第24話 メイドたちも欲しがる魅力的な獲物

 エリゼさんリンゼさん、メガネをかけた内気な(脱衣所で出会した)メイドさんの勢いに押される形で、俺は3人を部屋に入れた。


 広い部屋には男一人と女3人。開け放たれた窓からは噴水から発せられる水の音が聞こえてきた。


 突然のことで俺が戸惑っていると、大人しいメイドであるリンゼさんが頃合いを見計らって話す。


「晴翔様、今度行われる王室主催パーティーに着る服を決めるためにやって参りました」

「な、なるほど」


 いきなり脱げとかご奉仕とか言われたもので、頭が回らなかったが、王室主催パーティーというキーワードを聞いた瞬間納得した。


 でもちょっと不思議だな。普通、フォーマルな服装だと胸や腰周りのサイズを測ることから始まるのが定石だが、目の前にはすでに出来上がった服がずらりと並んでいる。


 なので、俺は小首を傾げて、メガネをかけたメイドと服を交互に見ていたら、俺の心を察したのか、彼女が遠慮がちに口を開く。


「こ、この服は、どれも晴翔様のためだけに私が作った服です……なのでサイズの測る必要はございません」

「そ、そうですか?」

「はい。晴翔様のサイズは……から全部伺っておりますので……」

「っ!」


 なんだかリンゼさんとエリゼさんが向けてくる視線がとても痛いが、なぜだろう……


 まあ、とにかく、せっかく俺のために作ってくれたんだ。


 俺はほくそ笑むエリゼさんとリンゼさんをスルーし、メガネメイドに軽く微笑みを向けてから話す。


「わかりました。それでは、試着してみます。何から着ればいいですか?んとその… …」

「あ!私はハガルと申します!まずこの服を着ていただいて……」


 ハガルというメイドは、隣の洋服ハンガーにかかっている豪華な服のうち一着を俺に渡す。


 それを受け取った俺は小さく頭を下げてから視線で外で待ってくださいと合図した。


 だけど、


 3人は一歩たりとも動かない。


「?」


 俺が怪訝そうな眼差しを3人に向けても、彼女らはここを出ようとしない。リンゼさんとエリゼさんに至っては、頬を少し桜色に染め、急に息を弾ませている。ハガルさんは、目を逸らして、体をブルブル震わせている。一体何を考えているんですか……


「晴翔様、私たちがお手伝いいたしましょう」

「そうですよ!晴翔様の立派なお体はいくら見ても減るもんじゃありませんし、私たちにお任せを!ひひひ……あっ!本音でちゃった……」

「……この間のアニエス様を抱えた時の晴翔様の体をまた……」


 そんな謎の呟きを漏らしつつ3人は近づいてくる。


「あ、あの……ちょっと……っ!」


 エリゼさんとリンゼさんは目を光らせて、凄まじいスピードで俺の制服を脱がして行く。ハガルさんは二人から俺の制服を受け取った。


 俺の体を隠しているのはパンツ一枚のみ。


「……」

「……」

「……」


 3人はそんな俺の姿に色っぽい視線を送ってくる。3美女とは違うけど、何かを欲するような眼差し。


 俺はちょっと気まずかったので、視線を逸らしたが、ハガルさんが咳払いを数回してから言葉をかけた。


「晴翔様」

「は、はい」

「失礼ですが、体を触ってもよろしいですか?」

「え?」

「……これから晴翔様の服をたくさん作っていくことになりますので、その……晴翔様の体をちゃんと色々確かめたいんです……」

「そ、そういうことなら、ど、どうぞ」

 

 震える声で俺に言ったハガルさんは、パンツ姿の俺に近寄って、肩を触り出す。見かけによらず大胆だな。


「……す、すごいお身体ですね……剣士や騎士より体は引き締まっているのに、それでいて無駄のないバランス……」

「そ、そうですか?」

「はい……こんなパーフェクトな体を維持できるなんて……この体が、アニエス様の体を……」

「ハガルさん、なんか息上がってません?」

「はあ……はあ……違います。これは晴翔様の服を作るための……」


 ハガルさんの瞳は揺れている。そんな彼女の姿を見た子供っぽいエリゼさんがツッコミを入れてきた。


「ハガルちゃん!一人で触るなんてずるい!私も触りたい!」

「え、エリゼさん!?」

 

 エリゼさんは急に飛び入り参戦して、俺の腹筋を手で触り出した。


「こ、これはすっごい……」

「……」


 ハガルさんとエリゼさんのやっていることって服と関係あるのだろうか。と、思った俺は大人しいリンゼさんに視線を送って助けを求める。


 すると、


「……」


 いつも冷静で落ち着き感のあるリンゼさんは俺の体を見ては、スカートをぎゅっと握り込んで頬をほんのり赤く染めている。


 そして、意を決したように


「えいっ!失礼いたします!晴翔様!私をお許しください!」

「っ!リンゼさん!?」


 リンゼさんも飛び入り参戦して、俺の太もも辺りを触り出した。


「これは一体……」


 目がやばい3人のメイドに囲まれて体を触られる俺。


 俺が手に持っている服を着ることはしばらくないように思える。


 これって……いつまで続くの?ていうか、なんで3人とも舌舐めずりなんかしてるんですか!?


 そう思った瞬間、






「えっへん!」


 ドアから仕事のできるOLっぽいメイドが現れた。


「シエスタメイド長!」

「シエスタメイド長!」

「シエスタメイド長!」


 3人の声が見事にハモる


 そう。今俺たちの前に現れたのは、シエスタさんである。


「気持ちはわかりますが、くれぐれもはめを外さないように」


 シエスタさんの鋭い言い方に3人のメイドは俺から離れて、頭を下げた。


 シエスタさん……ありがとうございます。


 そう心の中で呟いていると、3人大人しく俺の着替えを手伝ってくれた。彼女らが時々見せるネチネチとした視線が非常に気になるが、正直に言って貴族の服ってどういうふうに着ればいいのかわからないから助かる。


 服はいずれも俺の体にピッタリあっていた。


 デザインは貴族男性服ってググったら出てくるイメージと大差ない。なんだかコスプレをしているような気がしてちょっと恥ずかしいけど、3人のメイド曰く、これが貴族社会では普通とのことだった。


 まあ、王室主催パーティーだし、この国の常識に則った服装で行くのが筋というものだろう。


 そんなこんなで休憩がてら昼飯を食べ、また、パーティーに着るための服を試着しつつメイドさんたちといろんな話をした。軍人だった頃の話や過去に恋人がいたのかなど、話題は多岐にわたる。もちろん3人のメイドさんも自分たちの話を包み隠さず言ってくれて、この王国の女性がどんな価値観を持っているのか、ざっくりではあるがある程度掴めた気がする。


 そして、休憩がてら、バルコニーでボーとしていると、シエスタさんがやってきて、メディチ家の人たちが、俺をどれだけ信頼しているのかについて言ってくれた。公爵家の邸宅に自由に出入りできる権利を与えたり、公爵位を受け継ぐものといつでも会える権利を与えたり、恋人という理由だけで屋敷に住まわせることなど。おそらくラオデキヤ王国や近隣諸国でこのようなことが知れ渡ったら、俺のことを嫉妬する男がめちゃくちゃ現れると言ってくれた。


 だけど、そんな奴らはどうでもいい。俺はメディチ家の人間を守る。そう伝えたら、隣で聞いていた3人のメイドもやってきては、みんな微笑みを浮かべて、あなたこそがメディチ家の3美女を幸せにできる唯一の男性と口を揃えて言ってくれた。


 そうこうしているうちに、アニエスさんとアリスとカロルが帰ってきた。


 自衛隊の制服に着替えた俺と3人のメイドと外で待機していたシエスタさんはいそいそと3人を迎えるために一階へ降りた。


「「お帰りなさいませ!アニエス様、アリスお嬢様、カロルお嬢様」」


 そう口を揃えて頭を下げる数十人のメイドたち。


 美人母娘はそんなメイドたちに微笑みをかける。そして、俺の姿を見ては、とても明るい表情で笑い顔を見せた。


 アリスとカロルはタタタっと小走りして俺に駆け寄る。うちカロルは、俺に飛びついてきた。


「晴翔お兄様!」

「お帰り。カロル」


 と言って俺は魔法学園の制服を着たカロルのピンク色の頭を優しく撫でる。そして、俺にものすごい重い視線を送っているアリスにも口を開いて、


「アリスもお帰り」

「ええ」

 

 俺の恋人。


「晴翔様、今日は私のメイドたちと幸せな時間を過ごしたかしら?ふふ」

「アニエスさん……」


 そんな言い方はやめていただきたい……俺の制服を握っているカロルの手、余計力入ってますよ。


 アリスもいつの間にか、俺をめっちゃ睨んでいるし……


 だけど、やがて姉妹は俺の反応を見て、ぷふっと笑って、さっきの明るい表情を取り戻した。


「晴翔、浮気は

「そんなことしないよ」

「そんな道ならぬ考えをする余裕がないほど、私が愛してあげるから」

「……」


 アリスの目、急にやばいことになっている。


「そうですわ。浮気は男の性だと本で書いてありましたの。だから、そんなこと考えられないように、じっくり……たっぷり……」

「カロルの力があると助かるわ」

「アリスお姉様……」


 二人の姉妹はお互いを見つめあってから、俺の瞳を捉える。


「ふふっ」


 そんな俺たちを見て妖艶な表情を浮かべるアニエスさん。


 俺たちは一緒に夕食を取った。その間、いろんな話をした。


 今日メイドたちとあったこと、アニエスさんの事業の話、アリスとカロルが魔法学園で学んだことなど……


 彼女たちの情報が俺の脳に刷り込まれて行く。俺は日本からやってきた元特殊部隊員だが、今は、メディチ家の豪邸で暮らしながら彼女らを守っているアリスの恋人である。


 食事が終わっても俺は忙しい。


 アニエスさんは貴族としての教養のない俺にいろんなことを教えてくれる。娘しか産んでない自分を責めない夫がかつてそうであったように、俺を責めることなく、優しく貴族としての知識を教えてくれた。もちろん、アリスとカロルも親身になってフォローしてくれる。


 そんな充実した日々を送っていると、


 王室主催パーティー当日となった。





追記



思わぬ伏兵(メイド)

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