第27話 晩餐会
エルヴン兵の残党狩りを済ませ、無事お目当てのミスリル鉱床を入手したレイエン帝国は、上機嫌で大勝の祝賀会を開く事を宣言した。
協力者関係にあったリシュエルも当然招待されたが、念願の玩具が手に入り、それどころではなかった。
そこで義理を通すため、アバドン一人が晩餐会へ出席するとことになった、
式典とはとかく面倒ごとが多いものである。王や宰相、騎士団著王などの長い祝辞の合間に楽団の演奏が入り、なかなか本題へと入らない。
アバドンはバルコニーに一人出て、パーティの進行を待っていた。
「おお。こんなところにおられたか」
しばらくすると、出番が終わったのか、エスデルクがバルコニーに出てきてアバドンへ声をかけた。
「共に戦い、特に大活躍をされたそなたの話を、皆聞きたがっている。是非とも一声頂けまいか」
「辞退しよう。吾輩は戦士にして政治家にあらず。最低限の義理を果たすためにここへいるだけである」
「そこをなんとか、一言だけでも頼む」
頭こそ下げずにいるが、皇帝がここまで下手へ出て頼み込む事など、本来あってはならないことである。
アバドンは失望し、本来の用事をさっさと終える事に決めた。
「時に皇帝よ。我輩は見ての通り、デュラハンにして己の首を持たぬ。持つべき首を探しているのだが、そういった心当たりはないか」
アバドンは賭け引き抜きで、正面から質問を飛ばした。
「貴殿の首……? つまりは野良デュラハンの首の情報ということか? はて……私のところにはきていないな」
エスデルクの戸惑いは、本物だとアバドンは見当を付けた。
エスデルクの魔力量であれば、さぞ強力な使い魔が作れるだろう。
しかし考えてみれば、エルヴンとの戦争中のレイエンが、わざわざ人間界の視察を行う余裕がある訳がないのだ。
「愚問であった。忘れて貰おう」
この国に、己の首はない。
見切りをつけたアバドンは、唐突に話題を切り替えた。
「ところで、今宵は晩餐会と聞いている。好きなように飲み食いしてよい場らしいな」
「お、おお。その通りだ。貴殿は今回の戦の功労者。作法など気にせず、好きなだけ飲食していってくれ」
エスデルクは、話題が移ったのを歓迎してか饒舌に続ける。
「エルヴンが溜め込んで居った食材も使い、贅を凝らした料理を用意させている。貴殿の舌にあえば幸いだ」
「どれ。では一つ味見と行くか」
言葉を切ると、アバドンは唐突に街全体を覆う程の、大規模な
皇帝は膝をつき、パーティー会場にいた人々が次々と声も無いままに倒れてゆく。
それだけに留まらず、バルコニーから臨める街の灯りが、ところどころで火を消したように暗くなっていった。
生命力を抜かれ、倒れた人々が、燭台を巻き添えにしたのだろう。
やがて街ではぽつぽつと火の手が上がり始めていた。
今の一瞬で、レイエンの民3万ほどの命の灯が消えたのだ。
「ぐう……な、なんのつもりだ……!?」
流石に魔王を名乗る者は一瞬では生命力が枯渇せず、アバドンへ憤怒の視線を送る。
「何のつもりもない。ただの食事である」
「な……!?」
命を奪っているという感情の欠片すら感じないアバドンの返事に、エスデルクは戦慄した。
生ある者達を、本気で食料としか見ていないのか。
「そもそも貴様らとは一時的に目的が合致したに過ぎん。休戦協定も意味をなさぬ今、責められる筋合いはない」
エスデルクは長年の戦争が楽に片付き、浮かれていた自分を呪った。
まさにアバドンの言う通りであったのだ。
「く……所詮は卑しいアンデッドであったか!! しかしこのまま民を貴様の晩餐にさせる訳にはいかん!!」
その絶叫をそのまま呪文と成したのだろう。燃え盛る豪炎、鋭い氷柱、天からは稲妻が、それぞれアバドンの身を襲った。
三重詠唱とは魔王の面目躍如であるが、それも平時であればこそ。
威力の落ちた魔術はアバドンを傷付けず、逆にエネルギーへと変換されてしまった。
「うむ。今のは悪くない味だ」
渾身の魔術を吸収し、味わう様を見た瞬間、エスデルクの表情に絶望が満ちた。
「……ば……化け物め……!!」
「ふん。貴様もそうか。最後まで死に抗わぬ、戦士ならざる為政者か。であればもう用はない」
「誰か、誰かおらぬか!!」
腰を退いて逃げ出そうとするエスデルクを片手で持ち上げると、
「さらばだ、皇帝」
アバドンはばくんと開いた胸元へと皇帝を押し込み、
その日、レイエン帝国は呆気なく滅亡を迎えた。
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