同じく、動きを止め、戦艦大和をボーと見つめるだけだ。


 アランは


【……空中に浮かぶ巨大な船だと?あははは……どんな武器を使ってもこの世で最も賢く、最も優れた僕には勝てない。このハエどもよりかは壊しがいがありそうだな!!】


 全身が腐った巨大なアランだけが僕の召喚した戦艦大和を見て嘲笑うだけだった。


 まずは


「カロル」

「……」

「カロル!」

「は、はい!お兄様!」

「お願い!今だ!」

「わ、わかりましたわ!はああああああ!」


 戦艦大和に気を取られていたカロルは、いそいそと魔法を使う。すると、目の前で7Mほどの巨大な炎を纏った不死鳥のような鳥が現れた。


「フェニックス!目の前にいる忌まわしき悪魔を攻撃しなさい!」

「キウウウウウ!!」


 フェニックスという鳥は鋭い鳴き声をあげ、アランの方に飛んでいく。


 そして俺は、


 5歩ほど前に出て


「拡声器……召喚!」


 遠くにいるみんなに俺の声を効果的に伝えるために拡声器を召喚し、





「撤退です!!!!一人も残らす、みんなこっちにきてください!!!」


 拡声器を通して発せられた俺の言葉を聞いた戦闘中のみんなは、アランから離れて、一人、二人と歩調を早めて俺たちに向かってきた。


【ん!この!でかい鳥め!邪魔だ!】


 カロルのフェニックスがアランの顔を執拗に攻めて、動きを鈍らせている。


 戦闘中だった人たちはみんな一丸となって効率よく俺たちに向かってきている。負傷者をおぶったり、浮遊の魔法を使って連れてきたりと、一人の犠牲者も出すまいという意志が感じられる。


【このアランに歯向かうものはこうだ!】


 アランは暗い光をカロルのフェニックスに放ち、攻撃を仕掛ける。すると、全身が闇に包まれたフェニックスは苦しみにもがき始める。


「っ!戻ってきなさい!フェニックス」


 カロルがそう叫ぶと、フェニックスの姿が消えた。だが、カロルは激しく息切れしている。


「よくやってくれた。カロル」

「はあ……はあ……お兄様……この戦闘が終わればたっぷりご褒美を要求しますからね……」

「わかった。いくらでくれてやる」

「っ!晴翔お兄様……」

「急に顔が赤くなっているように見えるが、大丈夫かい?」

「……カロルは大丈夫ですわ……私の


 そう言ってカロルが、躓く。だが駆けつけてきたリンゼさんとエリゼさんがカロルを支えた。しかし二人のメイドもよろよろしている。おそらく俺のために魔法を結構消費したのだろう。


 よし。


 アランの周りに人はいない。数百もの人たちが無事に撤退できた。


 あとは、


「アリス、お前の番だ」

「わかったわ!私、必ず晴翔の役に立つから!」

「その言葉はとても心強い」

「ふふ、晴翔、この戦闘が終われば、晴翔はメディチ家の人間よ。に……だから私と……」

「……アリス、それ以上は言うな」

「え?な、なんで?」

「それは、俺の言うセリフだからだ!」

「っ!」


「アリス、この戦闘が終われば、俺と結婚しよう」


「……喜んで!」


 アリスは嬉々とした表情でそう言ってから、前を向いて手を伸ばした。


「はああああ!!!!!!!!」


 大声で気合を入れると、あっという間に強力で透明な氷の壁が俺たちを包み込む。


「晴翔!今よ!」

「ああ!」


【あははは!!取るに足りぬ愚かな人間よ!!大人しく僕にひれ伏し、全ての権限、財宝、女を寄越せば、命は助かったものを……そんなに死を急ぎたいのか!?アアアアアア!!!!!!!】


 

「一斉発射!!!!!!!!!!!!!!!!」



【何?】





ドカアアアアアン!!!!!!

ドカアアアアアン!!!!!!

ドカアアアアアン!!!!!!



ドカアアアアアン!!!!!!

ドカアアアアアン!!!!!!

ドカアアアアアン!!!!!!



ドカアアアアアン!!!!!!

ドカアアアアアン!!!!!!

ドカアアアアアン!!!!!!



 9つ砲弾がアランに全部命中した。


 けど、


 晴翔が召喚した戦艦から放たれた太い砲弾による衝撃波は、アリスが召喚した堅い氷の膜に亀裂を生じさせる。


 アリスは呻き声を上げて、なんとか氷の膜を最後まで維持しようとするが、


 晴翔の武器があまりにも強すぎて、破片を防ぎ切った彼女の氷の膜は






 あえなく破れてしまった。


 その瞬間、3美女は最高に格好いい晴翔を見つめる。


 黒い髪、ブラウン色の瞳、異国風の顔立ち。


 鍛えられた体、強い力と魔法。


 そして



 優しさ。





 3人の頭からは電気が走り、全身を駆け巡る。


 やがて、その刺激はだんだんお腹に集まり、一つの願望を生じさせた。




 彼の赤ちゃんを産みたい。






 今日ここで新たな伝説が生まれた。


 ラオデキヤ王国の有力者たちが見ている中で


 晴翔は伝説となった。

 











「素晴らしい……あの男がいれば、きっとこの世の中をにできるわ

。そう……私が思い描く世界に……」


 ツノの生えた美女は、色っぽくほくそ笑んで、戦艦大和を召喚した晴翔を遠いところから見つめる。


「これから、ちょっと人間界に手を出してみようかな。幹部の奴らに言ってやろう」


 小麦色の肌の彼女はほくそ笑んで、続ける。


「思う存分、暴れてもいいって」








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