第21話 対談
放課後、俺は山田さんと屋上で向かい合っていた。屋上に人はおらず、静寂が辺りを包む。
山田さんの黒髪が夕陽に照らされ、さらさら揺れる。髪に隠れた白い首筋がちらちら見え隠れする。
「えっと、まず確認なんだけど、山田さんがシャートンってことでいいんだよね?」
「……うん、そう」
ゆっくりながらも山田さんは頷いた。
「まだ全然頭の中が整理出来てないんだけど、そもそもなんで俺が山田さんの正体に気付いていると思ったの?」
「昨日のメール。シャートンの新曲についての用件のメールだったから」
ほら、と言わんばかりに左手のスマホに昨日のメールを表示する。件名の下、内容の始まりの部分に、確かにシャートン様と記載されていた。
「いやいや、あんな一瞬でそこまで分かる訳ないよ。件名がちらっと見えたくらいだったし」
「……それに、わざとらしいくらいシャートンのこと話題にするから。てっきり、私の反応を見てからかってるのかと」
「山田さんの中で俺ってそんな性格悪い人になってるのかよ」
そんなまどろこしいこと、わざわざする訳ない。そもそも気付いたら態度に絶対出てる。流石に同級生の正体が憧れのアーティストと知って、冷静でいられるわけがない。
「……だって、神楽くんが紛らわしいことするから」
「勝手に山田さんが勘違いしただけでしょ」
ちょっぴり唇を尖らせて睨んでくるけど、俺は絶対悪くないと思う。山田さんが自爆しただけだ。
「なんていうか、意外と山田さんってぽんこつ?」
「ぽ、ぽんこつ?! 絶対違うし。と、とにかくそういう訳だから、私の正体を人に話すのはやめてほしい」
「うん。それはもちろん」
話したところで信じてもらえるかは怪しいし、わざわざ話すことではない。素直に頷く。
けれど、山田さんはジト目でこちらを見続ける。
「言っておくけど、私の前でシャートンの話題を出すこともだからね」
「え、いや、それは厳しい……」
「厳しいって言われてもこっちだって困る。前から神楽くんのベタ褒め聞かされて、恥ずかしかったし、今回だって恥ずかしかったんだから」
薄ら桜色に頰を染めて、潤んだ瞳で睨んでくる。
確かにシャートンの時の山田さんの様子は少しおかしかった。まさか、そういう理由だったとは。
「……分かったよ。とりあえず山田さんの前で話題を出さなければいいんでしょ?」
「うん。そうしてくれればいい」
まだ方法は思いつかないけれど、とりあえず山田さんがいる時は気をつけるとしよう。そう決意する。
「ほんとうに話題に出すのはやめてね? 変に親しくなるのも。私たちは隣同士なだけ。前にも言ったけどそれだけだから」
「分かってるよ」
昨日勉強会の時に山田さんが言っていた通り、俺と山田さんは割り切った関係だ。それは山田さんの秘密を知ってしまった今でも変わらない。
例え山田さんが俺の大好きなアーティストだったとしても学校でそのことは関係ないのだから。
これからも距離を置いて接していくことは変わりはない。そう改めて心に誓った。
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