第7話 意外と似た者同士?
開会式を終えて、一人で応援席に座る。勝也はすぐ出番があるので、集合場所へ言ってしまった。
友達ができたのはいいが、やっぱりもう少しいたほうがいいよなぁ。一人でいるのあんまり好きじゃないし。
騒がしい応援の声が響くなか、そんなことを考えていると、肩に柔らかい手の感触が伝わってきた。
斜め後ろを振り返ると、そこには膝を曲げて俺を見下ろす先輩と、真顔の星蘿がいた。
「先輩」
告白をしてからも予想外にも先輩は今まで通りに接してくれていた。
以前、それを自分の都合のいいように解釈しそうになったが、よくよく考えてみれば、先輩は一人で俺に話しかけてくることはなくなった。必ず星蘿がそばにいた。
それが意図的なのかは分からないけれど……。
星蘿を挟むようにして座る。
「湊くんが緊張してると思ってさ、さらにプレッシャーをかけようと思って」
「そこは応援してくださいよ………」
「はははっ! うそうそ、ちゃんと応援するよ~」
「というかそこまで緊張してないですよ」
「うっそだぁ~」
俺と先輩は話すのだが、間にいる星蘿が全く口を開かないので変な感じがする。
「星蘿は何の種目に出るの?」
星蘿とも何か会話をしようと思い、咄嗟に言ってしまった後で後悔した。
「100m走」
そういえば種目決めのときこの話したんだった
………。
星蘿は少しムスッとした表情でぶっきらぼうに答えた。
「そ、そうだったな」
いやでも、このくらいのことで怒る?
「湊くん、ちょっと待っててね」
気まずい沈黙が流れそうになったところで、先輩がそう言った。
星蘿を引き連れて、少し離れたところまで移動する。
急にどうしたのだろうかと思いながら待っていると、すぐに二人は戻ってきた。さっきと同じように俺のとなりに星蘿、そのとなりに先輩が座る。
何をしてきたのだろう。
聞こうとした瞬間、頭を撫でられる感触が伝わる。
「み、湊君はか、可愛いねぇ…………よしよし」
この台詞から、喋ったのは先輩だと思った。
だがしかし、星蘿の手が俺の頭にのっていることに気付き、驚愕した。
「えっ? ちょっ、急にどうした?!」
星蘿は俯いたまま頬をうっすらと紅く染めている。ちなみに星蘿の手はまだ俺の頭にある。
「い、いや、その…………湊くんの頭を撫でてみたくなって」
なんだよその衝動?! 俺を見たら庇護よくでも出てくるのか? 先輩にもよく撫でられるし。
「い、いやだった?」
甘えるような声でそう問いかけてくる。
「嫌というか、急だったから驚いただけで……」
いつも大人しい人に頭撫でられるとは思わないじゃん。
「ていうか先輩が星蘿に何か言ったんですよね?」
「いや~? 私は何も言ってないよ~」
「うそつけ!」
この顔は明らかに俺が恥ずかしがってるのを楽しんでいる。
「星蘿が湊くんの頭を撫でてみたいって言ってたからコツを教えただけだよ」
「コツって…………」
そんなもんないでしょ………じゃなくて! 星蘿が撫でたいって言ったのか?!
未だに俺と顔をあわせようとしない星蘿を見ると、
「…………撫でたかった」
と呟いた。
まじかよ…………この姉妹、母性がすごいな。
「湊くん頭撫でられるの好きだもんね~」
「好きじゃないですっ!」
そんなこと一言も言った覚えはない。
「え~、でもいつも顔紅くなってるし」
「な、なってません!」
多分…………自分の顔は見れないから分からないが、紅くなっている気がしないでもない。
「というか、そろそろ離してもらっていい?」
「えっ?!」
星蘿が驚いたように俺の顔を見上げる。
自覚なかったのかよ…………ずっと手を頭に置かれたまま喋るの恥ずかしかったんだけど。
「ご、ごめん」
パッと手を離し、またもやうつむく。
「湊くん」
名前を呼ばれたので顔を見ると、そこには悪魔のような………いや、"ような"はいらなかった。そこには悪魔がいた。
「お返し、したら?」
先輩はそれだけ言って、具体的なことはジェスチャーで示した。
星蘿の頭上を撫でるように手を動かす。
星蘿は恥ずかしさのあまり俺たちの会話が耳に入っていないのか、何も反応を示さない。
「しません!」
好きな人の目の前で他の女子の頭なんて撫でられるか!
「え~、星蘿も撫でられたいよね?」
本人に同意を求めないでくださいよ………せっかく何も聞いてなかったみたいなんだから。
「え、な、何?」
「だからぁ~、星蘿も湊くんに頭を撫でられたいよね?」
「えっ? い、いや、そんなこと…………ある」
そんなことあるんかい!人の頭を撫でたかったり撫でられたかったりどんな情緒してるんだ?!
「撫でませんよ?! 絶対!」
そんなことしたら一生の黒歴史になる………。
「………………撫でてくれないの?」
逆に何で撫でると思ったの?!
そんな残念そうな顔で俺を見ないでよ…………俺が悪者みたいじゃん。
「お、俺もう行きますね、放送されたし」
いいタイミングで1500m走出場者の召集がされたので、逃げるように応援席を立つ。
「あ~、残念。面白いシーンが見れそうだったのに」
「やっぱり面白がってましたね!」
「はははっ! ごめんごめん」
「まったく…………」
どれだけ人をいじめるのが好きなんだこの人は。
「頑張ってきてね! 星蘿と一緒に応援してるから」
と思ったらしっかり応援もしてくれるからな。なんだかんだ優しいのは分かっている。
「………頑張って」
二人からの声援を受け取り、集合場所へと向かった。
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