第10話 二人の異変
「湊~、食堂で昼飯食おうぜ~」
四限目の授業が終わり、机に突っ伏していると、勝也に呼ばれる。
体育祭が終わってからというもの、中間考査の勉強に力を入れているせいで、疲れがたまる一方だ。
でもまあ、それも残り三日だ。気を抜かずに最後まで頑張ろう。
重い体を起こして食堂へ行き、適当に日替わり定食を頼む。
「なんかすごい疲れてそうだな、大丈夫か?」
二人で窓際の席に座り、各々食事を始める。
「最近少し勉強頑張りすぎてな」
「真面目だなぁ。俺なんてまだろくに手つけてないぞ? てかテスト範囲すら把握してないし。
ははははっ!」
「笑って言えることじゃねえだろ…………」
「まあまあ、俺みたいな奴もいるんだから湊ももう少し気楽にやれってことだよ」
俺の気を休ませようとしてくれているのかよく分からないが、確かに頑張りすぎかもしれない。
「それにさ…………」
そこで突然、勝也は何か含みのある笑みを浮かべる。
「勉強ばっかりにかまけてもいられないだろ?」
「…………まあ」
勝也の言いたいことは痛いほどよく分かる。
"先輩をデートに誘えたのか?"という。
「実はまだ、何も進展なしです………」
なぜか敬語になってしまったが、とりあえず真実を伝える。
「でしょうなぁ~」
呆れ気味に肩を落として答える。
「いや、これにはちゃんとした理由があってだな。テストが終わってから誘おうと思ってるんだよ」
テスト前にデートに誘われたら先輩が困るだろうし、俺だって勉強に集中したい。
「ふ~ん」
「なんだよその目は」
ジトッと生ぬるい目線を向けてくる。
「とか言っちゃって、本当は弱気になって後回しにしてるんじゃねえの?」
何でそんなに俺の思考が読めるんだよ?!
図星過ぎるその指摘に言葉が詰まってしまう。
「やっぱりなぁ~、何で告白する勇気があるのにデートには誘えねえんだよ………」
それは自分でもつくづく思うことだが、さっぱり分からない。
ホント、何で告白できたんだろうな。どう頑張ったってあの時と同じくらい強気になれないし。
「絶対誘うから」
「あ~、ハイハイ」
「できないって思ってるだろっ!」
「だってこのままじゃマジで無理そうだし」
「くっ……………」
確かに俺は根性ないしコミュ障だし顔も別にイケメンじゃないし、てかどっちかと言うとブス寄りだし…………自分で言ってて悲しくなってきた
………だ、だけど! 俺だってやるときはやるんだ!
そんな風に心のなかで何度目か分からない決意表明をしていたとき、勝也の口から嫌でも俺を現実に戻してしまう言葉が発せられた。
「あれ、先輩じゃね?」
「え…………」
勝也の視線を追うと、確かにそこには友達と楽しそうに話をする先輩の姿があった。
「あ、湊くん!」
こちらに気付き、手を振りながら駆け寄ってくる。
「じゃ、俺は空気になってるから、頑張れよ」
勝也は何も見えていないかのように黙々とカツ丼を食べ始める。
「って湊くん、すごい疲れてそうだけど大丈夫?」
勝也もそうだけど、少し話しただけで分かるほど疲れが顔に出ているのだろうか?
確かに昨日も深夜の二時くらいまで勉強してたけど………ってそれもう昨日じゃないじゃん。
「大丈夫です。それより、先輩もなんか元気なさそうに見えますけど」
笑顔ではあるが、どこかぎこちない。
ダンスの練習をしていた時の元気のなさとは違う感じだ。
「えっ? そ、そう?」
先輩も先輩で分かりやすい反応だな。
その時、視界の奥で星蘿がこちらに歩いてくるのが見えた。
隣には友達もいて、まだ俺たちには気付いていないようだ。
「どうしたの? 湊くん」
俺の視線が遠くを見ていることに気付き、先輩は後ろを振り返る。
「………………」
振り向いた先輩は、一瞬だけ固まっかと思うと、ポツリと、悲しげに呟いた。
「星蘿…………」
そんないつもと違う様子を不思議に思っていると、星蘿が俺たちに気付き、そして…………
「え…………」
星蘿ははっきりとこちらに気付いた素振りを見せたが、すぐに気まずそうに視線をそらした。
俺たちの横を何事もなかったかのように、友達と雑談をしながら通り過ぎる。
先輩はその背中を見えなくなるまで追っていた。
「先輩…………?」
『どうしたんですか?』と声をかけようとしたところを、先輩の空元気な声に遮られる。
「湊くんごめんね! 私そろそろ行かないと!」
「えっ、ちょっ、先輩?!」
ひき止める間もないくらい、早足で離れていってしまった。
どういうことだ…………?
疑問ばかりが頭のなかを巡る。
「おい、なんか変な空気になってなかったか? どうしたんだ?」
先輩達が去るまで気を遣って黙っていた勝也が状況の説明を求めてくる。
「俺にも…………わかんない」
「分からない?」
さっきの先輩と星蘿の様子…………明らかにおかしかった。
ついこの前までは見ているこっちが恥ずかしくなるほど仲がよかったのに。
「あっ、予鈴だ。急ごうぜ」
「あ、ああ」
あの二人のことだから、きっとすぐにいつもの仲良し姉妹に戻るだろう。
この時はそう思っていたけれど、中間考査が終わり、しばらく後になっても二人の様子は変なままだった。
前までなら、放課後になると先輩が俺達の教室に来て星蘿を連れて帰っていたのだが、今はそれが全くない。
それどころか、二人が一緒に話しているところすら見ていない。
やっぱり何かあったに違いない。
事情を知りたいけれど、俺なんかが二人の間に介入してもいいのだろうか…………。
あの二人とは多少なりとも仲がいいが、事情を知ったところで俺に何かができるとも思えないし。
…………でもやっぱり、あの二人には仲良くしてほしい。
少し考え、一度聞いてみて何も教えてくれなかったら素直に引き下がろうという結論になった。
となると、どちらと話そうか…………
少し考えて、先輩の様子だと教えてくれなさそうだということで、星蘿に聞いてみることにした。
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