第31話 宝物庫探し

 ぼとり、と地に落ちたミリュエルの首へ、リシュエルは無表情なままに近寄ると、続けて崩れた伏した胴体と首をつなげ、ミリュエルの身体へ綿密にルーンを刻み込んで行った。


 やがて全身にルーンを書き終えると、ぱん! と両手を合わせ呪詛を紡いだ。


死者傀儡リビングデッド


 その瞬間、ミリュエルの全身に刻んだルーンが激しく光り、もぞもぞと体が動き始めた。


「どう? 会話はできそう?」


 リシュエルが素っ気なく問うと、


「こふっごふ……あ~あ~……何とか、喋れるわね」


 ミリュエルは喉に詰まった血を吐き出してから応答した。


「お母さん感動だわ~。あの泣いてばかりで炎の矢ファイアアローすら発動できなかったあなたが、まさかデュラハンの作製に成功するなんて~。しかもその素材が母親だなんて、運命感じちゃうわ~」


 起き上がり、両手で自らの首を抱え上げるミリュエルが、どこか嬉し気に微笑む。


「アンデッドになっても緊張感がないわね……そんな無駄話をするために不死化させたんじゃないわよ、!」


 今の立場を認識させるため、リシュエルは敢えて母の名を呼び捨てにした。

 すでに二人の関係性は親子ではなく、支配者と配下に成り代わっているのだ。


「はいはい、ご主人様はお厳しいこと。アバドンと言ったかしら? その子の首を返せばいいんでしょう?」

「わかってるなら早くして」

「まだこっちは同調が完全に済んでいないのに、不死使いが荒いわね~」


 ミリュエルはふらつきながら立ち上がると、手を滑らせたのか首を地面にぽろりと落とし、がつんと顔面をしたたかに打った。


「あいた! 意外~、頭ってけっこう重いのね~」


 打った箇所をさすりながら、今度はしっかりと抱え込むミリュエル。


「さ、じゃあまずは宝物庫に行きましょう……というか探しましょうか」


 半壊した城を前にしてミリュエルは肩を竦めた。


「そうねえ。日暮も近いし、明日でもいいんだけど」


 見るからにうんざりといった風情のリシュエルがそう言うも、


「いや、そう時間はかかるまい」


 それまで無口だったアバドンが声を発した。


「ここまで近付いて気が付いた。吾輩の首と思しき呼び声が感じられる」

「じゃあそっちの方向へ行ってみましょうか。近くに行けばアイン達が匂いで見付けるかも知れないし」

「クゥン」


 かくして一行はアバドンの後に続いてしばし歩む。


 そしてアバドンが足を止めた先は、見事に瓦礫の山が積もっていた。上方に、かすかに大扉の名残が見える。奥が宝物庫であるのは間違いないようだ。


「あらまあ残念ね~。でも自業自得よ~? 人の城を滅茶苦茶にしてくれたのは、他ならないあなたなんだから」


 ここぞとばかり嫌味を飛ばすミリュエルだが、


「この程度、障害の内にも入らん」


 アバドンが右手を大きく掲げると、どくん脈動音が響き、瓦礫の山と同等の大きさまで膨れ上がったではないか。


 そして間髪入れずにフルスウィングすると、大扉の前に積もった瓦礫はほとんどが吹き飛び、あるいは崩れ去った。


「……脳筋って怖いわね~……」

「それはたまに私も思うわ……」


 親子の呟きを背に、大扉も拳でぶち抜いたアバドンは、ずかずかと中へと入って行った。

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