反抗期の子供のように

 騙されたなんて信じたくない。私はなんのために西城に体を売ったんだ? 好きでもない男のいいようにされるのも、陸人のためだからできたのに。私は海の方へ向かって走る、けれど砂浜に足が取られて思うように足が動かせない。


 もう嫌だ、死んでしまいたい――。


「瞳!」


 後ろから追いかけてきた陸人はすぐに私に追いついて、私の腕を引っ張り私は後ろに倒れた。


「いやだ! 離して!」


 私は陸人の手から逃れようと暴れるが、私の力は陸人の力には到底及ばない。息を切らして店主も走って駆け寄って来た。


「瞳ちゃん、ダメよ! 彼にちゃんと話さなきゃ」


「うるさい!」


 まるで反抗期の子供のように私は声を荒げて言った。


「瞳、ごめんな。僕が悪かったよ。僕が距離なんか取らずにちゃんと話していれば、西城先輩に気なんて惹かれなかったよな」


「違う! 西城なんか好きじゃない!」


 私は大粒の涙を流し、叫んだ。


「騙されたの! 言うことを聞かなかったら陸人を東北支店に飛ばすって脅されたの。だから陸人を守りたくて……」


 砂浜の砂が私の顔にベタベタと張り付いて不快だったが、それに気を回せないほど私は乱心していた。陸人はその言葉を聞いて、私の手を掴む力を緩める。


「……え?」


 私は抵抗することも立ち上がろうとすることもやめて、寝転がって声を出して泣いた。今優しく私の頭を撫でているのはきっと店主だろう。


「僕のために、西城先輩と?」


 私は頷いて、砂浜に顔を埋める。目に砂が入るとか、感触が気持ち悪いとか、そんなことはどうでも良かった。


「東北支店に飛ばされるのが嫌ならやめれば良かっただけだよ! そんなことのために君の心を殺すだなんて……。嫌だよ、もっと自分を大事にしてくれよ!」


「今更遅いの! 言うことを聞かなきゃ私もクビだって言われて、もうどうしようもなかった。今の仕事が好きだって陸人が言ってたから、辞めさせたくなかったの」


「仕事なんかより、君の方がずっと大事で大好きだ! なんで話してくれなかったんだよ! なんで僕と一緒に逃げてくれなかったんだよ……」


 陸人はその場に座り込み、涙を流し始める。


「僕のせいで、君が不幸になるなんて……。僕が守れなかったんだ、君のことを守れなかったから君が傷ついてしまった。僕のせいだ……」


 自分の頭を抱えて陸人は呟く。私は起き上がり、陸人の膝に手を置いた。


「私が勝手にやったことだから、陸人は何も悪くない。私がもっと上手く対処できれば良かったの。西城と関係を持った後もあなたのことが好きだったから、あなたにちゃんと話が出来なかった。ごめんなさい……」


 俯くと涙が砂の上に落ちる。そっと私のことを抱きしめる陸人。私は砂まみれになった顔を陸人の肩に乗せ、陸人を抱きしめた。


「私のこと、汚いって思わないの?」

 

 私が尋ねると陸人は私を離し、私の顔を見た。


「瞳はいつでも綺麗だよ。世界で一番かわいくて魅力的だ。僕のために強がって無理しちゃうところも、たまらなく愛おしいよ」


 陸人は私の顔に触れ、優しく砂を落としてくれた。


「でももう僕に黙ってそんなことをしようとしないでね。瞳より大切なものなんて、この世にないんだから」


 私は頷くと又涙を流した。

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