第4話 獲物を狙う鷹よりドス黒い何か
X X X
王室主催のパーティ会場にて
煌びやかなシャンデリアが最上級絨毯を照らしている。その上には象牙と最上級のレバノン杉で作ったテーブルの数々があり、銀で作った食器やら金で作った
そして、贅沢の限りを尽くしたパーティを楽しむ上流階級の人たち。その中でも異彩を放つ二人が二人用のテーブルの椅子に鎮座していた。
「みてみて、アリス様とカロル様だよ!お美しい」
「ここラオデキヤ王国における最も美しい姉妹だよね」
「ああ!顔もさることながらお体まで完璧……この世の人とは思えないな」
「俺みたいな伯爵の長男なんかがアピールしても相手にすらされないんだよね……」
「王族からの求婚も一発で断ったからそりゃそうだろうよ」
「本当に住む次元が違うね」
「まるで二つの薔薇が咲いているみたい……」
「この前、謎の集団が敷地を襲ったと聞いたけど、無事に解決したみたいね」
「ああ、噂だと、あの集団は魔法無効化手錠を持っていたらしくて、今王宮管轄の監獄で拷問を受けているらしいよ」
「物騒な世の中になったもんだな」
伯爵やお金持ちの子爵の御子息、御子女と思しき男女が、大人しくお茶を飲んでいるドレス姿の美人姉妹に視線を向けながら話し合っている。
すると、ある若い男一人が美人姉妹の方へと近づいていく。
「アリスお嬢様、カロルお嬢様、お久しぶりでございます」
金髪の男性は会釈をして、笑顔を浮かべた。
その瞬間、美人姉妹は一瞬、冷め切った視線を互いに送って、作り笑いして目の前の男に返事する。
「(カロル)久しぶりですわ」
「(アリス)久しぶりです」
「この前は、謎の集団から屋敷が襲撃されたと聞いてだいぶ驚きました。もし、僕があの場にいたら……3人を安全に守れたはずなのに……悔しい限りです」
この若い金髪の男が握り拳を作り悔しがっていると、妹のカロルが口を開く。
「大丈夫ですよ!私たちは無事なので!ねえ?お姉様?」
「ええ、私たちは全員無事です。お気遣いありがとう」
「もし、何かあればいつでも呼んでください。マンチェスター伯爵家の次男である僕・アランがいつでも駆けつけます」
と言ってから、アランという男は片膝を絨毯にくっつけ頭を下げる。
その彼を見たアリスは、顔を引き攣らせて言葉を発した。
「ええ、気が向いたら呼びましょう」
「僕はアリスお嬢様のためならいつでも命を捨てる覚悟ができております」
「そう?」
「はい」
「じゃ、下がってくれないかしら?私、カロルとお茶が飲みたいの」
「……」
アランという男は、頭を下げたまま顔を歪ませた。
「わかりました。もし、ダンスが踊りたくなったらいつでも僕をお呼びください」
と言って、アランという男は下がった。
そしてその光景を遠いところから見ていた貴族たちが口々にいう。
「あいつも玉砕だな」
「マンチェスター伯爵家の次男か……アリス様と結婚したら、リンスター公爵と名乗ることができるから下心丸見えだけどな。顔はイケメンだけど、あのお二方とは釣り合わない」
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パーティが終わって、姉のアリスと妹のカロルは高級そうな馬車に乗り、帰路についている。
だけど、二人とも表情が暗い。
「気持ち悪い……」
と、アリスが小声で呟くと、カロルが姉の手を掴んで、心配そうに言う。
「お姉様……やっぱりパーティには参加しない方がよかったんですわ」
「……お母様と王族の方々の面子を潰すわけにはいかないんだもの」
「それは……そうなんですけど」
このパーティは前々から参加が決まったことで、事故にあったとしても、王族側からの頼み事を反故にするわけにはいかないという大人の事情をアリスはよく知っている。
だけど、いくら事情を理解しているアリスだと言えども、燃え盛る怒りを抑えることはできずにいる。妹のカロルも同じだ。
パーティ会場でアランという男が見せたあの表情。この姉妹はアランの表情の奥底に隠れている秘密を知っている。
自分を犯そうとしていた男たちが見せていた表情と同じだった。
このメディチ家の姉妹は今まで3回、処女を失いかねない危機に瀕したことがある。
1回目は幼い頃、同じくパーティに参加していた時だった。二人の姉妹の美貌に惚れ込んだ公爵家の男が彼女らを
だけど、クラス5の最上位魔法使いであるアリスは氷の魔法を使って、その男に致命傷を負わせた。この光景を偶然通り過ぎた王族の一人に発見され、王国中が騒然となった。
そして2回目は三年前の事。謎の集団が、屋敷で勤める男性使用人たちとタッグを組んでアリスとカロルと母のアニエスの体を犯すために屋敷を襲撃してきた。
その際、美人姉妹の父が謎の集団と戦い、3人を守ることに成功。だけど、父は、その謎の集団と男性使用人たちから攻撃を受けて、尊い命を失ってしまった。
そして3回目は……説明しなくてもわかるだろう。
『僕はアリスお嬢様のためならいつでも命を捨てる覚悟ができております』
命を捨てる?ふざけるな。あなたも獣のような男と一緒よ。良い人であるかのように装っても、その醜い本性は隠せない。
要するに、この二人は男性を嫌悪している。男たちが送るいやらしい視線を感じると、吐き気がするほどに。
この二人が唯一認める男は父だけ。
だけど
だけど、
その考えが崩れつつある。
あの男との出会い。
名前も知らない謎に包まれた存在。
一度も見たことのない服装で、顔には緑色、褐色、黒色のクリームが塗られていて頭には変な兜を被っていた。
だけど、自分達に毛布をかけながら送ったあの優しい視線と言葉は、いまだに鮮やかである。
『よかった!』
今まで怒りを募らせていた二人だが、いつしか、怒りは謎の感覚へと形を変え、二人は煩悶する。ふくらはぎをしきりに動かし、息を弾ませる。
「……」
「……」
妹のカロルが姉のアリスに話しかけた。
「お姉様……私たちを救ったあのお方は一体誰なんでしょうね……」
「……知らない。なんの見返りを要求せず私たちを救って突然いなくなったことくらいしかわからないわ……」
あの事件から数日が経っているが、この二人の姉妹の中には彼・鷹取晴翔の存在がだんだんと大きくなっていった。
あの男が見せた笑顔を思い浮かべるたびに、動悸が激しくなり、優しい言葉を想像するたびに体が熱くなっていく。
まるで電気でも走っているかのような謎の感覚に見舞われる二人は、妖艶な顔を晒していた。この未知の感覚と感情に対する恐怖と、彼によってもたらされたこの感情はきっと悪いものではないという安心感。相反する二つの感情にアリスとカロルはドレスの裾をぎゅっと握り込んで切に願う。
あのお方にまた会いたいと。
X X X
パーティから戻ってきたアリスとカロルを迎えたのは母であるアニエスだった。
「お帰りなさい」
「お母様」
「ママ……」
アリスとカロルは自分を産んでくれた母のいるところへと駆け寄る。カロルは、無邪気な笑顔を浮かべたまま、アニエスに飛び込んだ。すると、アニエスは自分の愛娘を優しく抱き止める。アニエスの爆がつく乳がカロルの巨が付く乳とぶつかり合い、実に壮観であった。使用人たちはこの光景を微笑みを湛えながら眺めている。
「私のかわいいカロル……無事だったんですか?」
「アリスお姉様のおかげで大丈夫でしたわ」
「よかった……アリスも立派な淑女ですわね」
「いいえ。まだまだでございます」
カロルを抱きしめているアニエス。それを眺めるアリス。だけど、この3人の表情はいつもと違った。
なぜ違うのか……それはいうまでもなかろう。
「あの……お母様……」
痺れを切らしたアリスが口を開いた。
「なんでしょうか?」
「……あのお方について何か新しい情報はありませんか?」
再び足をモジモジさせながらアリスは自分の母に眼差しを向けてくる。その海より深い瞳はブラックホールのように何もかも吸い込む勢いだった。
「残念ながら、まだ……」
「そう……ですか」
アリスは俯いて小さくため息をついた。そしてカロルはアニエスから離れて口を開く。
「あのお方に会いたいですわ……」
と、妖艶な表情をアニエスに向けるカロル。アニエスは、ふふっと笑んでからカロルの頭を優しく撫で撫でする。そして、娘二人を交互に見てから、口を開いた。
「安心してください。絶対見つけますから」
母の迫力のある表情を見て、二人は、体をびくつかせる。あのお方にまた会える……あのお方がここに来る……
そして……
そして……
「わかりました……私は部屋に戻ります」
「わ、私もですわ……」
と、二人は頬を赤く染めたまま、いそいそと各々の部屋へ向かう。その後ろ姿を見て、アニエスは
「あらあら……部屋で一体何をするつもりなのかしら?あのお方が現れてから、アリスもカロルも変わりましたね……ふふ」
アニエスの顔には二つの感情が渦巻いている。母としての母性愛、そして獲物を狙う鷹よりも重くてドス黒い何か。
「シエスタ」
「はい!」
アニエスは、メイド長であるシエスタを呼んだ。
そして、二つの感情を丸出しにしながら言う。
「お金は心配しなくてもいいんです。必ずあのお方を見つけてください」
「かしこまりました!必ず見つけてご覧に入れましょう」
「でも、強引なやり方はいけませんわよ。あのお方がそうであったように、優しく接しないと。とっても優しく……」
艶姿を出し惜しみせず見せるアニエスの心の中で何かが刺激され始める。その刺激は、頭で始まり胸、そしてお腹へと徐々に伝わっていった。
追記
おお、晴翔くん……完全にロックされとる
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