第31話 管理された都市
白き塀に見下されるような圧迫感。やはり、聖騎士が治めるこの都市は他と比べて、何かが違う。
それは、おそらく拒絶。自分が信じるもの以外認めてないという冷たさを感じてならない。
荷馬車は、正面の巨大な門を通って、中に進んでいく。
「なんか……閉鎖的な都市ですね」
「まあな、ここを治める聖騎士様は、領民たちに厳しい階級制を課している」
行商人の男は、階級制は所持しているスキルによって分けれていると教えてくれる。
1.聖スキル………聖騎士
2.攻撃スキル……武人
3.生産スキル……職人・商人など
4.その他不遇スキル……農奴
この領地を支配する聖騎士はもちろん頂点だ。そして、魔物と戦える武人は次に偉い。
3番目は聖騎士や武人の武具を作る職人、またはそれで商いをする人。
ここまでが、生まれ持ったスキルに恵まれた人たちだ。
最も底辺になるのが不遇スキル持ちの人。あってもなくてもいいようなスキルや単体では意味をなさないスキルが該当するという。
例えば、ステータス強化系のみの保持者がその典型だろう。魔力強化(小)を持っていても、肝心の魔法スキルがなければ意味がない。
筋力強化(小)なら、片手剣技や大剣技を持っていなくても弱い魔物くらいなら倒せそうだ。
しかし、領主である聖騎士様が、武人として必要なスキル構成を事細かに決めている。なので、それに沿わない者は武人として認められないのだ。
俺は心底、この領地で生まれなくてよかったと思った。表向きはただ腹が減るだけのスキルなので、発覚した段階で農奴すらなれずに、処分されてしまうかもしれない。
お前のような穀潰しは、領民にしておくのも穢らわしいとか言われそうだ。ああ、ブレリック家で門番の日雇いバイトをしていた頃を思い出す。
それと似たようなことがこの都市という場所で大規模に行われている。
「旅人にも階級制は適応されるんですか?」
「ハハッハッ、さすがにそれはない。そんなことをしたら、外からは誰も領地へやって来なくなる。人の往来がなくなって物流が滞ったら、マズいだろう」
「たしかに……それを聞いて安心しました」
「まあ、兄ちゃんたちは武人だから、ここの領民になれば、それなりの暮らしができると思うぞ」
武人が優遇された領地か……。でも、武人は魔物と戦うのが仕事。
ここぞという時に、聖騎士に招集させられて、肉壁にされたら笑えないな。こんな階級制をつくってしまう聖騎士だ。ろくなやつではなさそうな気がする。
「俺にはやることがあるので、ここに長居する気はないです」
「そうか、あとな。何度も言うが、聖騎士様の悪口を言うなよ」
「はい、ご忠告ありがとうございます」
荷馬車が止まり、控えていた都市の役人たちがやってくる。これから、商売の交渉というわけだ。
「兄ちゃん、成功報酬の銀貨3枚だ。受け取ってくれ」
「はい、また縁があったらどこかで」
「おう。そんときも、護衛を頼むぞ」
何もしていないのにお金をもらうのは気が引けたが、護衛などこういう仕事だ。必ず戦わないければいけないというわけではない。俺は暴食スキルのせいで、魔物と戦い続けてきたので変な感覚が染み付いているのかもしれない。
俺は、まだ眠っているマインを起こす。
「お〜い、着いたぞ」
「あと……一日」
「どれだけ寝る気だよ。起きろって!」
そう言って無理やり起こそうとした時、だんまりを決め込んでいたグリードが、久しぶりに語りかけてくる。
『やめておけ。こいつは寝起きがくそっ悪い。下手に怒らすと大変なことになる』
「大変って? どうなるんだよ?」
『こいつが本気になったら、この都市など跡形もなく消し飛ぶ。瞬発力なら大罪スキルでトップクラスだ。背負っていくしかないだろう。あと、そこにあるスロースも忘れるな。あれを忘れたら、これもまたブチ切れる可能性があるからな』
どれだけ、怒ったマインは怖いんだ? グリードが危険視するくらいなので相当なのだろうか。
それにしても、やっとグリードが口を開いたな。
「なあ、グリードはマインと知り合いなのか?」
『遠い昔からの腐れ縁だ。まだ、生きていたとは驚きだな……しぶとい女だ。いい加減、もう取り戻せないことは、諦めればいいものを……』
「それってどういう?」
『知らん、俺様には関係ない。関わりたくもない』
それっきりグリードはまた口を閉ざしてしまう。知りたければ、本人から聞けということだろう。そして知ってしまえば面倒なことに巻き込まれるぞ、そうとも言いたそうだった。
でも、もう遅いんだよな。俺は彼女の手伝いとやらをしないといけない。
おそらく、大罪スキル絡みかもしれない。保持者は俺とマインだけのような気がしない。マインは言った。保持者なら、他の保持者を感じることができると。
なら、俺にそう思わせるこの感覚もまた……マインと同じものかもしれない。
しかし、俺はガリアに行く。マインが何を求め、何を成したいのかは知らないけど、今回一度だけ力を貸すだけだ。
そこから先は、また別の道を歩めばいい。
俺は寝ているマインを背負う。やはり、読心スキルは発動しない。ハート家の領地で鑑定スキルを使って何も見えなかった時と一緒だ。彼女にはスキルが効かないんだ。
なら、スロースという黒斧は、グリードと同じように心を持っているのだろうか。
おお、これは《読心》スキルが発動するぞ!
『ぐぐぐぅぅぅ、ムニャムニャ……ぐぐぐぅぅ、ムニャムニャ』
寝ている。この武器、寝ているぞ。軽く小突いてみても、全く起きない。
ダメだ、俺では起こせない。なんてぐうたらな武器なんだ。
グリードの性格も大概だが、このスロースという黒斧も負けてはいない。
その様子にグリードが《読心》スキルを通して笑い出す。
『相変わらず、寝てばっかりのやつだな。この怠惰は』
「起こせないのか? 話してみたいんだけど」
『お前には無理だ。起こせるのは、使用者のみだ』
癖のある武器だな。グリードもそうだけど……。あっそうだ。
「なあ、グリードやスロースのような武器を何ていうんだ。それくらいは教えてくれよ」
『……いいだろう、俺様たちは大罪武器だ。聖剣なんていう玩具よりも遥かに格上の存在だ』
たしかに聖剣よりは格上だろう。だって、ブレリック家のハドが持つ聖剣をやすやすと折ってみせたのだ。
そして、グリードは位階を開放することで、新たな姿と力を持てる。俺の方はもりもりとステータスを吸われてしまうが、そのおかげでここまで戦ってこられたのは確かだ。
この爆睡するスロースもおそらく、何らかの力を秘めているのだろう。そういえば、荷馬車に乗せた時、あまりの重さで荷台が傾いていたっけ。
重さ……う〜ん、それだけではないような気がする。まあ、マインの戦いを見れば、すぐに分かることだ。
行商人と役人の交渉が終わり、積荷の搬入が始まる。邪魔をしないようにさっさと立ち去ろう。
マインを背負って、黒斧まで持ったら、手一杯だ。黒斧の柄をうまく利用して、マインをおんぶする。
このまま都市の中を散策する訳にはいかず、俺はまず宿屋を探すことにした。
へぇ〜積み荷の搬入場から、町の中へ入るとインフラがかなり整備されており、地方都市とは思えないくらいだ。王都に匹敵すると言ってしまっても過言ではない。
田舎のような和やかなハート家の領地とは真逆。いかに合理的に都市を作るかのみに重きを置いたら、こういった町並みになってしまうのかもしれない。
道を進んでいくと、警備している兵士たちに止められる。悪いことをしていないのになぜ?
「お前は旅人だな」
「はい、宿を取ろうと思って探していました」
俺が素直にそう答えると、兵士は反対方向を指差す。
「なら、向こうに旅人用の宿がある。そこに泊まるといい。この先の区域は領民しか進めない」
なんと!? この都市は旅人に行動制限を課しているのか……。徹底しているな。
そして、俺は兵士の首元に黒い入れ墨が彫り込んであるのに気がついた。試しに聞いてみると、
「これが領民の印、そして、武人の身分も表している」
「あの……領民たちすべてに階級ごとにそれをつけているんですか?」
「ああ、そうだ。それがこの領地での決まりだからな。さあ、引き返すんだ、でなければ、牢屋に入れることになるぞ」
それは勘弁。俺はそそくさと、教えてもらった宿屋を目指す。ここの都市は怖いくらい厳格だった。
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