第28話 運命

 状況は思っていたよりひどい。悪魔と化したアランは王宮の建物を壊しながら、ものすごい数の魔物を召喚し、ラオデキヤ王国の心臓部を潰そうとしている。


 ベルン王は素早く災害対策委員会を立て、緊急事態宣言を発令し、王都に住んでいる全員に避難を呼びかけた。それからギルト会館に対して発した勅令により、悪魔と化したアランの討伐クエストが新たにできた。


 ベルン王から軍と騎士団の指揮権を授かった俺は、ラオデキヤ王国の有力者たちと闘技場を出た。


「軍の方々は王都に赴いて、アランという男が放った魔物を退治してください。騎士団の方々には俺と共にアランを出来るだけ広いところに誘導してもらいます」

「「はい!」」


 騎士団員と騎士団長が元気の良い声で答えた。


 すると、厳つい顔つきの男が俺の前にやってきて、ひざまずく。


「鷹取晴翔様。私は長年空席だった総司令官の代わりにラオデキヤ軍を取り仕切ってきた千人隊長であるロランと申します。あなたはベルン国王陛下とメディチ家に認められた男です。あなたの命令に従い、王都に潜り込んだ魔物たちを退治しましょう」

「ありがとうございます。市街戦になりそうですが、健闘を祈ります」

「はい!」


 アニエスさんのレクチャーによれば、ラオデキヤ王国の国軍は幹部を除けば、魔法が使えない平民出身がほとんどであるらしい。そんか彼らと直接戦わせるのは無理がある。だが、国軍の数は騎士団の数を遥に上回る。故に、比較的弱いアランが放った魔物を狩らせて民らを守らせるのはある意味理にかなっていると言えよう。


 あとは……


「アリス。本当にいいのか?今回の相手はアンデットネフィリムとは比べ物にならないほど強いとベルン国王陛下から聞いたぞ」


 ずっと俺から離れずについてきたアリスに心配した表情で問うた。だが、彼女は前にかかった柔らかいピンク色の髪を手で掻き上げ、堂々とした態度で言葉を発する。


「私があなたを助けるのは当然よ」

「……」

「晴翔、私は邪魔?」


 そんなに目を潤ませて上目遣いするのは正直反則だと思う……


「アリスがいてくれると……助かる」

「ふふっ」


 アリスは手を後ろに組んで、笑顔を浮かべながら俺を見上げた。おかげて強調される二つの巨大な膨らみが俺を誘惑するように揺れ出す。俺はそんな彼女に近づいて、陸上自衛隊用の外套を召喚し、アリスにかけてやった。


「晴翔?」

「その……周りに人いるから……」


 アリスの美しさを他の男にあまり見られたくないとはちょっと恥ずかしいので言えなかった。


 だが、アリスはそんな俺の心を察してくれたようで、妖艶な笑みを浮かべて、俺の腕を彼女の胸のほうに持っていって、極上の柔らかさを味わわせてくれた。


「私は晴翔の女よ。だからあなたについて行くわ」

「っ!」


 本当に、アリスは俺の考えを遥に上回る女だ。


 俺たちの甘々な絡みを見ていた他の貴族男性や女性は、急に語気を荒げて口を開く。


「ううう……俺も鷹取晴翔様のように格好よく戦って、かわいくていい女をゲットするぜ!」

「俺もだ!あんな姿見せつけられたら、たまったもんじゃない!アランのやつ……必ず俺がやっつけて男らしさを見せつけてやるぜ!」

「自分の愛する男を助けようとする一人の美しい少女……本当に素敵だわ……私、アリス様を手伝いたいんですの!」

「私も!」

「私たちは貴族よ!今、ラオデキヤ王国が存亡の危機に瀕しているというのに、指を咥えて見ているだけなのは性に合わない!」

「そうよ!ベルン国王陛下も頑張っていらっしゃるわ。だから、有力者である私たちが鷹取晴翔様とアリス様と共に悪魔と化したアランを倒さないといけないの!」

「「おおおおおお!!」」



 どうやら俺たちのいちゃぶりは彼ら、彼女らの士気を上げたらしい。


「ふふ、やっぱり晴翔様だね!アリスお嬢様の表情……完全に恋する乙女!」

「ええ。なんでメディチ家の方々が晴翔様に惚れ込んだのか、よくわかったわ」


 晴翔たちを満足げな表情で見つめるエリゼとリンゼ。


X X X


「こっちだ!この悪魔野郎!てめえは俺たちには勝てんぞ!」

【グオオ!!愚かな人間ども!僕が一番強い!僕をクラス5に認定しないこの王国は滅びろ!】

「魔王に魂を捧げて手に入れた偽の強さで自慢しても全く意味ないんですけど?キモイ顔曝け出して、だっさw」

【グオオオ!!僕は強い!この王国は僕が全部壊して支配してやる!この王国の権力と美しい女は全部僕のものだ!!】

「きしょい。その馬鹿げた口ぶりだと、クラス4になったのも、きっとずるしたからなんでしょうね」

【うるさい!!!黙れ!!グオオ!】

「嫌なんだけど?この度し難いクラス3野郎が、身の程弁えろw」

【アアアアアアア!!うるさい!!!!僕は最強だ……僕が一番だ!!!だから、貴様らを殺してやる!】

「……お前、本当に煽り上手だな。でも、油断は禁物だ。気をつけろ!」

「ふふ、私を心配してくれてるの?」

「っ!とにかく気をつけろ!」

「はいはい」


 俺についてきた貴族のうち、空が飛べる魔法使いの若い男女が、アランを思いっきり煽って、王都から少し外れた平地に誘導している。特に魔法使いの女の子って、口調とか仕草とか、日本のギャルと酷似している気がしてならない。


 今まで王宮を壊していたアランの誘導は空を飛んでいる二人のおかげで、順調である。


 悪魔となったアランには人間が持ちうる良心は存在しない。劣等感、傲慢、自慢、被害妄想で塗り固められた彼を誘き寄せるためには、やっぱり、彼が有する習性を利用するに限る。なので、彼が一番聞きたくないキーワードを並べることで、簡単に俺たちの術中にはまったわけである。


 だが、空を飛んでいる貴族の青年が言ったよに油断は禁物だ。魂を捧げた対価として手に入れた強さが彼にはある。


 加えて、俺は結構魔力を消費している。


 途中、M82やマシンガンなどでアランに攻撃を仕掛けたが、彼が召喚した魔物たちには効いても、本体はダメだった。凄まじい回復能力と、強力な力……恐らく対戦車ミサイルに当たったとしてもびくともしないだろう。


「……」


 どういう風に戦えばいいのか、戦術を練っていながらアランを追っていると、いつしか、目的地である王都裏にある平地にたどり着いた。


 ここは、農地が広がっているため、好き勝手暴れも問題にはなるまい(畑を持っている人には申し訳ないが)。


 だが、


「暗くてよく見えない……」

「アランのやつ、体が黒いから余計見分けがつかないな」


 俺についてきた貴族、騎士団、合流した冒険者たちは、月明かりしかないこの畑を見渡して困惑する。


 だが、問題ない。


「84㎜無反動砲、照明弾……召喚!」


 そう唱えると、畑には俺が口に出した武器がずらりと現れる。それから俺はそばにいる騎士団員数人に目で合図して、この武器を使い方をざっくり教えた。


 やがて、数人の騎士団員は84㎜無反動砲を空に構えて引き金を引く。

 

 すると、明るい表明弾が辺りを包み込むように光り出す。


「す、すげー!魔法石より比べ物にならにほど明るいぞ!」

「これなら戦える!」

【ふふふ……小細工なんか弄しても僕には勝てん!!最強である僕に平伏すがいい!!】


 そう大声で言ったアランは、再び魔物を召喚して、目の前にいる貴族や冒険者や騎士団員を襲わせた。


「鷹取晴翔様……どうしましょうか」


 騎士団長が心配そうに聞いてきた。


 彼の問いに対して俺は、前にいるみんなに向かって、


「アランとアランの召喚した魔物を攻撃して、時間を稼いでください!」


 そう叫ぶと、貴族、冒険者、騎士団員たちは、「おお!」と言って早速攻撃を開始する。騎士団長も「ソードマスター」と「身体強化」スキルを使ってアラン目掛けて突撃する。


 あとは……


 もっと魔力があれば、勝つ可能性が飛躍的に増えるが……


「晴翔?どうした?」

「……」


 眉間に皺を寄せている俺を見つめて心配の表情を見せるアリス。


 その瞬間、人熱を掻き分けて現れた二人が俺に向かって大声で話しかけてきた。






「タコ焼きの兄さん!!!!」

「タコ焼きの兄さん!!!!」

「っ!いつも俺のタコ焼きを買ってくれる冒険者さん!?」


 そう、いつも大変お世話になっているヤクザっぽい名知らぬ冒険者たちである。


 照明弾の明るい光に照らされた彼らの顔つきはお世辞にもいいとは言えない。なので、俺のそばにいるアリスが俺の後ろに隠れた。でも、この人たちは、俺をいつも助けてくれるありがたい存在である。


「アリス、この二人の冒険者は悪い人じゃないんだ」

「……そ、そう……晴翔がそう言うなら……」


 と言って、外套を羽織っているアリスが、冒険者二人に姿を現す。すると、


「ピンク色髪……青色の瞳……パーフェクトな美しさ……まさか、謎に包まれたあのメディチ家の人間!?」

「間違いない……この美貌は……」


 二人の冒険者は、足をブルブルさせて、俺とアリスを交互に見てきた。


 そして、


「お兄様!!!!!!!!」

「晴翔様!」


 遠いところから、多くの護衛を引き連れて馬に乗った状態で動きやすいドレス姿の二人の美女がこちらにやってくる。


「アニエスさんにカロルまで!?」


 目の前には一生懸命アランと彼が召喚した魔物と戦っている貴族と騎士団員と、冒険者たちの勇敢なる姿が。


 そして、すぐ隣には、メディチ家の美人母娘とヤクザっぽい男二人。


「……おおおお俺、言っただろ?にいさんって結構強い男って!やっぱり俺は人を見る目があったで!」

「おおおおおおおおおおおお俺も言ったぞ!若造の中ではあんたがピカイチってよ!」


 細い体の男とガタイのいい男は震える声で言う。小物感が半端ないな……


 だが、俺は彼らの言葉に反応できるほどの余裕を持ち合わせていない。


「……」

「お兄様……私、お兄様を手伝いに来ましたの!」

「晴翔様、話は全部聞かせていただきました。他の公爵家の人たちもあの忌まわしき存在を倒すためにここに向かっているので、……総司令官である晴翔様が私たちに指示を出してください。ご協力いたしましょう」

「……」


 俺は、この王国の人たちを良く知らない。魔法を使って戦う彼ら彼女らに細かい指示を出すことすらできていないのだ。


【弱い!!ハエより弱い虫ケラどもめ!!僕が最強であることを認めろ!!】

「あああ!!」

「っ!」


 アランと魔物たちの攻撃を受けて倒れる人たち。


 マシンガンでおびただしい量の弾丸をぶっ放してもやつは倒せない。あの回復能力だと、もっと強力な何かが必要なのだ。


 思い悩んでいる俺。


 だが


「おいにいさんよ!」

「?」


 そんな俺に二人の冒険者がサムズアップして話をかける。


「俺たちに言いたいこと、あるんじゃない?」

「俺たちに言いたいこと、あるんじゃない?」


 ヤクザっぽい顔つきだが、表情は明るい。


 メディチ家の3美女もまた、俺に優しい視線を向けていた。


 悩む必要はない。


「魔力が必要です。あの悪魔を圧倒的力で倒すための魔力を!」


 俺が目力を込めて二人の冒険者に返事する。


 すると、


 二人の冒険者はドヤ顔を見せ、自信に満ちた面持ちで返した。


「あんた、俺たちがどんなスキルを使えるか知っているのか?」

「俺たちがにいさんに出会ったのは運命だったね」

「スキル?運命?」


 俺は首を捻って彼らに続きを促した。


 彼らは傷跡だらけの拳を思いっきり握り締め、俺にその熱い瞳から発せられる視線を向けては








「(ガタイのいい男)俺の得意スキルは魔力増幅だ!!!!!」

「(体の細い男)俺の得意スキルは魔力移転だ!!!!!」

「な、なに!?」


 こ、これは……


 運命





追記



冒険者二人いい人すぎて涙出る……

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