第41話 死を治める都市

日が沈みゆく空の下、アーロンと一緒に手入れされていないあぜ道を進んでいく。

あたりは暗くなっていっていくので、俺の《暗視》スキルが発動を始める。


「ほう、暗視スキルまで持っているようだな」

「わかりますか?」

「儂も持っているから、君の動きを見ていたらわかる」


 なるほど、確かに言われてみれば、アーロンは暗がりの中で岩や倒木を軽快にかわしている。それにしても人のことは言えないが、アーロンは他の武人に比べてたくさんのスキルを持っている。


 わかっているだけで鑑定スキル、隠蔽スキル、暗視スキル。そして聖剣を装備しているので、おそらく聖剣技スキルを所持しているだろう。


 隠蔽スキルによって、スキルの全貌はわからない。本当に底が知れない老人だ。


 そんな俺の視線に気がついたアーロンは言う。


「儂から見れば、君のほうがどれだけのスキルを持っているか、気になるところだがね。ぜひ、隠蔽スキルを解除して見せてもらいたいものだ」

「さすがにこればかりはアーロンでも見せられません」

「まあ、そうだな。せっかく隠蔽スキルを持っていて、スキルを隠さないのは愚の骨頂だな」


 アーロンだって俺にスキルを見せてくれる気はない。お互い様だ。


 西へ西へ進んでいくと、道が土から石畳と変わりだす。その先を見据えれば、白い霧の中から大きな城とそれを囲むように建てられた街が姿を現す。


 かつては活気にあふれていたんだろう。そう思わせるくらい建物からその残滓が感じされる。


 アーロンが懐かしむように都市の名を口にする。


「また、ハウゼンに帰ってきてしまったな」

「ハウゼン……」

「ああ、この都市は儂がかつて治めていた。今はリッチー・ロードに奪われてしまったがな」


 半飢餓状態になった俺にもわかる……あの城から耐え難いくらい美味そうな者がいるって感じる。暴食スキルが早くあそこに言って、強敵の魂を喰いたいと俺の中で蠢いている。


 まったく、飢え始めた暴食スキルときたら、俺の苦労なんて知ったことではないようだ。


 右目を抑えていると、アーロンが心配した顔をして声をかけてくる。


「疼くのか?」

「ええ、でもまだ平気です」

「都市に入れば、否応なしに戦うことになるだろう。城の外縁にはスケルトン・ナイトとスケルトン・アーチャーがいる。スケルトン・ナイトは儂が教えた剣術をもってすれば、容易いだろう。気をつけるべきはスケルトン・アーチャーの方だ。こちらの攻撃範囲外から攻撃してくる。儂は飛んでくる矢を止められるが、フェイトにはまだ難しいだろう」


 確かに四方八方から飛んでくる矢を止めたり、躱したりはきつそうだ。しかし、そうなってしまう前に元を断てばいいだけだ。


「俺がスケルトン・アーチャーの相手をします」

「それはどういうことだ?」


 俺の装備ーー黒剣グリードを見ながら、アーロンは目を細める。その武器では遠距離攻撃は出来ないと言いたげだ。

 口で説明するよりも、実演したほうが早い。俺は黒剣を黒弓へと変化させる。


「こういうことです」

「ほう、面白い武器だな。形を変えるのか……他にもできるのか?」

「あと大鎌になれます」

「これは参ったな。そのような武器を見たのは初めてだ。ハハッハッ、長生きをするものだな。ならば、スケルトン・アーチャーはフェイトに任せよう。道を遮るスケルトン・ナイトは儂に任せろ」


 役割分担が決まり、都市へ入るための大門が見えてきた。大門は大破しており、すんなりと入れそうだ。


 と思ったが早速、魔物のお出ましだ。


 ゾロゾロとスケルトン・ナイトたちが錆びた両手剣を振りかざしながら、大門から出てくる。

 そして、都市を囲む高い壁の上にはスケルトン・アーチャーたちが顔を出して、俺たちへ矢を向けている。


 さて、魔物の強さを知るために《鑑定》を発動。


・スケルトン・ナイト Lv35

 体力:2290

 腕力:2540

 魔力:1230

 精神:1120

 敏捷:1740

 スキル:両手剣技、敏捷強化(小)


・スケルトン・アーチャー Lv35

 体力:1290

 腕力:1440

 魔力:1110

 精神:1230

 敏捷:770

 スキル:弓技、狙撃


 まずまずのザコ敵だ。スケルトン・ナイトが持っている両手剣技スキルはすでに持っている。敏捷強化(小)はまだ持っていないので頂いておこう。

 スケルトン・アーチャーは弓技と狙撃か。一応、《鑑定》して調べておこう。


弓技:弓の攻撃力が上がる。アーツ《チャージショット》が使用できる。

狙撃:弓の射程範囲を倍加する。


 狙撃スキルは厄介だな。しかし、俺が持つ黒弓の性能には遥かに劣る。こちらは視界に入りさえすれば、距離に関係なく必中なのだ。


 弓技のアーツーーチャージショットも《鑑定》しておく。こちらは、弓を引いた状態を維持した時間に応じて、矢の貫通力が上がるものだった。


 壁の上に50匹以上いるスケルトン・アーチャーが一斉に狙撃スキルとアーツ《チャージショット》を組み合わせてきたら、すべては防ぎきれないだろう。


 その前に先制攻撃だ。


「アーロン、スケルトン・アーチャーを一掃します。下は予定通り任せます」

「ああ、しかしまだ距離が遠すぎないか?」

「問題ないです。すべて必中です」


 視界に入りさえすれば……俺は彼方のスケルトン・アーチャーへ向けて、黒弓を構えて魔矢を放つ。飛んでいく魔矢は吸い込まれるようにスケルトン・アーチャーの眉間に命中する。


「よっし! ……あれ?」


 当たったはずのスケルトン・アーチャーが何事もなかったように起き上がったのだ。


「ハッハッハ、必中の魔弓とは恐れ入ったが、それでは不死属性の魔物は倒せんぞ。倒すためにはこうしなければならない」


 お手本としてアーロンが聖剣を、こちらに向かってくるスケルトン・ナイトへかざす。

 同じくして聖剣に魔力を込めていく。すると、スケルトン・ナイトたちの足場が白く輝き出す。

 これは、聖剣技のアーツ《グランドクロス》だ。


 しかも、ハド戦のときとは比べ物にならないくらい、攻撃範囲が広い。100匹以上いたスケルトン・ナイトの大群がたった1回のアーツで一掃されてしまう。


 ああ、一匹ほどスキルゲットのために残しておいてほしかった。そんなことを思える余裕があるほど、清々しい戦いっぷりだ。


「どうだ。こんな感じで不死属性と戦うのだ。できるか?」

「やってみます!」


 負けてはいられない。俺の管轄のスケルトン・アーチャーを倒さないと都市の中には入れない。


 アーロンが見せてくれたお手本を参考にする。彼は聖属性攻撃……つまり不死属性の弱点属性で攻撃したのだ。なら、炎弾魔法スキルを使った火属性と思ったが、変わり種を閃く。


 それに対して、黒弓の形になっているグリードが面白そうに《読心》スキルを通して言ってくる。


『そうきたか……やってみろ』

「火属性は派手だからさ。焼き尽くすまでにも時間が掛かるし。こっちのほうが速効性ある」


 俺は黒弓を構えると、先程倒し損ねたスケルトン・アーチャーへ魔矢を向ける。付加するのは、サンドゴーレム戦で得たスキル《砂塵魔法》だ。土属性が加えられた茶色い魔矢が、またしもスケルトン・アーチャーの眉間に突き刺さる。


 すると、そこから石化が始まり、みるみるうちに石像へと固まってしまった。


《暴食スキルが発動します》

《ステータスに体力+1290、腕力+1440、魔力+1110、精神+1230、敏捷+770が加算されます》

《スキルに弓技、狙撃が追加されます》


 無機質な声を頭の中で聞きながら、次なる獲物へ狙いを澄ませる。そんな俺にアーロンが感心しながら言ってくる。


「大したものだ。魔弓に魔法を乗せおったのか……。かつてそれは王都で実験的に試されたことがあった。だが制御がとても難しくて、大暴発。被験者が死亡するという忌まわしい事故が起こった。それ以来、魔弓と魔法の組み合わせは試みられておらんかった。それをいとも簡単にやってのけるとはな。とんでもない爪を隠していたものだ!」

「あははっ……それほどでも」


 アーロンから大絶賛されてしまったが、この難しい制御とやらはすべてグリードに丸投げにしている。グリードって意外にすごいやつだったんだ。


 そんなことを思っていると、グリードは偉そうに言ってくる。


『俺様の凄さがわかっただろ。敬え! 俺様を敬え、奉れ! 今からグリード様って呼んでいいぞ。なっ、フェイト』

「絶対に嫌だ」


 久しぶりのアピールポイントで調子に乗っているグリードを放っておく。さっさと壁の上に陣取っているスケルトン・アーチャーを残らず倒していくのだ。

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