第183話 天使モード
上機嫌なマイン。
しばらく俺の周りをぐるぐると回っていた。
「なにかの儀式か?」
「これはフェイトの視界に入るように頑張っている」
「いやいや、頑張る方向がおかしいだろ」
「そう? スロースがそうするのが良いって言っていた……」
またスロースか。
このところ、マインの行動におかしなところが多々ある。
聞いてみたら、入れ知恵をしているのはいつもスロースだ。
「もしかして、抱きついてきたのもそうなのか?」
「ん? あれは私がしたくなっただけ。またそのうちする」
「いいけど……背骨まで締め上げないでくれよ」
「善処する」
目を逸らしながら言われると、善処しない恐れがありそうだ。
時と場合によっては締め上げるといったところか。
長い付き合いなので、彼女の思考はよくわかる。
「エロはまだ帰ってこない?」
「そうなんだよ。ガリア大陸へ乗り込むための手段を持ってくるって言っていたのにさ」
「どこかで道草を食っている?」
「さすがにそれはないだろ」
「誘拐された?」
「そんな玉じゃないさ」
彼女は大罪スキル持ちでとても強い。
そんなエリスを誘拐できるのは、それを越えた力を持つ者のみ。
心当たりとしたら、聖獣人くらいだ。
エリスは聖獣人の一人であるライブラと因縁があるという。
なにがあったのかは知らない。エリスは話したくなさそうだった。
ライブラのことになると弱さを見せる彼女に、俺は無理やり訊く気にもなれなかった。
それでも教えてくれたことは、2つ。
ライブラの二つ名は調律者。
天啓はおそらく、「世界の理を乱す者の排除」らしい。
それが本当ならあの浮上したガリア大陸をライブラが見逃すわけがない。
合わせて大罪スキル保持者の俺たちもなのだが……。
俺とマインは話をしながら、ずっとハウゼンに近づく魔力はないか、探っていた。
エリスが戻ってくればすぐにわかるようにだ。
「フェイト!」
「ああ、この魔力の感じはエリスだ」
噂をすればなんとやら。
エリスがものすごい速さで俺たちがいるハウゼンに向かっている。
そして、もう一つの強大な魔力も近づいていた。
「これって……まさか……」
「ライブラ、間違いない」
なぜ、エリスはライブラと一緒なのか!?
彼女はライブラを今度こそあの世に送ってやると言うほど、憎んでいたはず。
それなのにどうして?
ライブラに会ったときのエリスは普通ではなかった。戦うと言っていたが、恐れが体中から溢れ出していた。
そんなトラウマレベルの相手と一緒に行動ができるだろうか?
「信じられない……」
「でも、この魔力は真実。エリスとライブラがここへ来る」
マインはすぐにスロースを取りに自室へ駆けていった。
俺はずっと腰に下げていた黒剣に手を乗せる。
いつもなら、頼れる相棒が口悪く助言をくれる。
しかし、今は沈黙が続いている。
以前の戦い――聖獣アクエリアス戦によって、俺はグリードを失っていた。
ライブラはその戦いを仕掛けた張本人。
俺もあいつには因縁がある。
それに、ハウゼンに住む人々の命まで奪おうとした。彼の地への扉を開かせないためなら、他愛もないことだと思っているのかもしれない。
「フェイ! この気配はっ!」
「ご察しの通りさ」
ロキシーも気が付いて、慌てて駆け寄ってきた。
いつでも戦えるように装備もしっかりと整えている。
「エリス様と……ライブラがなぜ?」
「俺もそれを知りたいと思っていたところさ」
「そうですね。私もあの二人が共に行動するなんて考えられません」
二人は南からハウゼンに近づいていた。
その方角を屋敷の高台から眺めている。まだ、見えそうにないな。
「ライブラはまたハウゼンを狙っているのでしょうか?」
「さあな。もうすでに彼の地への扉は開かれた。ここにあるのは地下都市グランドルくらいだ。あそこには復活を拒んで亡霊となってた人たちくらいだけど……」
大罪スキル保持者が邪魔ならエリスと共に行動するのはおかしい。 地下都市グランドルについて、ライネから有用な古代の情報がたくさん残っているとは聞いている。
その情報を知られたくなくて、ここに来ようとしているのか?
いや、それならもっと早くに行動を起こしているはずだ。
ぐるぐると考えを巡らせたとこで、ライブラの狙いがわかるわけもない。
「ハウゼンの中にライブラを入れることはできない。俺たちの方から会いに行こう」
「はい」
走り出そうとすると、後ろから声をかけられる。
「なら、私はここでまた留守番ですね」
振り向くとメミルがいた。
今日もシワひとつ無いメイド服を華麗に着こなしている。
「いつも悪いな」
「いいですよ。ここからフェイト様の勇姿を見ていますから。それに私はもう聖騎士でも……武人ですらもないですから」
「メミル……」
「ほら、この通りメイドです。そして、あなたの妹でもあります」
スカートの裾をつまみ上げて、にっこりと笑ってみせた。
「フェイ! 急がないと!」
ロキシーの急かす声が聞こえる。
「兄さん、さあ、行かないと!」
「ああ、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
メイドとして領主を……妹として兄を見送るために、メミルは深々とお辞儀をしてみせた。
俺は彼女の頭を一撫でした。ここで今生の別れというわけではない。
「ハウゼンのことを頼む」
「はい、かしこまりました」
顔を上げて頷くメミルに、頷き返した。
そして背を向けて、俺を待つロキシーのところへ。
二つの魔力の気配は、どんどん近づいている。
「待たせてごめん。行こう」
「はい」
俺たちはステータスを解放して、一気に駆け出した。
道を使っていたら、通行人たちに怪我をさせてしまう。
「屋根伝いで外へ出る」
「その方が良いですね……キャッ」
小さな悲鳴を上げるロキシー。
彼女は転ぶようなへまはしない。一体、何が……。
視線を向けると、そこには赤い髪をなびかせたスノウがロキシーにしがみついていた。
「私も遊ぶぅ~!」
俺たちが屋根の上をぴょんぴょんと渡り走っているのを見て、遊んでいると勘違いしたようだ。
「仲間外れよくない!」
「違います。これは遊びではないです」
「そうなの?」
首をかしげならスノウは俺を見る。
「そうだ。これからハウゼンを出て、南に進む。そこにはライブラがいる」
「ライブラ……」
その名前を聞いて、スノウの表情が途端に変わってしまう。
警戒するように下唇を噛み締めている。
そしてロキシーをギュッと抱きしめる。
「合体!」
「えええっ、今……ここでですか!?」
「いっくよー!」
「心の準備が、まだ」
ロキシーの意思を尊重することなく、強制合体!
まばゆい光に包まれた後、天使モードのロキシー爆誕!!
俺と違って真っ白な翼が四枚。
頭には天使の輪が輝いている。
いつ見ても神々しい姿だ。
「フェイ! 私を見ながら頷き続けるのはやめてもらえますか?」
「ごめん。美しいなって思ってさ」
「……そう言ってもらえて嬉しいですけど、今はそれどころではないです!」
「わかっているって。せっかく、その姿になったんだし。乗せていってもらえると助かるんだけど?」
「しかたないですね」
ロキシーは羽ばたいて浮かび上がる。そして俺のところへ来て、抱き寄せた。
足がゆっくりと屋根が離れていく。
ふわりとして、心地よい浮遊感。
空を飛ぶって、何回体験しても気持ちが良い!
「では、特急で行きますよ!」
「お願いします!」
ここから先は気合を入れる。
理由は簡単だ。
ロキシーは初めて天使モードを使ってから、もっと使いこなせるように鍛錬してきた。
俺もそれに付き合っていたから、よく知っている。
ドッオオオオオオォォォッ!!
とてつもない衝撃が俺を襲う。
音速を突破して空気の壁をぶち抜いた音がハウゼンに鳴り響く。
もしEの領域のステータスを持っていなければ、体がバラバラに四散していたところだろう。
これならあっという間にエリスとライブラがいるところへ行ける。
一体、何があったのかを聞かなければいけない。
もしかすると戦闘になる可能性もある。ライブラは相当な食わせ者だ。
用心するに越したことはない。俺は物言わぬ黒剣を握りしめる。
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