第17話 暴食による暴食

 俺はコボルトたちの様子を窺いながら、行動を始める。


『フェイト、何か考えでもあるのか?』


 グリードが面白そうに聞いてくる。しかし、俺がどのような戦い方をしようとしているか、わかっているようだった。


「暴食らしく戦うだけさ」

『やっとわかってきたじゃないか。そろそろ、誰でもできる普通の戦い方からは卒業してもらわなければ、俺様としても困るからな。よちよち歩きで戦うなんて暴食らしくねぇ』


 俺は風下であるのを注意しながら、黒弓を構える。狙うはコボルト・ジュニア1匹。

 正確無比な魔矢はコボルト・ジュニアの左目に突き刺さる。


《暴食スキルが発動します》

《ステータスに体力+880、筋力+890、魔力+350、精神+400、敏捷+780が加算されます》


 俺の頭に聞こえてくる無機質な声を合図に狩りが始まる。

 続けてコボルト・ジュニアに2射目、3射目を放つ。更にステータスの上昇が告げられる。


 安全が確認された場所からの攻撃に、コボルトたちの隊列は乱れ始める。しかし、冠コボルトが唸り声を上げて、慌てるものたちを静めていく。


 そして、矢が飛んできた方向を見定めて、コボルトたちに指示を出す。


 やはりな、そうすると思った。この冠コボルトは強いくせに、慎重な性格なのだ。

 それは昨日と今日で斥候を送り、安全を確認してから渓谷を降りてきたことが物語っている。


 冠コボルトはその場から動かずに、コボルト・アサルト2匹とコボルト・ジュニア10匹を、俺が潜んでいる方角へと向かわせる。


『来るぞ。後退だな』

「ああ」


 俺はそのまま木々の奥へと静かに引き下がっていく。さあ、ここに残った俺の臭いを辿ってついてこい。


 程よい距離を進んで見つけた大きな岩の影に身を隠す。まあ、隠れたところで、ここまで歩いてきた臭いが残っている。コボルトたちは苦もなく俺を見つけるだろう。


 そうしてもらわなければ、誘い込んだ俺としても困る。


『来たぞ、フェイト』


 岩影から顔を出して、筋骨たくましいコボルト・アサルトの1匹を《鑑定》する。


・コボルト・アサルト Lv40

 体力:50000

 筋力:50000

 魔力:27000

 精神:28000

 敏捷:45000

 スキル:敏捷強化(中)


 今の俺が少し勝っているくらいか。ならば、先に雑魚をいただこう。

 岩陰に隠れる俺を取り囲もうとしていたコボルトたちに先制攻撃だ。


 岩の上に飛び上がりながら、黒弓をしならせて連続射ち。


 コボルト・ジュニアを5匹、6匹、7匹……逃がさない。躱そうとしても、この魔矢は追尾して必ず射抜く。


 俺を取り囲んでいたコボルト・ジュニア10匹のすべてを一掃した。

 頭の中で聞こえてくる無機質な声に思わず、笑みが溢れてしまう。


 雑魚でも集めれば、それなりの力になる。これはゴブリン狩りで学んだことだ。

 残る追手はコボルト・アサルト2匹のみ。


 ステータスは更に上回ったが、圧倒的な大差ではない。


 それでも、仲間を瞬く間に失った動揺があるうちに一匹を仕留めれば、もうあとは楽だ。


 俺は大岩から飛び降りながら、黒弓から黒剣に形状を変える。

 我に返ったコボルト・アサルトは右腕を振り下ろして、鋭い爪で俺を切り裂こうとする。


 しかし、動くのが遅すぎた。俺はそれを容易く躱すと懐に潜り込み、大木のような腹を真横に両断する。


 血しぶきを上げながら、コボルト・アサルトの上半身がずれ落ちていく。


《暴食スキルが発動します》

《ステータスに体力+50000、筋力+50000、魔力+27000、精神+28000、敏捷+45000が加算されます》

《スキルに敏捷強化(中)が追加されます》


 これで、もう一匹のコボルト・アサルトは大した魔物ではなくなった。

 もう、俺からしたらコボルト・ジュニアと同じ存在だ。苦もなく狩れる。


 俺が放つ殺気の質が変わったのを本能的に察したのか、コボルト・アサルトがゆっくりと俺から距離を取り始める。


 そして、よつん這いになって犬のように逃げ出した。冠コボルトに助けを求める気だろう。


『逃がすなよ』

「言われなくても」


 黒剣グリードを黒弓に変え、尻尾をしならせて逃げていくコボルト・アサルトに向かって、魔矢を数回放つ。すべて後頭部へ命中し、絶命していく鳴き声すら許さない。


《暴食スキルが発動します》

《ステータスに体力+50000、筋力+50000、魔力+27000、精神+28000、敏捷+45000が加算されます》


 ものすごい勢いで満たされていく。なんなんだ……この高揚感はまるで身内の暴食スキルが喜んでいるみたいだ。

 今までにない高鳴りを抑えながら、《鑑定》スキルで自分のステータスを調べる。


・フェイト・グラファイト Lv1

 体力:161641

 筋力:161621

 魔力:80051

 精神:82701

 敏捷:131041

 スキル:暴食、鑑定、読心、隠蔽、暗視、片手剣技、両手剣技、筋力強化(小)、筋力強化(中)、体力強化(小)、体力強化(中)、敏捷強化(中)、自動回復


 だいぶ冠コボルトのステータスに近づいてきた。あと、もう一匹のコボルト・アサルトを喰らえば、ほぼ同格だ。


 俺は来た道とは違うルートで、冠コボルトたちがいる渓谷へ戻っていく。


 そっと木々の隙間から覗き込む。まだいる。

 冠コボルトを守るようにコボルトたちが取り込む陣形だ。


 本当に用心深いやつだ。

 まあ、お前が送った手下のコボルトたちをいくら待っても、もう戻ってこない。俺が喰らってお前を倒すための力に変えてやった。


 代わりに魔矢を送ってやるよ。俺はさらなる力を得るために魔弓を引いて、放つ。


 魔矢は複雑な軌道を描きながらコボルト・ジュニアを避けて、その奥にいたコボルト・アサルトの頭を射落とす。


《暴食スキルが発動します》

《ステータスに体力+50000、筋力+50000、魔力+27000、精神+28000、敏捷+45000が加算されます》


 またしても奇襲を受けたこと、合わせてコボルト・アサルトが一撃で仕留められたことで、格下のコボルト・ジュニアたちは動揺して怯えだす。


 陣形はボロボロだ。所詮は犬、本能的な恐怖には抗えないようだ。


 俺は迷うことなく、物陰から飛び出して一気に詰め寄る。

 冠コボルトが俺を察知して襲ってくる。しかし、今の俺はもう奴とほぼ同格のステータス。


 烈風が渦巻く鋭い爪に、僅かに肩を切り裂かれながら、その後ろにいる最後の1匹--コボルト・アサルトを黒剣で斬り伏せる。

 勢いそのままに地面を足滑りさせて、冠コボルトと距離を取りながら向かい合う。


《暴食スキルが発動します》

《ステータスに体力+50000、筋力+50000、魔力+27000、精神+28000、敏捷+45000が加算されます》


 さあ、お前に追い付いて、追い抜いてやったぞ。

 自動回復スキルによって、肩のかすり傷はすぐに癒えていく。有能なスキルだ。


 そして荒喰いして得たーー止めどなく溢れ出す力を《鑑定》スキルで確認する。


・フェイト・グラファイト Lv1

 体力:261641

 筋力:261621

 魔力:134051

 精神:138701

 敏捷:221041

 スキル:暴食、鑑定、読心、隠蔽、暗視、片手剣技、両手剣技、筋力強化(小)、筋力強化(中)、体力強化(小)、体力強化(中)、敏捷強化(中)、自動回復


 コボルト・ジュニアたちが逃げ回る中、ただ一匹だけ冠コボルトが俺を忌まわしそうに睨みつけていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る