第19話 不安と歓喜
「えっ、あの姉妹と勉強会すんの?」
驚きのあまりゲーム画面から目を離し、コントローラーを操作する手も止まる勝也。
案の定、勉強を始めて一時間も経たないうちに勝也が『あ~、友達と休日一緒にいるのに勉強なんかやってられっか!』と言ったので、今は二人してゲームに熱中している。
「うん」
「あの超絶美人姉妹と?」
「うん」
「女子の家で?」
「うん」
「羨ましすぎるわ!」
まあ、そうなるよな。俺だって未だに信じられないし。
「う~ん、でも妹さんがいるなら露骨にアプローチできないんじゃね?」
「まあでも、星蘿とも仲良くなりたいし」
「………………」
「え、何?」
急に何かを疑うようなジトッとした目を向けてくる。
「お前、まさかとは思うが妹さんに心変わりしてないだろうな」
「……………やっぱりそうなるよな」
「はっ? まさかホントに?!」
「いやいやいや! そうじゃなくて、やっぱりそう思っちゃうよなってこと。心変わりなんてしてない。今でも先輩のことが好きだから」
友達の勝也でさえそんな風に疑ってしまうのだから、告白された身としては尚更そう思ってるよなぁ。
「でもこの前二人でデートに行ったんだろ?」
「だからあれはデートじゃなくてだな。ただ友達として遊んだだけだよ」
「俺とすらそんなことしてないのに?!」
少し責めるような口調で、悔しそうにする。
「だって勝也は部活で忙しそうだし」
「じゃあ俺が誘えば遊んでくれるのか?」
「そりゃもちろん」
「なら許そう」
「何で偉そうなんだよ……………」
腕を組んで納得したように落ち着きを取り戻す。
「でもさぁ、大した行動も起こせてないのに他の女子と遊びに行ったとか、かなり焦った方がいいと思うぞ?」
「う、う~ん………………」
分かっていることとはいえ、正論すぎるその言葉は俺の胸にグサリと突き刺さる。
「てか、先輩をデートに誘うっていうのはどうなったんだよ?」
「ま、まだ誘えてないです」
痛いところを突かれ、思わず敬語で恐縮してしまう。
「だと思ったわ~、二の足踏むのも分かるけどさ、そこは告白した時の勇気を引っ張り出して頑張れよ」
前にもこういうこと言われたな…………。
自分の根性のなさに嫌気がさすが、そう落ち込んでばかりもいられない。
「正直、もうテスト前だからって気を遣わない方がいいと思う」
前回のことを言っているのだろう。
前回は『中間テストが終わったら誘ってみる』とか言っておきながら結局誘えてないし。
いやでも、それは単に勇気がでなかったからというだけじゃなくて、色々あったし。
星蘿と先輩が喧嘩したからとてもデートに誘える雰囲気じゃ………………やめよう、言い訳するのは。それでもチャンスはあったはずなのだから、どう考えても俺が悪い。
「よし! 来週中に絶対誘う!」
自分を鼓舞するように拳を握りしめながら宣言する。
「言ったからな? 必ず達成しろよ」
「うん!」
前回のように言い訳をして後回しにすると何があるか分からない。
来週とは言わず、早速月曜日に先輩を見つけて直接言おう。
「よっしゃ、俺の勝ち!」
そう強く心に誓っていると、ゲーム画面で俺の使用キャラがぼこぼこにされてた。
「おい!」
「油断するのが悪いんだぞ~?」
ちなみに今やってるゲームはス○ブラでした。
いろんなゲームソフトがあったけど、俺が唯一できるのがこれしかなかったのだ。
すまない、ガノンよ…………ただでさえ俺の操作が下手なせいでサンドバッグにされがちだというのに。
楽しい週末はあっという間に終わり、学生や社会人にとって絶望の月曜日がやってきた。
だが、そんなことで気分を落としてなどいられなかった。
授業中もどうやって先輩を誘おうか、何と言えばいいだろうかということばかりを考えていたからだ。
悩みに悩んでいると、いつの間にか六時間目が終わっていた……………悩みすぎだろ。
何も決められていないが、いつまでも教室に残ってはいられないのでとりあえず教室を出ようとする。
今から先輩の教室に行こうか……………ウザいかな…………。
そんなことを考えながら教室を後にして、廊下を歩いていると前方に先輩の姿を見つけた。
そうか! 先輩はいつも放課後になると星蘿を呼びに来るんだった。
「湊くん、ちょうどいいところに」
気合いを入れ直して意気込んでいたところを、先輩の発言によって遮られる。
何か用事があるのだろうか?
「テストが終わったらさ、映画でも見に行かない?」
「へ?」
全くの予想外な言葉で、その言葉を飲み込むのに少し時間がかかった。
「ダメかな?」
「い、いえ、そんなことはないです」
「そう? なら行こうよ!」
先輩から誘ってくれたのが嬉しくて、自分でも分かるほど気分が上がっている。
「先輩、顔赤いですけど大丈夫ですか?」
先輩の頬にはうっすらと紅みがさしている。
「えっ? そ、そう? だ、大丈夫だよ」
自分では気付いていなかったのか、両手で顔を隠してさらに紅くなる。
先輩にしては珍しく、照れた反応が可愛らしい。
「そう、ですか」
「そ、それじゃあ、私、星蘿を呼びに行くから、じゃあね!」
そう言って逃げるようにその場を去ってしまう。
不思議に思いながらも、先輩と映画を観に行けるという事実を噛みしめる。
思わぬ出来事だったけど、結果オーライだ。
当日に先輩の気をできるだけ引けるように頑張ろう。
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