第11話 真実
作者から
まずはじめに、謝らなければならないことがあります。実はすでに投稿してある11話「勇気を出して」と12話「仲直りと急展開」はボツになった話で、そのことをすっかり忘れていたので誤って投稿してしまいました。本当に、申し訳ございません。今後は絶対にこういうことがないように気をつけます。
ということで、この「真実」が本当の11話です。10話の内容を少し思い出して読んで頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
放課後になり、浮かない顔をしている星羅に声をかけてみる。
「星羅、少し話したいことがあるんだけど、いいか?」
「…………お昼のこと?」
やっぱり、あの時の反応は自分でもおかしかったと分かっていたのか。
否定をせずに話しに乗ってくれたことが、俺を勇気づける。
「先輩と、何かあったのか?」
「…………それは…………………」
その時の星羅の表情は、言おうか迷っているのではなく、何か言えない事情があるように見えた。
「ごめん…………あんまり、言いたくない……」
苦しそうに顔をしかめる。
「そう、か……………」
これは、思っていたよりも深い事情があるのかもしれない。
でも、本人が言いたがっていないのなら無理に追求するのもよくない。
とりあえず元通りの二人に戻ってくれることを願っておこう。
だが、それから一週間以上が過ぎても、二人の様子が変わることはなかった。
相変わらず二人が話しているところは見ないし、星羅も常にテンションが低い。
星羅は話してくれなさそうだから先輩に聞いてみようか。
そんなことを授業中に考えていると、隣にいる星蘿が眠っていることに気付いた。
珍しいなと思いつつも、それも仕方ないよなとすぐに納得した。
現在五時間目。ちなみに四時間目は体育で、昼飯を食って掃除をして今に至る。
周りを見れば、他にも何人か寝ている生徒がいる。
そんな教室の様子を見ていると、俺も寝てしまいたいという気分になる。
実際滅茶苦茶眠いし………………
「姉、さん……………」
意識が半分ほど消えかけていた俺を、今にも泣き出しそうなか細い声が覚醒させる。
隣を見ると、目を閉じたまま両手を頭に押さえつけ、苦しみに歪んだ表情をしている星蘿がいた。
何か様子が変だと思い、机を軽く叩いて起こそうとした瞬間、
「姉、さん………ごめん…………ごめんなさい姉さん…………姉さん…………」
今度は、教室全体に聞こえるほどのはっきりとした声だった。
思わず誰もが星羅を凝視するが、当の本人は全くそれに気付いておらず、今も何かを呟いている。
「ごめん………ごめんね…………姉さん……私のせいで………」
「紺野?」
先生が呼び掛けるが、それにも反応を示さない。
こちらに近づいてきて、軽く星羅の肩を揺さぶると、ようやく目を覚ました。
顔を勢いよく上げ、周りをキョロキョロと見回す。
「大丈夫か? うなされてたみたいだが」
「…………は、い………すみませんでした」
まだ頭がはっきりしてない様子でおぼろげにそう答える。
「保健室に行くか?」
「……………はい」
星羅の顔には大量の汗が浮かび上がっており、自分でもそれが分かっているからか、席を立って教室を出ようとする。
「このクラスの保険委員、誰だ?」
先生が周りを見回して聞く。
「あ、俺です」
控えめに手を上げて答える。
あまりの突然の出来事に呆気にとられていたせいで、少し反応が遅れてしまった。
「一人か?」
「いえ、もう一人は星………紺野さんです」
なんとなく先生の前では名前で呼ぶのが躊躇われたので言い直す。
「すまないが、保健室まで連れていってやってくれないか?」
星羅はこちらを見つめており、その瞳にはほんの少しの期待が混じっているように見えた。
「分かりました」
俺も星羅のことは心配だし、保健室に連れて行くぐらいなら何も問題はないだろう。
教室から離れて、階段を降りたところで様子を聞いてみる。
「気分悪くないか?」
「………うん、大丈夫」
そう言いつつも星羅の顔色は悪いままで、歩く早さもかなり遅い。
保健室には先生がいて、星蘿が自分で気分が悪いことを伝える。
「それじゃあ、俺は教室に戻ります」
話が終わり、後は先生に任せて大丈夫だろうと思い、そう告げる。
「ありがとね、付き添ってくれて」
お礼を言う先生の隣で、星羅は寂しそうに俯いている。
「ゆっくり休んでな」
一言だけ伝えて保健室を出ようとしたところで、制服の袖が引っ張られる。
「……………ここに………いて……………」
その表情と声音は、俺の心を大きく揺さぶった。
「でも………」
「ここに………いて……………お願い………」
「……………」
どうしたものかと助けを求めるように先生を見ると、少し困ったような顔でこう言った。
「仕方ないねぇ。先生には後でうまく伝えておくから」
つまりはここに残ってもいいということだ。
少し罪悪感があるが、星羅の言う通りにしよう。
「誰先生の授業?」
「中島先生です」
幸い、中島先生は優しい、というか生徒にあまり興味がなさそうな人なので後から色々と追求されることはないだろう。
「その代わり、紺野さんはちゃんと寝てなきゃダメだよ?」
先生にそう言われて、星羅は大人しくベッドに横になる。
その隣の丸椅子に腰をかけ、何とはなしに辺りを眺める。
なんか、気まずい。
ここにいてとは言われたが、別に話すこともない(実際はすごく聞きたいことがあるけどこの状況では聞けない)から、何をすればいいのか分からない。
「さっき……………」
何か話題はないだろうかと考えを巡らせていると、星蘿がポツリと呟いた。
星羅を見下ろすと、しかしその目は虚空を見ていた。
「私………何て言ってた?」
無表情の顔をなぜか見ていられなくて、無意識に視線をそらしてしまう。
「……………姉さんって言いながら………謝ってた………」
「………………」
さっきの星羅の様子は、誰がどう見てもおかしかった。
あれほどうなされて、一体どんな夢を見ていたのだろうか…………。
少し考えて、どうしても最近の先輩との様子が結び付いてしまう、
何を、謝っていたのだろうか。
先輩に何か申し訳ないことでもしたのだろうか。
「私……………」
思わず、もう一度星羅の顔を見た…………その声が、震えていたから………泣いてるみたいに。
「星羅…………」
涙こそ流してはいなかったが、その瞳は潤んでいた。
「私…………もう、嫌、だ………姉さ、んを悲しませるのも………湊君、に………嘘つ、くのも
…………」
「……………」
今にも泣き出しそうな顔でそう言う。
何を、抱えているのだろうか。この様子と発言から察するに、何か隠していることがありそうだ。
確かに、入学式の時から不可解な点はあった。
初対面のはずなのに俺の名前を知っていたり、俺と面識があるか聞いてみたら露骨に焦り出したり。
「私………ずっと………湊君に、嘘、ついてた
……………」
途切れ途切れで話すのは、涙がこぼれ落ちないようにしているからだろう。
そこでやっと俺の顔を見る。
なぜか嫌な予感がして、背中を冷や汗が撫でていく。
「あの時………私だったの…………」
あの時………………
「二年前………」
そこまで言われれば、嫌でも何のことか分かってしまう。
二年前…………私だった……………?!
たった二つの言葉から予想したことは、とても信じられるものではない。
「飛び降りようとしてたのは……………死のうとしてたのは…………私、だったの…………」
その瞬間、思い出さないように鍵をしていた記憶の扉が開かれ、時間が巻き戻ったような感覚がした。
大粒の涙を流しながら、大量の雨に打たれながら、色の点ってない目をしていた人は、当時の俺が知っている人ではなかったのだ。
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