第28話 湿地の国への侵攻
「泥沼ね……」
「泥沼であるな」
戦場を見渡す高みの崖へ陣取ったリシュエルとアバドンは、互いに呟いた。
眼下では想定もしていなかった激戦が繰り広げられている。
即ち、アンデッド対アンデッド。
そう。
最後に残ったユーデリア魔導国の主力兵士も、こちらと同じくアンデッドで構成されていたのだ。
しかも魔導国の国土はほとんどが湿地帯で占められている。
そんな場所で不毛な争いが繰り広げられているのだ。
どこまでも泥沼としか形容できない状態であった。
「これじゃ確かに鎖国も当然よね」
「うむ。罪に問われ、どことも国交を結べまい」
そもそも魔導国自身が国交を望んでいなかったらしく、国境へは強力な結界が張られていた。
しかしアバドンの奇跡によって
事前の作戦では、今やレイエン帝国を飲み込み10万を超えた軍団をもって、一気に首都まで進撃するというものであったが、その目的は見事に打ち砕かれた。
そう。相手方のアンデッドの出現のせいである。
互いに倒し倒され、そしてまた立ち上がっては剣を交えるという、泥沼の如き戦をすでに半日続けており、完全に膠着状態へと陥っていたのだ。
「私のアンデッドと互角なのが、また生意気ね……!」
当初の目的である首都はおろか、国境線すら破れていない現状に、リシュエルはかなり苛立っていた。
他のことはともかく、アンデッド作成においては絶対の自信を持つリシュエルである。下位の兵士ですら手を抜くことなく作られており、その辺の自然発生したアンデッドなど目ではない戦闘力を持っている。
それだけに、この状況の異常さも一際目立っていた。
「魔導国側にも、死霊術師がいるのは間違いないようね。しかも私に匹敵する程の。あなたと戦った使い魔もアンデッドの可能性が高いわね」
「やはりそうか。おかしいと思っていたのだ。尋常な生物が、吾輩に首をねじ切られながら反撃してくるなぞ。しかもその後、転移術まで使うときた。貴様の言うように、この国の王が吾輩の首を持っているのであろう」
これまで静観を決め込んでいたアバドンが、のそりと崖の縁に寄った。
「動くの?」
「うむ。これでは埒が開かん」
リシュエルに応えるなり、ひゅっとその姿を消すアバドン。崖を蹴り、戦場の
狙った先は、一際目立っていた敵方のヒュージスケルトンだった。
巨大な頭蓋に勢いの乗った重い蹴りを炸裂させ、一撃で地面に沈める。
その振動が収まらぬうちにも素早く行動を続け、アバドンはヒュージスケルトンの両足を小脇に抱えると、ゆっくりながら並行に回し始めた。
次第に動きに慣性が乗り始め、ぶんぶんと回転速度が上がってゆく。
周囲の敵兵はそれを止めようと群がって来るも、すべからくジャイアントスイングの餌食となって砕け散って行った。
やがてアバドンの回転が最高潮に達すると、巨大な竜巻となって周囲の敵味方の別なく飲み込んで、正面に見える魔導国の城へと進撃を始めた。
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