第30話 驚愕の事実
リシュエルが驚いたのも無理はない。女の口から出た名は、幼い頃に亡くなったと言われていた母の名だったのだ。
「? 何で隠居魔王の私の名前を聞いて驚くのかしら~」
小首を傾げるミリュエルに、
「あたしの名前はリシュエル! あなたの娘だからよ!!」
「あらあら、偶然ね~。こんなところで合うなんて。元気してた~?」
「それが生き別れになった娘と久々に会う態度かああああ!!」
まるで近所の知人に出会ったような気軽さで返すミリュエルに、リシュエルは激しいタックルと共に抱き着いていった。
「あらあら。甘えんぼさんね~」
「そりゃそうでしょ! 母上がいなくなってからずっと家族にいじめられてきて、復讐が終わった途端に生きてました、なんてずるすぎるよ……」
感涙にむせぶリシュエルの頭を撫でながら、
「そっかー。あのろくでなしどもも、こうやって滅ぼしてくれたんだ。手間が省けて良かったわ~」
などと、娘を労わるでもなく物騒な方向へ会話が逸れてゆく。
「母上……?」
様子の変貌したミリュエルに疑問を覚え、埋めていた胸から顔を上げると、壮絶な笑みがそこにはあった。
「なるほどね~。私を死んだことにしておいた方が汚点は少なく済むものね。あのババアの考えそうなことだわ」
「母上、何を言っているの……?」
リシュエルはよろよろと後退しつつ、ミリュエルに震える声で問う。
「分からない? 私も、あなたと同じで国から逃げてきたのよ。赤ん坊だったあなたを置いて、ね」
その言葉はリシュエルにかつてない衝撃を与えた。
これまで母は死んだと聞かされてきたものが、実際はどうだ。母親は国から逃げる為に自分を捨てて行ったと言う。
「う、嘘よね……? 自分の子を置いていくなんて……」
「本当よ~? だってだってろくに魔力のない子なんて
まったく悪びれずに真相を明かしていくミリュエルは続ける。
「それにしても、親子ってやっぱり似ちゃうのね。私が出奔したのは死霊術の研究のためだけど。まさかあなたまで死霊術に傾倒してダークエルフにされてるなんて思わなかったわ~。あはは、おっかし~」
「これは! あなたが守ってくれなかったから仕方なく!」
「でも、死霊術のお勉強は楽しかったでしょう?」
「……!」
リシュエルは言い返すことが出来ず、その場に固まった。
「私はあなたにとっては最悪な母親かも知れないけど、あなたは私にとっても最低な娘だわ。せっかく辺境に引き籠って、存分に死霊術の研究ができるように整備したっていうのに、この有様だもの~。ひどいわよね~?」
徹頭徹尾、自分の事しか頭にないミリュエルの発言に、リシュエルは自分の中の何かがぶつりと切れた音を聞いた。
「なんか……もういいや……アバドン、用を済ませて」
「よいのか」
「うん。冷めちゃった」
一瞬でも生身の母親と触れ合えると期待した自分が馬鹿だったと、リシュエルは後悔した。
「アバドン? デュラハンを支配下に置くなんてやるじゃない。……あら……その気の流れ、どこかで……」
「思い出せなくば教えてやろう。我輩は人間界で貴様の手下と争い、首をねじ切ってくれた戦士よ」
「ああ、ああ! 思い出したわ~。使い魔と一緒に首がついてきちゃった子よね。もちろん首は大事に大事に保管してあるわよ。まあ、城が半壊した以上、今も無事かは保証しかねるけど……」
「それだけ聞ければ十分である」
その瞬間、アバドンはミリュエルの目の前へ一瞬で移動する。
「な」
あまりの速さにミリュエルは反応できず、使い魔を呼び出す暇さえ与えられず。
「正当な復讐だ。貴様も首なしにしてくれよう」
言うが速いか、アバドンの手刀がミリュエルの首を刎ねていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます