第28話 黒鎌による収穫
セト親子には家から絶対に出るなと忠告して、外へ飛び出す。
真っ暗な夜。しかし俺には《暗視》スキルがある。
悲鳴が聞こえる空を見上げると、村人たちが数十匹のガーゴイルに捕まっている。そして、生きたまま食われていた。
時折、雨のようにポタポタと天から降ってくる液体は、村人たちの血だ。
もうガーゴイルに捕まった村人たちは助からない。
黒剣グリードを引き抜き、空から襲ってこようとするガーゴイルに迎撃態勢を取る。すぐに《鑑定》スキルを発動する。
・ガーゴイル・ノア Lv27
体力:890
腕力:760
魔力:1390
精神:1230
敏捷:980
スキル:炎弾魔法
こいつら、炎弾魔法を使えるのか。上空を取られた状態で、一斉に打ち込まれたまずいぞ。
俺はすぐさま黒剣から黒弓に形状を変更。
空中で人の腹あたりを貪っているガーゴイル・ノアの1匹を向けて先制攻撃。放った魔矢は寸分違わず、ガーゴイル・ノアの眉間を貫く。
《暴食スキルが発動します》
《ステータスに体力+890、腕力+760、魔力+1390、精神+1230、敏捷+980が加算されます》
《スキルに炎弾魔法が追加されます》
おお、初魔法をゲット……なんて喜んでいる場合ではない。
倒したガーゴイル・ノアは村人の死体と共に、俺の足元へグシャっと音を立てて落ちる。この村人は……俺を生贄呼ばわりした村長だった。
村を取りまとめる人間が、死んでしまっては誰が避難指示をできるんだ。きっと、俺やセトが言っても誰も聞かないぞ。
ガーゴイル・ノアたちは、仲間が1匹倒されても全く動じない。それどころか、人間の旨さに酔いしれて、更に食おうと次なる攻撃を仕掛けてくる。
それに対して、グリードが俺に警告する。
『フェイト、魔法の雨が降り注ぐぞ。俺様の形状を大鎌に変えろ!』
俺はグリードを黒鎌に変化させる。すぐさまセトたちがいる家を守るために、屋根に飛び乗る。
途端に、天が紅蓮に燃え上がった。それは30個の炎弾だ。
村全体へ向けて、隕石のように落ちて来る。
ガーゴイル・ノア30匹による同時炎弾魔法――広範囲を焼く、恐ろしい連携魔法だ。
こんなものがまともに当たったら、家など簡単に燃え上がる。
すべてに対応はできない。セトの家に向けて、飛んできた炎弾2つを黒鎌で斬り伏せる。
刃に触れた途端、魔法は掻き消える。
グリードは事象を断ち切ると偉そうに言ったが、なんでもかんでも斬れるわけではない。スキルから発現する事象に干渉して、無かったことにするのだ。
ガーゴイル・ノアが放つ炎弾魔法はスキルだから斬れば、消失させれる。しかし、スキルによって、間接的な起こった事象は無理だ。
例えば、炎弾魔法の攻撃で燃えている家の火は消すことができない。
まあ、流石にそこまで出来たら、この黒鎌は無敵だと思う。
それを置いても、黒鎌は魔法戦に圧倒的な力を発揮する。
周りを見回せば、燃え上がる村によって、まるで昼間のような明るさだ。焼かれていく家々からは、村人が体に移った火を払いながら、転がり出てくる。
それを待っていたと言わんばかりに、ガーゴイル・ノアが襲いかかった。
生き残った村人たちは、もう半分もいないだろう。それでも貪欲なガーゴイル・ノアたちはまだ収まらない。大きな目をギョロギョロを動かして、唯一炎から逃れたセトの家に狙いをすませる。
俺としては、まとまってくれる方がやりやすい。
ガーゴイル・ノア30匹が一斉に俺が立つセトの家に向かって炎弾を放つ。
2つの火弾なら俺に防がれるが、30となれば力推しできるとでも思ったのだろう。
炎弾の点が合わさり、面となって俺に襲いかかる。
ここは、王都周辺に住むゴブリンたちを使って、練習を重ねたあれを使う時だろう。
「グリード、いいか。あれを行くぞ」
『ちゃんとできるか、俺様的に心配だが……やってみろ』
俺は黒鎌をガーゴイル・ノアの群れに向かって、力の限り回転をかけて投げる。
刃に込められた呪詛によって、30個もの火弾で面となった炎壁をぶち抜いて、消失させる。
さらに、その後ろに控えるガーゴイル・ノアたちを切り裂いた。
役目を終えた黒鎌は、ブーメランの要領で俺の手に戻ってくる。いい感じだ……練習の成果だ。
バラバラになった28匹のガーゴイル・ノアの死体が、セトの家の周りに降り注ぐ。
《暴食スキルが発動します》
《ステータスに総計で体力+24920、腕力+21280、魔力+38920、精神+34440、敏捷+27440が加算されます》
さて、残りは2匹だ。大概、群れで襲ってくる魔物は仲間の数が少なると、似たような行動を取る。つまり、尻尾を巻いて逃げるのだ。
「逃がすかっ!」
黒鎌から黒弓に変えて、1匹づつ確実に射抜く。
俺はガーゴイル・ノア2匹分のステータス加算を聞きながら、また黒鎌へと変える。
群れって奴は、必ずそれを率いる頭がいる。
なのに、見当たらないってのは、
『フェイト、真上だ!』
「ああ、わかってる」
一回りも大きな炎球を作り出しながら、上空高くから滑降してくる大きな黒い影。
《鑑定》で正体を調べる。
・ガーゴイル・ネオ Lv47
体力:12890
腕力:11760
魔力:23390
精神:23230
敏捷:12980
スキル:炎弾魔法、炎耐性
子分たちの戦いを観察して、至近距離から放てば俺を倒せると踏んだのだろう。
魔法の威力もガーゴイル・ノアよりも強力そうだ。なるほど、炎耐性があるのでこんな捨て身の攻撃ができるのか。
しかし、所詮は魔物だ。本能的な戦いでは、黒鎌の力を把握しきれないか。
俺ごとセトの家を焼き尽くそうとするガーゴイル・ネオ。ものすごい速さで接近してくる。
ゼロ距離手前、タイミングを見計らって黒鎌を振り払う。大炎球を放つ前にガーゴイル・ネオの体ごと縦に両断する。
バッサリと斬られたガーゴイル・ネオは俺と交差しながら半分に分かれて、地面に落ちていった。
《暴食スキルが発動します》
《ステータスに体力+12890、腕力+11760、魔力+23390、精神+23230、敏捷+12980が加算されます》
《スキルに炎耐性が追加されます》
これで炎系スキルの二つ目をゲット。《鑑定》で調べると、炎耐性は炎系の攻撃魔法を半減できるスキルだった。なんだ、魔法のみに適応されるスキルなのか、残念。
ガーゴイルたちの魂をたらふく喰えたので、いい感じに暴食スキルの空腹も満たされた。疼いていた右目も収まったし、俺の調子はすこぶる良い。
それとは打って変わって、村は悲惨な状況だ。セトの家を除いて全焼してしまったからだ。ガーゴイルたちの炎弾によって焼かれた真っ黒な地面は焼け野原を連想させる。
戦いの代償は大きく、なんとか焼けた家から這い出して、生き残った村人たちはひどい火傷を負っている。
俺が屋根から見た周囲で確認できる生存者は4人。俺とセトと娘を入れると7人か……。もう、この人数では村を維持することは不可能だろう。
未だくすぶり、燃え続ける家々を見ながら、ひしひしと感じる。
俺の中で幼いころから渦巻いていた複雑な感情も、あの家々のように燃え尽きて、灰になっていくような感覚に支配される。
なんだか、胸にポッカリと穴が空いてしまったようだ。
屋根上で胡座をかいて、ぼんやりと篝火たちを眺めていると、セトたちが恐る恐る家から出てきた。そして、俺を見つけて少しばかり安堵したようだった。
「フェイト、これは一体……」
「ガーゴイルの群れに襲われたんだ。応戦したんだが、この家を守りながら戦うのがやっとだった。広範囲の炎魔法でこのザマさ」
俺がそれだけ言って、村だったところにまた目を向ける。
セトはもう何も聞かずに、呆然としていた。彼の娘は泣くことも忘れて、父親の足を絶対に離さないとばかりにしがみついている。
胸くそ悪い村だった。だけど、無くなってしまえば、黒い感情はどこかへ行ってしまい。
なんとも言えない寂しさだけが俺の心に居座った。
もしかしたら、これを郷愁とでも呼んでいいのだろうか……。わからない。
はっきりしていることは、ただ一つ。この日、俺は完全に故郷を失った。
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