第23話 相談
「女の子と距離を置きたいんだけど、どうしたらいいと思う?」
翌日の朝、俺の席に寄ってきた秀吉に相談を持ちかけた。
山田さんとも約束した以上、これまでと同じというわけにはいかない。
秀俊は顔を上げて、目をパチクリとさせる。
「どうしたんだ、急に。そもそもに潤ってそこまで女子と話してないだろ」
「そうなんだけど、特に山田さんと距離を置きたいと思ってさ」
「あんなに仲良いのに?」
不思議そうに首を傾げる秀俊。やはり周りから見て俺と山田さんは親しくしているように見えているらしい。よくない兆候だ。
「だから、それは勘違いなんだって。元々女子は苦手で距離を置こうとは思ったんだよ。だけど山田さんは隣の席だし、なんか色々あって話すようになっちゃって」
「つまり、山田さんが苦手だから距離を置きたいってことか?」
「……まあ、そんな感じ」
ふむ、と顎を撫でる秀俊。
「別に今のままでもいいんじゃないのか?」
「いや、最近勉強会をしたりして少し関係が曖昧になってきていたし、ここら辺でちゃんとはっきりさせておこうと思ってるんだ」
「そうだったのか。そしたら俺、勉強会に山田さん誘ったのとか迷惑だったか?」
「いや、あれは俺が言わなかったのも悪いし、何よりあの山田さんが誘いにのってくるとは思ってなかったんだ」
「そうなのか? 凄い食いつきだったけど」
「本人に直接勉強会とか面倒だし、自分一人の方が早いって言ってたから」
あんなの誰だって予想できるわけがない。手のひらを翻すにもほどがある。
「まあ、とにかく一度山田さんと距離を取ってはっきりさせたいんだ」
「ふーん。なら一番手っ取り早いのは態度に出すことだろ。嫌がらせの一つでもすれば嫌われるのは間違いないと思うぞ」
「……いや、流石にそれは、な」
秀俊の提案はもちろん自分も考えた。
だけど、山田さんが何か酷いことしているわけではない。
ただ自分の個人的な都合で嫌がらせをして振り回すのは、流石に躊躇われる。
肩をすくめて首を振ると、苦笑いが秀俊に浮かぶ。
「まあ、だろうな。それなら、他には物理的に距離を置くとか?」
「今、隣の席なんだけど?」
山田さんだって俺が隣にならなければ、ここまで話すようになることはなかったはずだ。
全ての原因は隣の席になっていることに起因している。
「大体山田さんと話してるのって休み時間だろ? 潤って休み時間に自分の席にいるから話しかけられてるんじゃないか?」
「確かに……」
振り返ってみると、山田さんと会話しているのは授業中もあるけれど、休み時間の時が多い。
俺も山田さんも基本的に休み時間は自分の席に座っているからだろう。気づいてみれば腑に落ちる。
「だったら、今度からは休み時間は他の人の所に話しかけに行けばいいだろ」
「なるほど。ちょうど今はテスト前だし勉強のことを聞きに行ってるなら不自然じゃないか」
「そうそう。俺としては、潤が女子に嫌がらせして嫌われてる姿も見てみたいけどな」
「やめろよ。俺にそんな変な性癖はないって」
流石にそこまで人間のクズにはなれない。嬉々としてそんなこと出来たら、人間として大事な何かを失っているに違いない。
「とりあえずありがとう。このテスト期間は秀俊の提案の方向で行ってみるよ」
「そっか。他の奴に聞きに行く時は俺も誘ってくれ。ついでなら聞きやすいからな」
ホームルームの時間も近づき、秀俊は帰って行く。気付けばクラスの人も大部分が登校してきている。
隣に気配はまだなく、出入り口に視線を向けると、たまたま山田さんが入ってきた。
小柄な身体にリュックを背負い、黒髪がライトできららと揺れる。レンズの奥の双眸がこちらを捉えると迷うように瞳が揺れて、それから歩いてきた。
「おはよ」
「うん、おはよう」
山田さんはリュック机に置いて、中身を机に入れ始める。白く細い指が数学の教科書を取り出して、机の中に消える。ひとしきり入れ終えると、コトッと机に筆箱を置いた。
隣人同士。その微妙な距離感が俺と山田さんの間に漂う。
うん、これでいい。これでいいはず。山田さんとも約束した以上、隣人以上の関係は望まない。進めさせない。
ここで一度関係をはっきりさせるとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます