第3話 分かりやすい二人
ま、まずいっ! これは非常にまずいっ!
四時間目の授業が終わり、現在昼休み。自分の机で頭を抱えながら、めちゃくちゃ焦っている。
その理由は……………
「友達がいない……………」
あああああ! 何で口に出して言ってしまったんだよ俺?! 余計に悲しくなるじゃん!
高校生活が始まり既に半月が経過しているというのに、友達を作るどころか男子ともまともに話せていない。
周りはある程度仲良しグループができているというのに、俺はぼっち……………。
今もまさにぼっち飯をしようとしているところだった。
しかし、弁当の蓋を開けようとしたところで思い返す。
いや、今からでも遅くはない。フレンドリーな感じで話しかければ、きっと俺のことを受け入れてくれる人もいるはずだ。
教室内を見回し、優しそうな男子がいないか確認する。
「あ、湊く~ん」
だがどの生徒も二人以上で楽しそうに雑談をしながら弁当やら売店のパンやらを食べているのでどうにも話しかけづらい。
「あれ? 湊く~ん」
何てこった…………俺はこの先一年間、ずっと一人で飯を食わなければならないのか。
「湊くんってば」
というか俺以外にもクラスに馴染めてないやつはいないのだろうか。いたら気安く話しかけられるんだけど。
「湊くんっ!」
「ひっ!」
俺が諦めと共に現実を受け入れようとしたとき、突然耳元でものすごく大きな声が響いた。
横を向くと、すぐ近くに先輩の顔があった。
「せ、せんぱい?」
「もう~、呼んでも全然応えてくれないから無視されてるのかと思ったよ~。何考えてたの?」
「い、いや、別に…………」
ぼっちから抜け出す方法を考えてましたとは言えないので、無理矢理話題を変える。
「先輩はどうしてここにいるんですか?」
「あっ、そうそう。私と湊くんと星蘿で一緒にお昼食べようかなって」
なんというグッドタイミング!
「もしかして嫌だったりする?」
「い、いえ、そんなことはないです」
「そう? なら学食に行こうか」
先輩は廊下で待つ紺野さんの方へ歩き出そうとする。
「あ、でも俺、弁当なんですけど」
「私たちも弁当だよ?」
「え? いいんですか、学食で弁当食べても」
学食ってそこで注文したものしか食べてはいけないと思っていたのだが。
「ん~、別に決まりはないと思うよ?」
「そうなんですか」
まあ俺よりも一年長くこの学校にいる先輩が言うのならそうなんだろう。
俺は弁当を持って、大人しくついていくことにした。
学食は思っていたよりも人が多く、ほとんどの席は埋まっている。
なんとか席を確保し、三人で座ったのだが
…………さっきから横を通りすぎる生徒たちの視線を感じる。
多分、女子二人に対して男子一人という状況が珍しいのもあるだろうが……………それよりもこの姉妹が人目を引くんだろうなぁ。
タイプは違うが、二人とも誰もが振り返るほどの美人だし。簡単に言えば、先輩がかわいい系で紺野さんが美人系だろうか。
「急にどうしたんですか? 俺を昼飯に誘うなんて」
できるだけ平静を装って、気になっていたことを聞いてみる。
「湊くんと話したかったから、かな?」
先輩の何気ない一言に、心臓が少し跳ねる。
「それと、湊くんと星蘿に仲良くなってほしいってのもあるかなぁ」
「ね、姉さん、それは言わない約束だって」
紺野さんは箸の動きを止めて、頬を紅く染める。
紺野さん、『それは言わない約束って』言わない方がいいですよ。しかも照れながら。
「いやぁ~、私としてはかわいい妹と後輩に仲良くなって欲しいんだよぉ~」
そんなこと言われたら余計に紺野さんと話しづらくなるんですけど。
「だからさ、ごはん食べながら色々話そうよ!」
「はぁ………」
と、言われましても俺、コミュ障なんです。友達一人も作れないくらいに。
しかもこの状況のせいでさらに緊張しちゃってるんです。
「湊くんはさぁ、好きな人とかいるの?」
とりあえず落ち着こうと水を飲んでいる時にそんなことを聞いてくるので、危うく口から飛び出しそうになった。
「一番最初に話すことがそれですか?!」
「え~、だって男女でお話といったら恋バナでしょ!」
先輩、恋バナって全人類が楽しめるものじゃないって知ってました? 仲の良い女子同士か、男女でするなら陽キャしか楽しめないんですよ。割りとまじで。
「それで、いるの? 好きな人」
目をキラキラさせて食い気味に聞いてくる。紺野さんもチラチラ見てくるし。
二つの視線が俺を逃してくれなさそうだ。
「まあ……………いますけど」
目の前に。
「え~!」
「えっ?!」
姉妹揃って驚いてるし。
「そんなに驚きます?」
「いやだって、まだ入学して半月だよ? そんなすぐに………あ、もしかして他校の子だったりする?」
「いや、違いますけど」
「へぇ~、じゃあ黄梅にいるんだ?」
ま、まずい、なんか自然に誘導尋問のようなことをされてしまった。
「誰、なの?」
これまでほとんど会話に加わらなかった紺野さんが、俺をいじめようとする。これは流石に答えられないので話をそらすしかない。
「そ、そういう二人はいるんですか?」
よし、これでなんとか逃げきることができるだろう。
「……………無視しないで」
逃げきれませんでした。
いつもより少し低めな声で問い詰められてしまう。紺野さん、ちょっと怖いです…………。
「いや流石にそこまでは言えないですって」
「…………ならどうすれば教えてくれるの?」
くっ、中々手強いな。こんなことになるなら好きな人いないって言えばよかった。
「い、いつか! いつか言いますから!」
そんな俺たちの様子を、先輩はにやにやしながら見ている。この姉妹、実はかわいい顔を被った悪魔に思えてきた。
「そうだよ星蘿。一方的に人のこと聞いちゃダメだって。人のことを知りたいならまず自分が話さないと」
と、ここで思わぬタイミングで先輩が助け舟を出してくれる。さっきは悪魔とか言ってすみませんでした。
「えっ? そ、それって……………」
「そう! 湊くんの好きな人を知りたいなら星蘿の好きな人も言わないと!」
違った。俺に助け舟を出してくれたんじゃなくていじりの標的を紺野さんに変えただけだった。やっぱり悪魔………………。
「わ、私は別に…………好きな人とかいないし」
「本当に~?」
「ほ、本当!」
それから後は姉妹のイチャイチャを見せつけられたり、来月の体育祭についての話などをした。
「そういえば俺、気になってることがあるんですけど」
ふと思い出し、この際だからと聞いてみることにする。
「なになに?」
紺野さんに視線を向けてから話す。
「俺と紺野さんって会ったことあります?」
先輩に聞くのも変な話だとは思ったが、俺は覚えてないし紺野さんは教えてはくれなさそうなので仕方がない。
「あ、そういえば私、生徒会の仕事手伝わないとだった~」
この話になった途端に逃げ出そうとする先輩。怪しすぎるでしょ…………。
「ちょっ、先輩?」
立ち上がる先輩を引き止めたいが、すぐに紺野さんも席を立ってしまう。
「あ、わ、私も、何か用事があった気が………」
言い訳が曖昧すぎるでしょ………。
「ちょっ、ふ、二人とも?!」
「湊くん、またお昼誘うから。じゃあね~」
二人とも行ってしまった…………結局ぼっちじゃん。しかも教室より居心地悪いし。学食でぼっち飯とかどんなプレイだよっ!
俺の謎はますます深まるばかりだった。
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