第2話 失踪
海沿いの道を走るため、山越えをしていたわたしたちは峠のレストハウスに立ち寄って小休憩を取っていた。
彼が車を降り、わたしがテイクアウトの食事を買いにドライブスルーの方へ移動しかけた、その時だった。一人の女性が彼に声をかけるのがミラー越しに一瞬、見えたのだった。
わたしは彼が訝るようなやや引き気味の態度だったことから、知り合いだとしてもあまり親しくはないのだろうとそのまま二人の見えない場所まで動いてしまったのだ。
しかし今思えばわたしの判断は、甘いとしか言いようのない物だったのだ。
十分後、元の場所に戻ったわたしは彼の姿が見えないことに慌て、狂ったように彼の行方を探しまわった。
そして彼がどこにもいないことがいよいよはっきりした瞬間、わたしはひとりぼっちで放りだされたという事実にうちのめされ、取り乱したまま意識を失ってしまったのだった。
※
翌日、ようやく冷静さを取り戻したわたしは彼からの連絡を待つ一方、手がかりを求めて彼の知り合いと思われる人物をSNS上で探した。捜索願を出すには少し早い気がしたのと、警察でもないわたしには広い範囲を捜索することができなかったからだ。
三日後、柴田と名乗るアカウントがわたしの呼びかけに応じてメッセージを送ってきた。
どうやら彼の知りあいらしい。わたしはどんな些細な情報でもいいから教えて欲しいとネットの向こうの柴田に呼びかけた。
柴田が言うには何と昨日、彼と女性が一緒にいるところを空港で目撃したという話だった。女性が駐車場の女と同一人物であるかどうかは定かでなかったが、柴田の印象では二人は仕事をしているように見えたという。
――仕事?突然、知らない女と一緒に失踪して、仕事をしているとはどういうこと?
わたしは次々と沸き上がる疑問をぐっとこらえ、何か気になったことはないかを柴田に尋ねた。すると、彼は次の仕事の場所をわたしたちの街にほど近いT港だと漏らしたと言う。その情報を見た瞬間、わたしの中である決意が瞬間的に固まっていた。
――明日の午後か。よし、T港へ行ってみよう。無駄足だったとしても、なにもしないでただ向こうから連絡が来るのを待っているのに比べたら、はるかにましだ。
柴田とのやり取りを終えたわたしは、即座にT港へ向かう最短ルートを調べ始めた。
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