第24話 順調
※第21話、第23話の一部の会話、展開を修正、削除しました。確認お願いします。
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秀俊に相談してから二週間。テスト期間の最終日、最後の教科も終わり、あとは夏休みを待つのみとなった。
ずっとプレッシャーに押されていたようで、終わってみると清々しい。胸にのしかかる圧迫感はまったく無くなった。
「いやー、やっとテスト終わったね」
「だね。これで心置きなく羽を伸ばせるわ。早くカラオケ行こうぜ」
市川は手を組んで天井に伸ばし、背伸びをする。んーっと声にならない声が聞こえた。
既に放課後になり、市川が声をかけた仲のいいクラスの男子何人かが集まっている。この後はカラオケに行く予定だ。
ちらっと山田さんの姿を探してみるけれど、既に彼女は帰った後らしい。姿は見えない。
背伸びを終えた市川は真顔に戻ると、そういえば、と言うように指を立てた。
「潤。今回なんか凄い勉強頑張ってたみたいだけどなんかあるの?」
「あー、それ思った。めっちゃ色んな人に聞き回ってたじゃん」
市川と藤崎が同じ角度で首を傾げる。仲良しか。
「大したことじゃないよ。夏休みにシャートンのサイン会があるんだけど、テスト悪くて補講になると被るんだよね」
「……動機は相変わらずシャートンなのね」
呆れたようなため息が市川の口から漏れ出る。馬鹿にされてるのは分かるのだけれど、無駄に色っぽく見えて無性に腹が立つ。
「勉強頑張るなら隣の席の山田さんに聞けば一番いい気がするけど、全然話してなかったよね?」
「あー、それね」
周りで話してる男子達を右、左と見て、頬を掻く。
「よく山田さんと話してないって分かったね」
「そりゃあ、俺の推しカップルだからね」
「……え?」
予想外の言葉すぎた。きっと自分の顔は間抜けな表情になっているに違いない。
「二人、お似合いだと思ってるからさ。俺の勘は、二人は付き合うと告げているだよね」
「……そんな役立たずな勘は捨ててくれ」
にこにこと満面の笑みを浮かべているけれど勘弁してほしい。肩をすくめて見せるが、市川は笑みを崩さない。
「山田さんとは何もないよ。今回については、気を遣った結果」
「へー、なに?」
「山田さんの勉強時間を奪うのは忍びなくてね。あれだけ自分の勉強を頑張っている人に、何回も勉強のことを聞くのは迷惑でしょ?」
「あー、なるほどねー。って、それって俺たちには迷惑をかけていいって思ってることだよね?!」
「……ばれたか。ほら、市川ってなんていうか丁度いいっていうかさ」
「全然褒められてる気がしないんだけど?」
散々俺で遊んでいるんだ。このくらい許して欲しい。日頃の迷惑料だ。
「まあ、山田さんのためを思っての行動だったなら良かったよ。てっきり山田さんのこと嫌いになったのかと」
「……まさか。嫌いになんてなるわけないよ。寧ろ良い人だと思ってるくらいだし」
いっそ嫌いになれたらどれほどよかったか。あんな義理堅く良い人はなかなかいない。
首を振れば、市川は嬉しそうに表情を綻ばせる。
「よかった。じゃあ、まだ可能性は残ってるってことだ。楽しくなってきた」
「勝手に楽しむなよ」
不満を一つため息にしてみたけれど、市川に伝わった様子はなかった。
市川は会話を区切り、周りを見回す。俺もつられて周りを見ると、だらだらと話しすぎたようで既にクラスにはカラオケに行く人達以外はいなかった。
市川の「じゃあ、行こうか」という合図と共にぞろぞろ移動を始める。俺もついていく。
秀俊に相談した日から二週間、効果は的面で山田さんと話す頻度はほとんどなくなった。あったのは授業のプリントの丸付けのために交換した時の2回だけ。
順調と言える。最初からこうしておけば変に親しくなることもなかっただろう。
このまま夏休みも挟み、今の距離感が続いていくはず。
----そう思っていた。
この教室での会話が、山田さんに聞かれていたとは思いもしなかった。
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