第69話 大地を侵す無形体

【大地を侵す者】

・オメガスライム Lv440

 体力:13360000

 筋力:8760000

 魔力:11983000

 精神:11248000

 敏捷:5347000

 スキル:腐食魔法、体力強化(大)


 大き過ぎれば、可愛くなくなる。まさにこれを言うのだろう。

 無形体ゆえにどのような形にでも変えることができる。だから地中を泳ぎやすい姿として、鯨のような形体をしていたのだ。


 レベルはかなり高い。それに伴って、ステータスの一部が一千万超えだ。

 これでは、聖騎士といえど防戦一方となるだろう。それに、この冠魔物からは嫌なプレッシャーを感じる。


 オメガスライムは見上げる俺に気がつくと、空中で体を膨らませだした。

 グリードが《読心》スキルを介して、大声を出す。


『俺様を魔盾に変えろ! すぐにしろっ!』


 言われるまま、黒弓から黒盾に変えると、オメガスライムが体中から大量の水分を吹き出した。


 それは、重力に引かれて雨のように地面へと降り注ぐ。


 俺はグリードの忠告によって、その雨を黒盾を傘代わりにして凌いだ。豪雨となって降ったそれは、地面を変貌させていく。


「おいおい……これって」


 グリードのおかげで助かった。直撃していたら、ステータスは格上でも、この攻撃は防ぎようもない。

 雨が止んだ後の地面がドロドロに溶けていたからだ。


『強酸だ。まさか出合い頭一発目から酸を吹いてくるとはな……意外だったな』

「そういうことは前もって教えてくれよ」

『お前だって、スライムの体は強酸だってくらい知っているだろう』

「そうだけどさ……まさか吹いてくるとは。それにこの異臭」


 汚物のような臭気が辺り一面に立ちこめる。吐き気をもよおしそうなほど、腐った臭いだ。

 これってまさか……黒盾の隙間から、オメガスライムが所持する腐食魔法スキルを《鑑定》してみる。


腐食魔法:物理攻撃に腐食属性を付加できる。触れた対象は朽ち果てる。


 凶悪なスキルだっ

た。おそらく、体内から放出される強酸にこの腐食属性を付加している。

 だから、大地が考えられないほど深く抉れているのだ。


 そうか……。オメガスライムはこの腐食属性が付加された強酸を使って、地中の岩や砂などを溶かし腐らせながら、泳いでいたのだ。


 そうなると、あれと接近戦は不可能だ。黒剣や黒鎌で切り裂いて、もし体液の強酸が吹き出したら、骨も残さずにドロドロにされてしまう。


「面倒な魔物だな」

『ステータスだけでは簡単に勝てない特殊な敵もいるってことだ。どうだ、勉強になったな』

「偉そうに……」


 高慢なグリードを黒盾から黒弓に変えて、落下し始めたオメガスライムを狙う。

 こんな奴は、一気に片付けるのに限る。ならば、使うのは……。


「さっさと決めるぞ。俺から全ステータスの10%を奪え」

『おやっ? 温存するのではないか?』


 ニヤニヤ声で俺に聞いてくるグリード。忌々しい言い方だ。


「うるせっ。いいからいくぞ」

『まあ、焦る気もわからなくはない。よかろう、ならばいただくぞ』


 オメガスライムは空中で体をうねらせて、俺の真上に移動しようとしていた。あの巨漢で使って俺を押しつぶす気なのだ。更に、体から強酸がにじみ出ている。


 焦るのも当たり前だ。


 グリードが俺のステータスを奪い取り始める。この体から力が抜けていく感覚は何度味わっても嫌なものだ。身の内から力を搾り取られているようである。


 そんな俺のことをお構いなしに、グリードは俺の力によって形を変え、暴化していく。

 スマートだった黒弓の形は、禍々しい変化をして一回り大きくなる。


 もうこの第一位階の奥義を放つためのグリードの姿は見慣れたものだ。だからといって、使い手としては奥義を放つ時の反動が半端ないため、気が抜けない。


 大地に足をしっかりと踏み込んで、俺を覆い尽くすように落下してくるオメガスライムを狙う。


 引いた黒き魔矢に炎弾魔法――炎属性も付加しておく。これで撃ち抜いて四散した腐食強酸すらも燃やし尽くしてやる。


 半飢餓状態になっている今なら、オメガスライムの体内に流れる魔力の中心部まで見える。そこが弱点だ。


 撃ち抜いてやる。

 放たれた紅き魔矢は火の粉を散らしながら、大きな稲妻となってオメガスライムと交差する。

 爆炎と共に、巨大な水蒸気が辺り一面を覆い隠す。


 おそらく、撃ち抜いたオメガスライムの体液が一瞬で蒸発したのだろう。

 手応えはあった。だがしかし……。


『やったか?』

「わかっているくせに……わざとらしいぞ」

『ハハッハハハッハッ、言ってみただけだ』


 倒したなら、あの無機質な声が、暴食スキルの発動をして、ステータス上昇とスキル取得を教えてくれるはず。

 その知らせがないというなら、オメガスライムは健在だ。


 まずはこの場から移動だ。地面を強く蹴って、大きくバックステップする。すると、ワンテンポ遅れて、俺がいた場所に青く透明な大球が、落ちてきた。

 同時に地面は溶かされて、大穴が開く。


 続けざまに、それが散弾のように辺り一面に降り注いだのだ。


「チッ……そんなのありかよ」

『分裂して攻撃を仕掛けてきたか。なるほど、俺様の奥義もああやって自分の身を切り捨てて、盾として使って防いだようだな』

「また地中に潜ったか」

『しかし、オメガスライムのコアは一つだけだ。分体に惑わされずにそこのみを壊せばいい』

「簡単に言うなよ」


 さっきみたいに、コアを射抜こうとしたら、分体を作り出して防がれるだろう。

 やるなら、もっと接近して攻撃を仕掛けるか、分体ごとコアを貫く火力が必要だな。


「こんなことなら、全ステータス10%といわずに、20%くらい渡しておくんだった」

『フェイトは貧乏性だからな。変なところでケチるんだよな』

「うるせっ」


 それよりも、オメガスライムはどこだ?

 地中に潜った奴の魔力を追っていく。……クッソ。


「なぜかわからないけど、俺のことを無視して西へ進んでいる」

『うむ、その先にあるのは、王都軍だな』


 西を見ながら頷く。俺に追い詰められて逃げているのではない。明確な意志を持って、王都軍を狙っている。


 知能が比較的高そうな冠魔物といえど、そこまでするものだろうか。

 なんだろうか……この戦い方は本能で戦うような直感性を感じない。なんというか……人間臭い。


 俺はグリードを黒剣に戻して鞘に納める。まさに、こういったところがさ。

 空中へ飛び上がり、すかさず聖剣技アーツ《グランドクロス》を地面に向けて発動させる。


 そこには、地面から飛び出したばかりのオメガスライムの分体が3体。

 聖なる光によって、浄化されていく。


『不意打ちだな』

「ああ、俺に関心がないと見せ掛けとおいて、しっかりと狙ってくる。このいやらしいズル賢さがどうも魔物っぽくないんだよな」

『エリスに言われていることもある。注意を怠るな』


 そうだな。でも、今は先を急ごう。王都軍の中にあれを飛び込ませてはまずい。

 俺は立ち塞がるオメガスライムの分体を《グランドクロス》で浄化させながら西へと向かう。

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