第9話 ゴブリンの巣強奪作戦

 そうだった。


 今は大喰らいと怪力では負けない巨漢が側にいるではないか。


 リシュエルはアバドンの言葉に安堵を覚え、心の平静を取り戻した。


「罠も伏兵もない! 起きてるゴブリンは、トロルの世話をしてる数匹と、出入り口の見張りだけ。後は広場や通路で寝こけてる。それなら取るべき作戦は……!」

「正面から速攻であるな]

「そうよ! アバドンは一人で平気よね。あと二つはあたし達が分担するから」

「今更だが、貴様らだけでやれるのか」

「舐めないでよね。通路一本分なら、アッシュガストで壁を作って、広場まで押し込んでやるわ。残った一つは、アイン、ツヴァイ、ドライがいれば十分よ」


 デスウルフ達が、呼ばれた順にグルルルと牙を見せてゆく。


「心強いことだ。戦神の名の元に、我等に武運があらんことを」


 アバドンが祈りの所作を切ると、絶対に上手く行くという自信がリシュエルの胸にみなぎった。


「この灰を持って行って。それで合図を送るから、同時に突っ込むわよ。広場で合流したら、トロルとゴブリンを分断するわ」

「承知。では配置に着く」


 アバドンは少量のアッシュガストを握り締めると、山の裏手の出入り口へと向かって行った。


「あいつは大丈夫……あたしも大丈夫……絶対に勝てる」


 デスウルフ三頭の頭をまとめて抱き締めながら、ぶつぶつと己に言い聞かせると、リシュエルの顔からは迷いは消えていた。


 顔を上げると、斥候に出していたアッシュガストを呼び集め、眼下のゴブリンの元へ向かわせる。


 一気に回りを取り囲まれ、混乱するゴブリン達だが、気管に灰が潜り込んで、悲鳴を封じられたまま酸欠で倒れた。


 そしてリシュエルはそのままアッシュガストに出入り口を塞ぐよう命じると、自らはアインに飛び乗り、もう一つの出入り口へ向かう。


 デスウルフの機動力をもって瞬く間に配置に着くと、自身はローブの裾から小型の短弓を取り出し矢をつがえる。


 こちらの出入り口でも見張りはほぼうたた寝状態であり、危機感のかけらもないことを窺わせる。それだけトロルの力を信用し切っているとも言えるが。


 ともあれリシュエルは作戦開始をアバドンに告げ、自らも木陰からデスウルフに跨ったまま躍り出た。


「時間が命よ! 寝惚けてるうちに喉を掻っ切ってやりなさい!」


 言いながら、リシュエルも短弓を構えて起き抜けのゴブリンの喉元を射抜く。さすが森の民は伊達ではないようだ。


 残り二匹のゴブリンも、ツヴァイとドライが素早く仕留め、中へ危急を知らされずに済んだ。

 ここまでは予定通りである。


「さあ、これからが本番よ。ゴブリンの巣乗っ取り作戦、開始!」


 威勢よくデスウルフ達に命令を下すと、リシュエル達はゴブリンの巣へと突入していった。

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