第18話 楽しみな予定
「湊おお~、助けてくれえええ」
「どうした?」
今日最後の授業が終わったので、早々に帰り支度を済ませ席を立ったところで勝也の弱々しい声に呼び止められる。
「テストがヤバイんだよぉ。全く勉強してない」
なんか前回もこんなこと言ってた気がするな。その時はあまり焦ってなかったみたいだけど。
まあそれも仕方ないか。なんと言ったって今回の期末テストは前回の中間テストとは違い、
「十一教科もテストがあるなんて聞いてねえ!」
『異議あり!』と言わんばかりに机を叩きながら切れ気味に叫ぶ。
そう、十一教科である。
国語や英語、数学といった主要科目以外にも、『情報』とか『家庭科』があるのだ。
正直、俺だって勘弁して欲しいと思っている。
家庭科とかどう考えてもその道専門の人にしか必要じゃないだろ。まあ、人としてある程度は身につけておかないと駄目なのは分かるけど。
一応、進学校なんだから入試に関係ない教科のテストを実施するのはやめて欲しい。
「まあまあ、まだ二週間以上あるよ?」
「二週間じゃ足りないっ! 部活も毎日あるし」
「テスト前は休みにならないの?」
「なるけど一週間前からだから」
「そうなのか…………」
部活動生は忙しそうだな。
時々部活に入っておけばよかったと思うことがあるが、こういう話を聞くとやっぱり帰宅部でよかったとも思う。
「一緒に勉強会でもする?」
たった一人の男友達を見捨てることもできず、無難な提案をしてみる。
というか、普通に友達と勉強会というものをしてみたいという気持ちがある。
よく耳にする話では、大抵は勉強会とは名ばかりですぐに関係ない雑談をしたりゲームをしたりするらしいが。
それはそれで楽しそうだし。
「いいのか?!」
その目は、期待とか希望とか信頼とか、とにかく前向きな光に満ちていた。
そんなに頼りにされても大したことは出来ないんだけど。
「まあ、楽しそうだし」
「よっしゃああ!」
飛び上がらんばかりに体中で喜びを表す。
「言っとくけど、俺と勉強したからって急激に頭が良くなったりしないよ?」
そんな風に思ってそうなほどの喜びようだったから、念のため断りを入れておく。
「そんくらい分かってるって」
「いや、勉強会するってだけですごい喜ぶなと思って」
「だって湊と休日に遊べるんだぞ? あの俺以外とまともに喋らないコミ症な湊が!」
おい、俺を喜ばしてるのか貶してるのかどっちなんだ。悪かったな、勝也としか話さなくて。
「ん? ……………って、やっぱり遊ぶ気満々じゃん!」
「あ、バレちった」
別にそれでもいいと思ってるけど、少しくらいは勉強した方がいいでしょ。
「基本的には勉強するぞ? でもぶっ通しだときついじゃん?」
「まあ、確かに」
「だからその休憩として湊とゲームしたいなって」
あ、これは休憩時間が勉強時間よりも長くなりそうだと、直感的に悟った。
「勉強しすぎても疲れるしな」
「だろ? よし決まり! それじゃあ今週の土曜日な!」
「決めるのはえーな。てか部活は? まだテスト休み期間じゃないだろ」
「土曜は午前中だけだから、部活」
「そうなんだ………ん、土曜はってことは一日中部活するときもあるのか?」
ふと疑問に思い、聞いてみる。
「ああ、日曜は十時から五時くらいまであるな」
「ブラックすぎない?!」
何でもないことのように言うが、そんなに練習してたら勉強する時間もあまり取れないし、そもそも疲れて勉強どころではないだろう。
「まあ、好きでやってることだし」
「…………すごいな」
素直に尊敬すると同時に、そんなに一生懸命になれることがあって羨ましいとも思う。
「それじゃ、俺部活行くから」
「ああ、頑張ってね」
颯爽と教室を出ていく勝也を見送り、俺もすぐに教室を出る。
かくして、今週末は勝也と勉強会をすることになった。
…………………なったのだが、勝也とその約束をした日の夜、先輩からこんなメールが送られてきた。
『勉強会しない? 私と星蘿と湊くんで』
「え…………」
何の前触れもなくいきなり言われたので困惑する。
俺と星蘿と先輩……………男女比1対2で?!
いきなり思うところがそれなのかと自分でも思うが、年頃の男子なので仕方がない。
何というか………俺の精神がもたない気がする。
いや、本心は勉強会したいと思ってるけど。
『星蘿はなんて言ってます?』
すぐに『是非しましょう』とは言えないので、とりあえず星蘿の反応を窺う。
『星蘿も乗り気だよ』
『てか星蘿が言い出したことだし』
「マジか…………」
それなら直接俺に言ってくれればいいのに。毎日教室で顔合わせるんだし。
「う~ん……………」
特に断る理由もないしなぁ。これは二人との仲を深められるチャンスだし…………。
『是非しましょう、勉強会』
その後の話し合いで、日程はテスト前の週末の土曜日に決まった。
二週連続で勉強会か……………もちろん嬉しいのだが、周りに人がいると集中できないだろうからその日はあまり捗らないだろうな。
『場所はどうします?』
そういえば大事なことを決めていなかったと思い聞いてみると、とんでもない返信がきた。
『私たちの家でいい?』
図書館とかかなぁ、なんて思っていたので、その提案はあまりにも衝撃的だった。
『先輩たちはそれでいいんですか?』
質問を質問で返してしまい申し訳ないが、再確認せずにはいられない。
多少仲が良いとはいえ、同年代の男子を家に入れるのに抵抗はないのだろうか。
『全然大丈夫だよー』
『あっ、でもエッチなことはしちゃ駄目だからね?』
『しませんよ!』
俺にはそんな度胸も根性も甲斐性もありませんよ…………いや、あってもしないけどさ。
かくして、今週末と来週末は友達と勉強会をすることになった。
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