第51話 引き出した力

 ハニエルは、翼から無数の羽を周囲にばら撒く。

 これは、なんとなくヤバそうな気配がする。マインが白き羽を見ながら言ってくる。


「あれに触れると爆発する。気をつけて」

「すべて躱すのは、骨が折れそうだ」


 俺とマインはその中へ、突っ込んでいく。目指すは中心にいるハニエル。

 暴食スキルを半分だけ引き出した俺には、身体能力ブーストがかかっている。今なら、あの宙を舞う無数の羽の動き、一つ一つが苦もなく見切れる。


 そして、俺のステータスのすべて、いやそれ以上の力を扱える。タイムリミットまでに、ハニエルを喰らってやる。


 地面に舞い落ちた羽が大爆発を起こして、大気が荒れ狂う。不規則な風によって、俺の右横から大量の羽が襲ってくる。


 丁度いい、あれを利用させてもらおう。


「グリード、いけるか?」

『他愛のない。これくらいで俺様に傷など付けれるわけがない。それより、お前は平気か?』

「時間がおしい。いくぞっ!」


 無茶は承知の上だ。


 俺は黒剣グリードで、白き羽を断ち切る。案の定、大爆発が起こって俺は爆風によって上空へ打ち上げられる。このくらいの火傷なら自動回復スキルで完治可能だ。


 空中で羽のない俺は黒剣から黒弓に変えて、グリードに言う。


「ここまで来て出し惜しみはしない。俺のステータスの10%を持っていけ」

『いいだろう、もらうぞ。お前の10%を!』


 黒弓が禍々しく形を変えていく。肥大化して大罪兵器と化した黒弓グリードをハニエルへと向ける。


 魔力によって生成された魔矢に、砂塵魔法を込める。


 鬱陶しい羽もハニエルもまとめて、石に変えてやる。羽の群れの中にマインがいるけど、問題ない。この攻撃はグリードによって、完全に制御されている必中の魔矢だ。


 たとえ、俺が目を瞑って魔矢を放ったとしても、マインには当たらない。


「いくぞっ、グリード!」


 放った石化の魔矢は稲妻のように鋭く地面へと落ちていく。途中、細かく枝分かれして、無数の羽すべてを撃ち落として、爆発する前に石へと変える。


 ハニエルには、主たる本流の魔矢が打ち付けられた。通常の石化の魔矢ではなく、第一位階の奥義から打ち出された攻撃だ。

 威力は凄まじく、巨大なハニエルを飲み込むように石化していく。


 俺はそれを空中で見据えながら、マインに言う。


「今だ、マイン!」


 言われなくても、わかっているとでも言いたそうなマインは一直線に、ハニエルに接近する。


 石化によって一時的に活動を停止しているハニエルは隙だらけだ。


「絶好のチャンス。ここでいく。スロース、解放!」


 マインは黒斧を握り振り上げる。それに呼応して、黒斧の形状に変化が始まる。


 今まで溜め込んでいた力を解き放つように、刃の部分が大きく鋭くなっていく。さらに黒き光を帯びながら、より一層重くなっているように感じられる。


 その異質な力をマインは、石化しているハニエルへと叩き込んだ。


 あまりの威力に地面すらえぐりながら、6本の足を含めた下半身すべてを塵も残さずに吹き飛ばす。余波も凄まじく、この村の残骸までも彼方へと送ってしまうほどだ。


「なんていう……威力だよ」

『あれくらいで驚くな。こっちもいくぞ、フェイト!』

「おう」


 ハニエルは下半身を失っただけだ。奴の再生能力を持ってすれば、また元に戻ってしまう。


 弱っているところを一気に叩くしかない。

 俺は落下速度を利用して、ハニエルに攻撃を仕掛ける。


 黒弓から黒剣に変えようとしているが、


『フェイト、黒鎌へと変えろ!』


 俺の動きを察知したハニエルが、迎撃するために青い火球を自身の周りに作り出して攻撃してきたのだ。その攻撃は俺だけではなく、直ぐ側まで迫っていたマインにも及んでいる。


 俺は黒鎌で飛んでいくる火球を切り落としながら、ハニエルへと近づいていく。スキルから発した魔法攻撃なら、黒鎌で打ち消せる。


 効果ないと見たハニエルは、青い障壁を展開して俺から逃れようとする。


『あの障壁もスキルだ。黒鎌で断ち切れっ!』

「ああ、やってやるさ」


 くっ、初めてスキルを断ち切るのに手応えを感じた。今までなら、苦もなく黒鎌の刃が通ったのに、なんて重さだ。分厚い金属でも斬ってるような感じすらしてしまう。


 おそらく、この障壁を展開しているスキルは、黒鎌に抗えるほどに強力なのだ。

 段々と障壁と黒鎌の刃が拮抗していく。そこへ、グリードが俺をなじりながら言う。


『どうした、フェイト!? 暴食スキルを半分解放なのにこのザマか?』

「うるせっ!」

『その目を使って、結界を見極めろ! すべてが均等に展開されているわけではない』


 この赤眼で見極めるか……集中して結界を見ると違った世界が現れる。


 ハニエルが作り出した結界の中を血液のような流れが巡回している。流れが活発なところもあれば、滞っているところもある。


「これは、もしかして魔力の流れ?」

『そうだ。流れの悪いところを狙えっ!』


 一旦、結界から黒鎌の刃を抜いて、グリードが言っていた魔力が薄い場所に切り込む。


 打って変わって、面白いように結界が斬れていくではないか。


 ある程度斬り裂くと、黒鎌のスキルを無効化する力が働いて、障壁はガラスが砕けるような音を立てて、消失する。


「よしっ」

『このまま斬り伏せろ、フェイト!』


 黒鎌のままで勢いに任せて、上半身だけとなったハニエルに斬りかかる。

 手をクロスしてガードしようとするが、関係ない。その上から袈裟斬りに刃を突き立てる。


 そして、一気に切り裂いていく。ハニエルの両腕は斬れ落ちて、胸に埋め込まれた核にまで達する。

 核となっている真っ白な少女は、胸を切り裂かれてもがき苦しむ。


 わかっていても、割り切っていても、やはり核への攻撃は胸に突き刺ささるものがある。


 さらに追撃と思った時、ハニエルが羽ばたき始める。爆発する羽を振りまきながら、上空へ逃げようとしたのだ。


 飛べない俺は、雲の上に逃げられたら打つ手がない。


 地面に落ちて炸裂する羽を躱しながら、飛び上がろうと思うが、もうあの高さだと追いつけない。このままでは、せっかくダメージを与えたハニエルが回復してしまう。


 ちっ、地面にはポタポタと赤い染みができていく。右目から血が流れ始めてたのだ。

 そろそろ、限界に近づいているようだ。早く、ハニエルを倒して魂を喰わないと、俺が俺ではなくなってしまう。


 ハニエルの時間稼ぎに苛立ちを募らせていると、マインが合流してきた。


「私がフェイトを上空まで打ち上げる」

「どうやって!?」


 なんと! 黒斧の腹の部分に乗れというのだ。俺が乗るのか、これに!?

 まあ、暴食スキル保持者の俺がとどめを刺さないといけないからか。


「さあ、早く。ハニエルが元に戻ってしまう」

「わかったけど」


 俺には決め手がない。今俺が持っている最も高い攻撃は、黒弓――第一位階の奥義だけ。範囲攻撃のため、ハニエルの再生能力を上回るほどの威力が出せない。


 もっと単体に向けた高出力な攻撃が必要だ。


 どうする? 黒弓の奥義を超至近距離から放つか?

 かなり無茶があるけど、これしかないか……そんな俺にグリードが言う。


『そろそろ、第二階位の奥義をやってみるか』

「なんだよ、急に。今までダメだったくせにっ」

『それはフェイトがそれを扱うに至らなかったからだ。しかし、今のお前の目なら問題ない』


 どういうことだと聞きたかったが、焦れたマインが無理やり俺を黒斧に乗せてしまう。


「早く行かないと再生する。話は空中ですればいい。行って来い!」

「ちょっ、うああああああああぁぁぁぁ」


 有無も言わせず、俺はハニエルに目がけて飛ばされてしまう。

 おいおい、慌ててグリードに聞く。


「早くっ、教えてくれ!」

『第二位階の奥義には、お前のステータスの20%が必要になる。そして、この攻撃は敵の魔力が集中する場所を狙わないといけない。僅かでも外れると、不発に終わるぞ』

「なんだよ。魔力が集中した場所って、そんなの見え……」


 いや、今の俺なら見える。


 暴食スキルの力を半分だけ、開放した状態なら、あの障壁を見切った要領でできるはずだ。

 目前と迫りくるハニエル。再生に集中しているようで、俺には気づいていない。


 もう、これしかないか。


「グリード、俺のステータスから20%を持っていけっ!」

『では、頂こう。お前の20%』


 既に黒弓の奥義でステータスの10%を消費している。ここでさらに20%を失えば、ハニエルとのステータス差から、マインの足手まといになりかねない。


 今でもかなりギリギリのラインなのだ。

 つまり、この第二位階の奥義の失敗は許されない。


 そんな気持ちをよそに、グリードは俺からステータスを奪っていく。体中から力が抜けていく感覚。


 黒鎌は俺の力を吸って、変貌を始める。

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