第48話 黒斧の舞い
緑の軍が混乱している隙に、俺たちは土埃を最大限に利用して、陣の右翼から崩していく。
俺だってマインに負けてはいられない。黒剣グリードを中段に構えて、オークの群れに突っ込む。
乱戦となれば、弓矢や魔法は仲間を巻き添えにしてしまうおそれがあるので使いにくい。
知能の高いオークなら人間と同じように、弓矢と魔法を控えるはずだ。思惑通りに後衛職は後退して剣と盾、槍を持ったオークたちが俺の行く手を阻む。
こんな奴らは、アーロンに比べたら赤子と同然だ。俺は立ち止まることなく、黒剣を振り払いながら駆け抜ける。ざっと32匹は倒しただろう。
《暴食スキルが発動します》
《ステータスに総計で体力+156800、腕力+153600、魔力+121600、精神+128000、敏捷+121600が加算されます》
《スキルに槍技、魔力強化(小)、魔力強化(中)、精神強化(小)が追加されます》
スキルは重複が多いため、予想していたよりも少ない。しかし、ステータスに関しては結構美味しい魔物だ。大体一匹倒すごとに四千ほど取り込める。
暴食スキルも豚肉うめぇとばかりに、上機嫌に感じられる。ゴブリンを狩っていた時とは大違いだ。こんなまずいものを喰わせるなとばかりに俺の中で暴れていたものだ。
まあ、オークはゴブリンに比べて、ステータスが100倍くらいは違うので当たり前か。
ここは素直に満たされるべきだろう。マインが言った強敵との戦いへ、万全を期す。
俺は一心不乱に黒剣を右から左へ、または左から右へと忙しなく操り、オークたちを屠っていく。
頭の中で無機質な声を聞きながら、70匹目を片付ける。オークの一個中隊は200匹くらいだったか。マインと半分ずつ分け合って戦うなら、ノルマはあと30匹ほどか。
さて、マインの方はどうなったんだろう。なんて思っていると、夜空から無数のオークたちが降ってきた。すべて事切れている。今日の天気はオークの雨……なんてことはありえない!
俺はマインが戦っている場所を見る。
ああぉ、これは記憶にある戦い方だ。以前、身分が厳しく管理された都市に滞在した時、偉そうな聖騎士が絡んできた。そいつを黒斧で天高くぶち上げた時と全く同じだ。
マインが振るう黒斧に当たれば、天空に退場。そして、あの世行き。
派手な戦い方だな。しかし、豪快でありながら、立ち回りには無駄が一切ない。最小限の移動で、次々と打ち上げている。見ていて非常に気持ちがいい。まるで舞でも舞っているようだ。
俺もできるだろうか。真似をしながらやってみるが、
『ブッハハハッ! 下手くそダンス』
「笑うな、グリード。これからさ、こんな感じかな」
『酷いな……全くもって酷いぞ。お前にはアーロンに教わった戦い方があるだろ。マインがやっているあれは生まれ持った天賦の才というやつだ。いくら、真似しようとしてもできるものではない』
なにそれ、天賦の才って……かっこよすぎなんだけど。俺もそれ欲しい! まあ、生まれ持ったものなので、すでに答えは出てしまっているけど。
俺は襲ってくるオークを片付けながら、マインの動きを観察する。
う〜ん、なんというか彼女は頭で考えて戦っているようには見えない。意識する前に体が勝手に動いている感じだ。
意識する前に体が先に動くか……。ここらへんは鍛錬を積めば、いけそうな感じがする。
やっぱり、強い武人の戦いは参考になる。そんな俺の視線に気がついたマインは、鼻で笑ってみせる。そしてオークを一匹、俺に向けて飛ばしてきた。
危うくぶつかるところだった。
おそらく、よそ見ばかりしていないで、早く倒してしまえと言いたいのだろう。
へいへい、戦いますよ。ちょっとくらい、見てもいいじゃないか。だって、マインがまともに戦う姿は初めて目にしたからさ。と思っていたら、もう3匹のオークが飛んできた。
よしっ、頑張ろう。じゃないと、次は10匹くらいが飛んできそうだ。さすがにその数だと被弾してしまう。
張り切って残ったオークを血祭りに上げていく。こいつら倒すごとにブヒィィィというのでかなり耳障りだったりする。せっせと狩っていたおかげで、残りは中隊を指揮していた青い肌のオークを残すのみになった。
どれどれ、せっかくだから《鑑定》しておこう。ブヒィィィっと。
・ハイオーク・リーダー Lv45
体力:203400
筋力:217500
魔力:175300
精神:154300
敏捷:168400
スキル:剛力、筋力強化(大)、体力強化(大)
これはなかなかのステータス。冠魔物でなく、これで通常魔物枠なのか。
やはりガリアは他の地域よりも、魔物のランクが違う。
気になるスキルの剛力を《鑑定》してみる。
剛力:一定時間、筋力を2倍にする。使用後、反動で筋力が1/10に弱体化する。回復まで一日かかる。
ステータス強化系スキルみたいだ。一時的だけど、筋力を倍加できるのはかなり使えそうだ。
リスクとして筋力が1/10に弱体化してしまうのが一日続くのが痛いな。それでも切り札みたいにしたら、いざという時に役に立つスキルだと思う。
それではいただきます。俺は部下がいなくなっても戦意を失わないハイオーク・リーダーに斬りかかろうとするが、
「ブヒィィィ」
横からやってきたマインに横取りされてしまう。黒斧によって空の彼方へと飛ばされていくハイオーク・リーダー。あれはどう見てもご臨終だ。
「ちょっと、マイン。俺に喰わせてよ。剛力スキルが欲しかったのに……」
「オークなんて、ガリアではたくさんいる。それに私から見れば、剛力スキルなんて、ゴミスキル」
「一時的に筋力が2倍になるんだよ」
「それだけなのにリスクある。やっぱりゴミスキル」
おいおい、筋力が2倍になるのに使えないと言い切ったぞ。
未だに剛力スキルを惜しむ俺の横で、マインが一息つくために黒斧を地面に置いた。
すると、大きな音を立てて地面が陥没した。
あれ!? あの黒斧ってあんなに重かったかな? たしか、以前に爆睡するマインを背負って黒斧を代わりに持った時は、重くはなかったけど……おかしいな。
マインは黒斧を撫でながら、呟く。
「いい感じ。スロースはいい子。もっと溜めていこう」
溜めるか……重さかな。絶対にそうだ。
なんて思っていると、マインが横に座るように手招きしてくる。
「フェイト、休憩するよ。早く、ここに来る」
「えっ、俺はまだ疲れていないよ」
「戦いの後は必ず、休む。これは大事なこと!」
「ちょっと、うああぁぁぁ」
無理やり手を掴まれて、地面へ。グヘッ……地味に痛い。
「はあぁぁ、マインはいつも強引だな」
「それほどでもない」
「いや、別に褒めてはないからね」
「あら、それは残念」
「本当にそう思ってる?」
「全然」
うん、これだよ。相変わらず、掴みどころのない性格をしている。
2人で地面に座って、しばらく星空を眺める。会話らしい会話はなくなり、ただ聞こえるのは虫が鳴く声だけ。
さて、マインはここからどこまで行くつもりなのだろうか。休憩が終わり、立ち上がる彼女は黒斧を手にとって、俺に言う。
「もう、そんなに遠くない。あれが動いていないなら」
「あれって?」
「あれはあれ」
何だそりゃ!? 知っていそうなグリードにも聞いてみる。
「マインが言っているあれってなに?」
『フッ、あれはあれだ』
お前もかよ。絶対に俺で遊んでいるだろ、真面目に答えろよ!
まあいいさ、そこへいけば自ずとしてわかるってわけだろ。なら、さっさとあれってやつのところに行こうじゃないか。
俺たちはガリアの奥へと進んでいく。
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