第27話 獲物の力
「国王陛下!アランという男はライデキヤ王国の掟を破りました!」
「そうでございます!早く捕まえなければ……」
臣下たちがベルン王に訴えかけるが、彼は微動だにしない。そして小さく臣下らに話す。
「アランという男は後で必ず処分する。だから今は静観するとしましょう。そして……」
一旦切って、隣に控えている親衛隊の人にちょいちょいと手招く。すると親衛隊の人はベルン王に近づきベルン王は彼に耳打ちする。
「は!かしこまりました!」
そう言って、いそいそと親衛隊の人は闘技場を出る。
それからベルン王は、鷹取晴翔を見て意味深な言葉を密かにつぶやいた。
「鷹取晴翔殿、俺はあなたがみんなの前で認められることを望んでおる」
錯綜とした表情のベルン王。
晴翔side
「戦車装甲……召喚!」
俺が唱えると、分厚い戦車の装甲の数々が俺を覆った。さすがミニゴーレムとて、この鉄の塊を破壊することはできない。
「ぷっ!はははははは!!!」
俺が防御に徹すると、装甲の外からアランの笑い声が聞こえてきた。
「呪文を唱えるなんて……貴様、本当にクラス5なのか!?あははは!!!まさか……アリスお嬢様にクラスを騙してないんだろうな」
俺を思いっきり挑発するアランの口調。だが、俺は動じない。
なぜなら、アリスが俺にずっと熱い視線を送っているから。ちなみに、アリスは王室直属の親衛隊の人たちとリンゼさんとエリゼさんに囲まれて守られている。
周りの人に被害が及ばない形でアランに圧倒的力を見せつけて勝てる戦術。それを必死に考えていると、
ある特異点に到達した。
なので俺はアランに向かって口を開く。
「こんな雑魚ゴーレムじゃ俺を倒せないぞ」
「っ!詠唱なしじゃろくに魔法も使えないクズ風情が……僕のゴーレムに向かって雑魚だと!?」
「あと、お前、俺を殺そうとしたな?だったら敵と見做して、お前を処理する。死にたくなければ、寝そべってお腹を地面にくっつけたまま両手で首の後ろを抑えろ」
「そんなのするわけねーだろ!ちくしょう!ミニゴーレムでダメなら……」
と言ってアランは分厚い装甲を叩いているだけのミニゴーレムたちを消した。
そして、
「巨大ゴーレムで貴様を殺してやる!はああああ!!!!!」
10Mを優に越える巨大ゴーレムを召喚した。
圧倒的なサイズのゴーレムを見た観客は口をポカンと開けて、呆気にとられる。
「あのサイズのゴーレムは、クラス5の土魔法使いじゃないと召喚できね!」
「あいつ、この前はクラス3だったのに、一体なんなんだよ!」
「いやだ……怖い……」
興味本位でついてきた貴族たちは恐怖に怯えている。
「みろ!このジャイアントゴーレムを!クラス5の魔法使いでもこれを破壊できるものはほんの一握りだ!詠唱がないと、ろくに魔法も使えない貴様なんか、このジャイアントゴーレムにかかればイチコロだ!あははは!!!」
傲慢な態度で俺を嘲笑うアラン。
俺はジャイアントゴーレムの肩に乗っている彼に、最後の警告をした。
「本当に降参する気はないね?」
「貴様……気でも狂ったのか?この圧倒的な力の差にビビって正常な判断をする機能が麻痺したのか!?」
「じゃ、遠慮なくいくぞ」
「アハハハハ!強がらなくてもいいものを……僕にひれ伏して、アリスお嬢様を譲ればそれで済む話だ!それがいやだと死んでもらうしかない。いや、アリスお嬢様の唇を奪った時点で、貴様の死は確定した!ジャイアントゴーレム!目の前にいるこいつを跡形もなく消せ!」
「ゴオオアアアアア!!!!」
ジャイアントゴーレムはものすごい勢いで俺の方に走ってくる。
俺は召喚魔法で素早く戦車の装甲を消して、
数えきれないほどの量の分厚い鉄板を走ってくるゴーレムの周りに張り巡らした。10mを越える巨体なので、結構魔力を消費している。だけど、俺はクラス5の召喚魔術師。これくらい問題なし。
そして、俺は、空を目がけて
心の中で呟く
『99式自走155mm榴弾砲、召喚!』
すると、空から5台もの榴弾砲が下を向いたまま現れる。これ以上召喚すると、魔力がやばいことになりそうで5台召喚した。
「クッソ!この壁はなんだ!ジャイアントゴーレム!早く壊せ!」
「ゴオオオオ!!!」
一生懸命分厚い鉄鋼を拳で当てているが、
時、すでに遅し
「なあ、次男坊、一つ教えてやろうか?」
「はあ?」
「俺が魔法を使う時、呪文を唱える理由」
「貴様が無能だからだろ!」
「違う。あれはノリでやっているだけだ」
「何馬鹿なことを!!この世で一番賢い僕にそんな嘘が通用するとでも思ってんのか!?」
「上を見ろ」
「あ?」
俺の言葉につられてアランは無意識のうちに上を向いた。そこには長い砲身五つがアランとゴーレムを狙っている。
「発射!!!!!!!!」
「な、なに!?あっ!」
空に浮かんでいる自走砲5台は火を放ち、15cmを越える巨大な弾が下にいるジャイアントゴーレムとアランに直撃する。
鉄板によって周りに破片が飛び散ることはないが、衝撃波と轟音、地震が、この砲撃の凄まじさを物語っている。
おそらく、王都にいる住民はみんな気づいたのだろう。
砲撃が終わった後、俺は早速分厚い鉄板と自走砲を魔法で消した。
「なんていう破壊力……」
「これは、間違いなくクラス5以上だ!もしこの世にクラス6があれば、間違いなく彼が真っ先になれただろう……」
「一度も見たことのない武器だった」
「次元が違う……あれは一体なんだったんだ!?」
「まるで神話に出てきそうな聖なる武器だった」
みんなが現代兵器の威力に恐れをなしている。
まあ、当たり前か。
いくら魔法という存在があっても、先端技術の集大成である現代兵器には叶わない。
アランという男はゴーレムと共に消えたのだろう。
そう安堵のため息をついていると、
「ちくしょ!魔王に魂を捧げて手に入れた力で僕はクラス5に匹敵する強さを持つようになったはずなのに……なぜだ」
「何!?」
アランの声が聞こえる。だけど、どこを探しても彼の姿は見えない。見えるのは、砲撃を喰らい、粉々になったジャイアントゴーレムの石の欠片だけ。
俺が深刻そうな顔で、周りを見渡していると、突然黒い煙が闘技場の真ん中に集まって一つの巨大な人間の形となった。
全身が腐敗しているような酷い形の存在は、大声で嘆く。
「僕の計画が……僕が描いていた輝かしい未来が……」
「まさか……こいつアランか!?」
どう見ても人間ではない。まるで、この前退治したアンデットネフィリムを見ているかのようだ。
そう考えていると、
「ラオデキヤ王国は僕の強さを知らない!僕の偉大さを知らない!みんなバカで、愚かものばかりだ!こんな国はいらない!絶世の美女と絶大な権力が手に入らなければ、全部僕が破壊し尽くして、全ての人間を支配するのみだ」
アランと思しき存在は、そう呟いて、魔物を召喚した。
「王都に向かって、このアランが最も賢く最も強い王であることを認めない愚かものは一人残さず全部殺せ」
そう命令したアランは翼を生えさせ、闘技場から飛んで、王宮の方へ向かう。数えきれないほどの魔物は素早く王都へと走って行った。
混乱する貴族や王族と関係者らは、席から立って、俺のいるグラウンドへとゾロゾロやってきた。
「晴翔……晴翔!!」
「アリス」
アリスが俺に飛びついてくる。俺はそんな彼女の頭を優しく撫でてあげた。すると、ベルン王が俺に話しかけてくる。
「鷹取晴翔様」
「ベルン国王陛下……」
「あのアランという男は超えてはならない線を超えてしまった」
「超えてはならない線?」
「魔王に魂を売って絶大な力を手に入れた。これはあってはならない!アランという男はもはや人間ではない。良心の源は魂だ。それを放棄したものは、悪魔以外の何者でもない。つまり、彼はアンデットのような存在。ううん、アンデットよりもっと悍ましい存在」
「アンデットより悍ましい存在……」
「我が国は魔王の支配領域より遠く離れたところにありから、魔物や魔王の脅威に晒される可能性は限りなく低いんだが、まさか……魔王と内通していたとは……」
ベルン王が嘆き悲しむと急に甲冑姿の騎士団の人たちが現れた。そして見覚えのある騎士団長がこちらに近寄る。
「国王陛下!ご無事ですか!?」
「あ!俺は大丈夫。それより、大変だ。悪魔に魂を売ったアランという男を必ず仕留めなければなるまい」
「アランという男ですか……怪しいとは常々思いましたが、そんな酷いことを……」
「さっき、親衛隊の一人にアランという男の一族を一人残さず逮捕するようにと命令を出した。あとは、化け物となったあの男を……」
ベルン国王陛下は悔しそうに唇を噛み締めている。
やっぱりここは俺の出番だろう。
「国王陛下、俺がアランを倒します」
「鷹取晴翔殿……申し訳ない」
「謝らないでください国王陛下。俺は大切な人たちを守るために戦いたいだけですから」
「……その清い瞳と真っ直ぐな心……アリス」
「はい、国王陛下」
「やっぱりこのお方は、あの人によく似てますね」
「……」
ベルン王の話に、アリスは頬を赤く染めて控えめに頷く。あの人って一体誰だろう。
そう疑問を投げかけていると、騎士団長が、俺に向かって大声で話しかけてくる。
「あ、あなたは!?この前、アンデットネフィリムを倒した男!?」
「っ!」
まさか、バレちゃった?
「間違いない!圧倒的強さでアンデットネフィリムを倒したその顔、はっきりと覚えております!」
「騎士団長、その話はまことか?」
「はい!そうでございます!国王陛下!」
ベルン王は意味深な表情を俺に向けてきた。俺はちょっと視線を外して頷く。
「鷹取晴翔様」
「は、はい」
「あなたはアランという男を倒すと言ってくれたよな?」
「はい」
「であれば、それ相応の権力をあなたに与えなければなるまい」
「権力?」
ベルン王は、自分の黄金の指輪を外し、俺にそれを渡した。
「総司令官になってくれ。そして、あなたの強さと聡明さでこの国を守ってくれ。悔しい話だあ、我が国では悪魔と化したアランを倒せる人は一人もいない……」
「お、俺が総司令官!?」
「俺はずっと貴方を見てきた。ぽっと現れて、我が民たちの生活を脅かす強いモンスターを倒してくれましたな?」
「……はい」
「だから、鷹取晴翔殿が適任だと思った」
「俺にそんな資格は……」
「メディチ家に認められた貴方以外に一体誰がいる!?」
「……」
ベルン王は一歩も引かない。
知的な顔からは、人を圧倒する名状しがたいオーラが漂っているように思える。自分の国を守るために、保身ばかり考える訳ではなく、なんの躊躇いもなく、破格の提案をするその大胆さ。
「分かりました。ベルン国王陛下の提案を受け入れます」
鷹取晴翔はベルン王の提案を引き受けた。周りの貴族や王族の中に反対する声はなく、みんな口を揃えて晴翔の強さを褒め称え、男性貴族に至っては、晴翔と一緒に戦いたいと打って出た。
35代の総司令官であるアニエスの夫が死んで以来、長らく空席であったが、晴翔がそのバトンを引き継ぐ格好となった。
自分の恋人が……夫になるかもしれない男が、自分の国の有力者たちに認められるという快感。
アリスはみんなに囲まれた晴翔を見ながら思う。
絶対彼と結婚すると
絶対彼の子を孕むと
そして、
彼に自分が持っている全てを捧げると
アリスは、息を弾ませて、両手で自分のお腹を抱えながら、晴翔を切なく見ている。
そして心の中で密かに決めるのだ。
私は晴翔の奴隷です。
永遠に
気がつくと、アリスの目は
輝きを失い、自分の欲望の坩堝に晴翔を取り込みたいという原初的本能が宿っていた。
追記
Pv100万超えました!!
本当にありがとうございます!
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