第29話 王城陥落
アバドンの巻き起こした竜巻は、湿地帯を真っ直ぐに横断し、魔導国の王城へ突っ込み、半壊させてからようやく勢いを止めた。
城内にいたと思われる術者に何事かあったのか、遠隔操作が必要な巨大アンデッドは軒並み動きを止め、こちら側の良い的となっていた。
これにより兵力差も傾き、リシュエル操るアンデッド部隊の進撃速度が大幅に向上、あっという間に魔導国の敵を討ち果たし、王城を包囲するところまで取り付けたのだった。
「さあて。まだ白旗を上げないのかしらね?」
竜巻に巻き込まれないよう、後からデスウルフ達とゆっくり進攻していたリシュエルは、アバドンに追いつくなり無邪気に笑った。
「戦力的には、これまでの国で最も優れている。まだ終わりとは限らんぞ」
戦については誰よりも真面目に考えを巡らせるアバドンの発言に、リシュエルははっとする。
確かに王城は半壊したが、中にまだ戦力が残っているかも知れないのだ。
「じゃあ、それこそ張り切ってもらわないとね」
リシュエルはすでに観戦気分でアバドンへウィンクを飛ばす。
「いい気なものだ。まあいい。我輩もまた先のような大技を出すに、貴様がいることを考慮はせん。精々自分の身を守っているのだな」
「えー、そんなー」
そのようなやり取りをしていると、
「さっきみたいな大技はもう勘弁して欲しいな~。お城が全部なくなっちゃう」
甘ったるい妖艶な声が二人の間に割り込んだ。
「誰?」
リシュエルが辺りを見回すも、それらしい人物はいない。
見かねたアバドンが、
「三階にぶら下がっているあれだろう」
斜めの瓦礫と化した王城の一角にしがみついている女を指差した。
「わかってるなら助けてくれないかな~? そろそろ腕が限界なの~」
全く戦場には似つかわしくない声だが、着衣や装飾品から相当な職、王本人であることも考えられた。
「あなたが魔導国の魔王? 今すぐ降伏するなら助けてあげてもいいわよ!」
相手が熟年のダークエルフということで対抗心が芽生えたのか、リシュエルが高圧的な交渉に出る。
「するする~。降参で~す」
緊張感の欠片もなく、降伏宣言をするダークエルフ。それを裏付けるように、戦闘中だったアンデッドらの動きがぴたりと止まった。
「これでい~い? あ、もうげんか~い」
腕をぷるぷる震わせていたダークエルフは、音を上げて手を滑らせ落下してしまった。
「仕方ないわね。アイン、ツヴァイ、ドライ!」
「バウ!」
三体のデスウルフは、素早くダークエルフの着地点に密集して、その身を受け止めた。
「ありがとね~。いい子いい子~」
三頭を均等に撫でると、地上に降り立つダークエルフ。
居住まいを正すと、流石に気品があり、絶世の美女と呼んで差支え無い。
「それで、あなたがこの国の魔王で合ってる?」
用心のため、デスウルフで囲んだまま問うリシュエルに、ダークエルフはあっけらかんと答えた。
「ええ、そうよ~。魔導国元首、ミリュエル・ド・エルヴンで~す」
「はあああああああああああ!?」
女が名乗った途端、リシュエルは思わず困惑の絶叫を上げていた。
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