第17話 魔界の地理
「これまでバタバタしてて教える暇がなかったけど、今から軽く地理の説明をするわね」
テーブルに広げた地図を伸ばしながら、リシュエルがアバドンを招く。
「この魔界は、現在は大きく分けで4つの国で成り立っているわ。もちろんそれらに属さない少数部族はいくらでもあるけど、重要なのは、東西南北に位置取る4つの大国よ」
とんとんと地図を指差し、国の位置を示していくリシュエル。
「今いるのが西を占めるジュウラス王国。自由な気風が特徴的でね。大きな都市はなし。領民も千差万別。大型モンスターから魔界人まで、自給自足で暮らしているわ。言ってみれば、魔界の野生を一番よく表してる国ね」
「それでも問題があれば、国の兵が動くのだな」
「そこだけはしっかりしてるのよね。まあ基本平和だから、取った税分の働きしかしないけどね。4大国の中で、兵の士気も練度も最も低いわ」
「ふむ。それでも他国の侵攻を許さない何かがあると?」
アバドンが鋭い質問を飛ばすと、リシュエルは我が意を得たりと大きく頷いた。
「鋭いわね。国の名前にもなっている魔王、ジュウラス。獣王とも呼ばれるこいつの戦闘力はずば抜けてるわ。またあとで紹介するけど、北の軍事国家、レイエン帝国兵1万の侵攻を、たった一人で撃退した勇士なのよ。それ以来帝国はジュウラスと不可侵条約を結び、表向きは友好国となっているわ」
「ほう。なかなかの剛の者ではないか。
怯えるどころか楽し気なアバドンに、リシュエルも同意した。
「ええ。今のあなたなら正面切って戦えると踏んでいるわ。何たって、最高の
トロルを丸呑みにしたことで、アバドンの肉体は半ば朽ちることの無い生命力で溢れていた。
魔王達との戦いでも、大いに役立つだろうことは明白である。
「あ、でもこの国はあくまで通過点である事は覚えておいて。ジュウラスは確かに強いけど、魔術に関してはさっぱりと聞いてるわ。典型的な脳筋ね。エーテル海を渡れるような使い魔なんてとても作れっこない。首に関しては外れね」
「構わん。強敵と闘う事こそ我が本懐。要は全ての魔王を辿って行けば、いずれ当たりを引くのであろう?」
自分の勝利がさも当然のように語るアバドンに、リシュエルはこの上ない頼もしさを感じた。
「ええ、そうよ。ジュウラスさえ倒せば、残りの3魔王の誰もがあなたの首を持っていてもおかしくないわ。そして現状、3国はこちらの戦争に関与する余裕がない。蜂起するには絶好のチャンスなの」
リシュエルは言いながら、大陸を二つに別つ大国をそれぞれ指した。
「現在北のレイエン帝国と、南のエルヴン共和国は戦争中で、他所に構っている場合じゃない。東のユーデリア魔導国は鎖国主義で、どことも国交を結んでいない。つまりジュウラスにはどこからも支援が来ない。叩くなら今って訳!」
テーブルを力強く叩くと、リシュエルは顔を上げ、アバドンを視線で射抜いた。
「やるからには、他の国をビビらせる意味も込めて、徹底的に潰すわよ」
「無論である。闘争で手を抜くなど、主が許さぬ」
「それを聞いて安心したわ。兵同士の戦いはこちらが有利と踏んでるけど、結局のところジュウラスの相手が務まるのはあなただけなんだからね。期待してるわ」
リシュエルはほっとした笑みを見せ、地図を畳み始めた。
「何にせよ、戦争の口火はアンデッド達が切ってくれるわ。国が勝手に弱っていく様を、私達はしばらく高みの見物と行きましょ」
「我輩が前衛に出ては、ジュウラスが真っ先に駆けつけてしまうか。それでは兵の士気が上がってしまうな。待機も仕方あるまい」
「分かってるじゃない。雑魚同士のぶつかり合いなら、ジュウラスは出てこない。そこに落とし穴がある」
「
「もっと褒めていいのよ。ぱっと思い付いたにしては上々の策でしょ?」
「うむ。非道で姑息な策を考えさせれば、貴様の右に出る者はいまい」
「それ褒めてるの……?」
「無論だ」
「あ、そう……」
「真の闘争に情けが入り込む余地などない。その意味で貴様は最も効率的な策を立てる才がある。素直に誇るべきだ」
「ま、そうよね。ダークエルフと言えば極悪人。今更善人ぶって手加減なんてする必要はないわよね」
今度こそ吹っ切った様子で、リシュエルは邪悪な笑みを浮かべる。
「ちょうどいいわ。ジュウラスを倒して、魔王の称号も頂こうじゃない。死霊術師の戦がどんなものかを、存分に見せつけてからね」
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