第12話 図書館慕情 ⑪
目を覚ますと部屋の中には朝のものとは違う、攻撃的なまでの光量の日が射しこんできていて、そのあまりの眩しさに目を開けるのもためらわれるほどだった。
ゆるりと体を起こし、大きく一つ伸びをする。もう一度寝たくなる気持ちと、自分の家ではないのだからそろそろ起きなければいけないという気持ちの葛藤のすえ、間を取って普段使いしているクッションを空間を繋いで持ってきて、それに身を
歩くのも面倒なのでリビングまでクッションに乗ったまま、フワフワと
「おはようございます、シェリア様」
挨拶を返しながら向き直ったドーリネは私のだらしない姿を見て、困惑の表情を浮かべる。
「シェリア様、そのお姿はいったいどういう……?」
「まだ眠たいのだけれど、無理して起きてきたのよ。それで他の人は?」
「主人は仕事に、ヨルンも図書館に手伝いに行きました。カーヤは近所の方がされている畑仕事を手伝っているので、そちらかと思います」
「そう。あなたはよかったの?」
「ええ、私はシェリア様のお世話をするようにと主人に言われていますし、勤めております店にもその
話しながらリビングのテーブルの椅子に腰かけ、クッションを片付ける。
「それでもうすぐお昼でございますが、ご飯はどうなさいますか?」
「軽めにパンか何かあればもらえるかしら?」
「かしこまりました。飲み物は紅茶でよろしかったですよね?」
「ええ。あなたも一緒に紅茶を飲まない? 私の好きな茶葉をあげるから」
「はい。お言葉に甘えて、ご一緒させてもらいます」
ドーリネは微笑みながら頷く。そんなドーリネの手に空間から取りだした紅茶の茶葉の入った袋をフワフワと飛ばして渡した。ドーリネはそれを受け取ると、キッチンへと姿を消した。そのドーリネの後ろ姿を見送り、眠気に負けないように気をつけながらのんびりと待つことにした。
「お待たせしました、シェリア様」
しばらくすると、ドーリネがキッチンから紅茶の入ったポットと二人分のカップ、食べやすい大きさに切られたバゲットやクープなどの数種類のパンが入ったバスケットをテーブルに並べた。
「すいません、パンにつけるものを忘れていました。バターくらいしか今は用意できませんがよろしいですか?」
「そうねえ……ちょっと待って。いいものがあるわ」
そう口にしながら伸ばした右手はすでに空間の中へ。そこから数種類のジャムを取りだしテーブルに置いた。
「これを使うってのはどうかしら? それにこのジャムなら紅茶にも合うし、ドーリネも使うといいわ」
「いいんですか?」
「もちろんよ」
私の言葉にドーリネはジャムを手に取りラベルに目をやりながら、「しかし、これは一般には出回っていない高級品なのでは?」と当惑したような声を出す。
「いいのよ。このジャムもだけど、さっき渡した紅茶もミアトー産よ。遠慮なく使って。気に入ったら、余った分はあなたにあげるわ」
「そんな……よろしいのですか?」
「ええ。ミアトーもここと同じで私が関わっている村だし、常に私のための備蓄してくれてるのよ。二人だけの秘密のお茶会ということで楽しみましょう」
「では、私もご
ドーリネの目から困惑の色が消え、期待や嬉しさといったものが見える。やはり甘くておいしいものはいくつになっても女性は好きなのだ。
ドーリネは最初は少量のジャムをスプーンですくって口に入れてから紅茶を飲み、ジャムの違いによる味の違いを楽しんでいたが、二杯目からは気に入ったジャムを紅茶に混ぜていて、頬を緩ませていた。
そんなドーリネを眺めながら、私はパンにジャムをつけながら食べた。そのパンはドーリネが長年
そんな二人だけの秘密のお茶会をカーヤが帰ってくる前に終わらせて、そのまま私は帰路につくことにした。
エーレンツの家から真っ直ぐに上空に上がり、まずは外殻に向かう。来たときと同じように衛兵に、
「お邪魔したわね」
と、そっと声を掛けると。衛兵は私に向き直り、背筋を伸ばしながら敬礼をしてくる。
「またいつでもお越しくださいませ、我らが魔女様!」
「ええ。また何かあったら来るわね」
そう言いながら笑顔を向けると、衛兵は一瞬気の抜けたような顔になるがすぐに顔を引き締め直し、飛び去る私を見送ってくれた。
それから高度を再び上げ、自分の家のある森の方へと進路を取った。
そのまましばらく飛びながら、今回ストベリク市でミアトー村の紅茶やジャム、それ以外にも果実酒などけっこう使ったなと思った。ミアトー村の人たちはそのことに気付いたら、すぐに補充しようとするかもしれない。
しかし、今後はストベリク市に行く予定は問題が発生しない限り当分は訪れないだろうし、家に帰れば誰かと食事をするという予定もない。一人で細々と利用する分には使用量は減るので、補充は急がなくていいと伝えるためにも、帰りにミアトー村に寄ることにした。
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