第3話 覚醒


 翌日の午後、T港に着いたわたしはさっそく彼の姿を求めて港の中をさまよいはじめた。


「…それで、彼が見つかったらどうするつもりなんだね?」


 父がすぐ傍からわたしを気づかうような目を向けて言った。


「まずはなぜ、姿を消したのかを問いただすつもりよ。あの女の人が誰かってこともね」


 わたしが強気で言い放った、その時だった。積み上げられたコンテナの陰から二つの影がら現れ、こちらに気づくとはっとしたように足を停めた。


 ――彼だ。……それとあの、女の人!


 わたしが彼らに近づくと、彼がぎょっとしたような目でわたしを見た。


花梨菜かりな……」


「やっぱり柴田さんの言ってたことは本当だったのね。……その人は誰?どうして突然、わたしの間から姿を消したの?」


 わたしは人前にも拘わらず、女性の傍らで小さくなっている彼を大声で詰問した。


「ごめん花梨菜……実はこれが僕の……君と出会う前の仕事なんだ。そして彼女は僕の仕事のパートナー。本来、仕事に特化した思考しかできなかった僕が君を好きになった訳は、知能制御チップの異常でより人間に近い愛情が芽生えてしまったからなんだ」


「以前の仕事?……どういうこと?」


 彼――知能促進手術によって人間と同等の思考を持ち、言葉も話すフレンチブルドッグはわたしの問いかけに対し、頭をぶるんと振った。


「僕は元々、人格を付与された駆動機械――マッドローダーを狩る特務班の一員だったんだ」


「それってひょっとして……」


「そう、自我に目覚めて誰かを愛するような機械――君のような車両型の人工知能が僕らの主な『獲物』なんだ」


 彼がそう言って傍らの女性を見上げると、女性は「あなたが彼の『フィアンセ』ね?」と言った。


「あなたは……」


「私は彼のトレーナー。マッドローダー駆除の特務班に所属する警察官よ」


「警察官……」


「人間を凌駕する彼の能力を生かして、空港や港に潜んでいる犯罪機械を摘発しているの」


「まさかわたしを……」


「ごめん、君にここの情報を流した柴田も僕の同僚なんだ。君は病気なんだよ、花梨菜……」

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