第3話 鷹取晴翔は鷹取晴翔である
王宮から派遣されたと見られる人々が入ってくる事を確認した俺はアニエスさんの邸宅を出る。そして、しばし歩くと、異国風情溢れる街が出てきた。
太陽を見るに時間は14時ほど。
果物や野菜を売っているお店、武器や
「まさしくthe異世界だな……」
日本とは違う環境に戸惑いつつも、憧れていた異世界独特の雰囲気に当てられ、少し頬が緩む。
「とりあえず流れ的にはギルド会館って感じか」
と、呟いてから俺はギルド会館に向かった。
X X X
「名前を教えてください」
「ええっと……名前は鷹取晴翔です」
「たかとり……はると?」
「まあ、あまりここで使われない名前ですが、俺の名前です」
「わかりました!それでは、ここにある冒険者用ステータスクリエイターに右手をかざしてください!」
ギルド会館にやってきた俺は案内係の女性に言われるままに、目の前の石みたいなものに手をかざした。
すると、手から光が発生し、その光が一箇所に集まって、俺の目の前に移動した。しばしたつと、変な数字と文字が見えてくる。なので俺はそれを読んでみることにした。
「たかとりはると、クラスは5、職種は召喚魔術師……てか文字読めるじゃん」
「く、クラス5!?!?!?」
「っ!びっくりした!」
案内係の女性が突然、手で机をパンとたたき、目を丸くした。そしたら、あっという間に周りがざわつく。
「ま、マジかよ……クラス5は初めて見るぜ!」
「しかも、魔法に精通している貴族しかなれない召喚魔術師!?」
「す、すげ……ハイクラスの貴族とかかな?」
「こりゃ、下手にちょっかい出したら、コテンパンにされるやつだ!」
「背もそこそこあるし、体も相当鍛えられている。贅沢ばかりしてお腹が出ている貴族なんかとは格が違うな……」
「あの服装は初めて見るけど、もしかして、他国からきた貴族?」
いろんな会話が聞こえてくる中、俺は受付係の女性に聞いてみることにした。
「俺のステータスって高い方ですか?」
「高いってものじゃありません!これはすごい……クラス5の召喚魔術師は、ここラオデキヤ王国に生息するモンスターや魔物を全部やっつけられるほどの強さを持っています!」
「そ、そいつはすごいですね」
「どうして冒険者登録をしようとお決めになったんですか?差し支えなければ教えて頂けますか?」
「そ、それはですね……」
「それは……」
「クエストをクリアしてお金を稼ぎたいんですよ。所持金ゼロなので」
「「えええええええええええええええ!?!?!!?!?!」」
どうやら、俺は最強クラスの召喚魔術師のようだ。
X X X
と、いうわけで、俺は今絶賛ハンティング中である。
依頼(クエスト)を受けてそれをクリアしたら報酬が得られる。案内係の女性の話を聞くと、俺はめっちゃ強いらしい。なのでジャージ姿のまま耳栓だけしといて、特殊部隊だった頃に使っていた小銃を召喚し、引き金を引く。
たん!たん!たん!
「ぐええええ!」
巨大な猪も
たん!たん!たん!たん!
「ぎええええええ!」
3Mを悠に超える巨大カエルも
俺の放った弾丸になすすべもなく次から次へと倒れていく。
ゴーレムだって同じ。
「おああああああああ!!!」
「っ!あの堅さだと銃は通用しなそうだな。だったらこれだ!」
俺は銃を消えさせ、携帯用対戦車武器を召喚した。
どっしりとした重量感。この世界にきてからあまり時間が経過してないにもかかわらず、とても懐かしく感じられる。
「狙いを定めて……」
「おああああああああ!!!」
「よし……発射!」
走ってくるゴーレムの胸あたりにものすごい勢いで飛んでいくロケット弾。結果は見事命中。
「ぐうううううう……」
と、いう変な音を出しながら倒れて灰になるゴーレムを眺めながら俺は満足げに頷いた。
「すごい……なんでも倒せるなんて……この力があれば異世界無双できるんじゃ……」
訓練を受けるときより臨場感が半端ない。なので、高まる鼓動を感じる俺は勢いに任せて夜までモンスターを狩った。
X X X
複数のクエストをクリアした俺は早速ギルド会館へと赴いた。
「す、すごいです!わずか数時間で、こんなに多くのクエストをクリアできるなんて……」
巨大猪、巨大カエル、ゴーレムの討伐報酬で20万メソ、アイテムの買い取り額が10万メソ。貨幣の価値は1メソ=一円くらいだ。
ちなみに依頼主は農業協同組合の人で、上記の三つのモンスターが畑や農地などを食い荒らしているとのことで、依頼を出したという。弱いモンスターではないため、なかなか依頼を引き受ける冒険者が現れなかったけど、俺のおかげで穀物や青果物の値段が安定すると、ギルド会館の関係者と、他の冒険者たちが喜んでくれた。
何はともあれ、約一ヶ月分の給料に相当するお金が手に入ったわけだ。とりあえず宿を探そう。
と、思いながらギルド会館を出た俺は、夜の街をひたすら歩いた。すると、食欲をそそる匂いが俺の鼻口を刺激する。
「おいっしいイカ焼きっす!今日は新鮮なイカがいっぱい入ったから、食べないと損すよ!ふ〜ふふん〜ふふふん〜」
と、軽いノリの男が鼻歌混じりに炭火でイカを焼いている。
「そういえば、ここにきてからまだ何も食べてないな」
と、一人で呟いていると、足がひとりでに動いた。
「あの、一つお願いします」
「はい!600メソっす!」
「はい」
俺は所持金のうち600メソを取り出し、キレッキレな動きでイカを焼いている男にそれを渡した。
「あざっす!すぐ用意しますんで!」
男は、笑顔のままこんがりと焼けたイカに、赤いソースといろんな香辛料をまぶしてから俺にそれを渡した。
「どうぞどうぞ!」
「ありがとうございます」
竹串に刺された赤いイカ焼きからはもくもくと湯気が立っている。俺は歩きながらぱくついた。
もぐもぐ
「うん……美味しい。これが異世界の食べ物……」
辛すぎずくどすぎず、香辛料がイカ独特の生臭さを程よく抑えてくれている。これは、悪くないかも。
この調子だと、贅沢言わなければ、そこそこ余裕のある生活が送れる。
「俺も店構えてスローライフ……目指してみようかな」
そう笑顔で呟きながら宿を探す俺。
でも、
心が締め付けるように痛い。
宿を見つけ、代金を払い、シャワーを浴びて、ベッドに潜り込んでも、この痛みは消えてはくれなかった。
両親を亡くした俺は、一人ぼっちだった。もちろん、親戚や優しい友人はいたが、ぽっかりと空いた俺の心の穴は埋まらなかった。
ずっと一人ぼっち。他のみんなは、家族も兄弟も恋人もいて、居場所があって、とても幸せそうだった。
だけど俺は、家に帰ったら、見えるのは埃の積もった誰もいない部屋。
ここにきても同じだ。
異世界に転生しても、鷹取晴翔は鷹取晴翔だ。
そんな当たり前の事実を今になって気づくなんて、俺は愚か者だ。
唇を噛み締めて目を瞑ったが、この残酷な事実は消えてくれない。
「……」
だけど、この辛い事実を吹き飛ばすような風景が頭をよぎった。
アニエスさんとアリスとカロル。
『ありがとうございます……本当に……』
俺が二人の男を始末し、アニエスさんに毛布をかけたときに、彼女に言われた言葉。
色っぽくて切ない表情と潤んだエメラルド色の瞳。
そして娘であるアリスとカロルもアニエスさんと似たような視線を向けていた。
『よかった!』
『っ!』
『っ!』
下着が見える二人に毛布をかけてから俺が放った言葉。
今でも思う。
本当によかったと。
彼女らがひどいことをされずに済んで本当によかった。
「ふふっ」
思わず頬が緩んでしまう自分を戒めようとしたが、釣り上がった口角はなかなか元には戻らない。
俺の心にのしかかっていた苦しみも、いつしか消え失せ、睡魔が差してきた。
今日は気持ちよく寝れそうだ。
けれど、あの3人の美人母娘の表情は既に脳裏にこびりついていたので、俺が眠りにつくまで離れなかった。
追記
次回は母娘が登場します!
楽しみにしていてください!
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