おじいさんのソリ

西川笑里

第1話 小屋の中

 ある小さな村に、雪子という元気な女の子が住んでいました。今年で10歳になり、最近はちゃんとお母さんのお手伝いもできるようになりました。

 ところで雪子の住む村は、島を除けば日本でも一番南にある村だったので、ほとんど雪はふりません。それなのに、なぜ「雪子」と名づけられたかというと、ちょうど十年前にめずらしく雪がふった日に生まれた子供だからでした。


「おじいさん、おはよう」

 雪子が遊びに行ったところは、村のはずれに住む変わり者の白い髭のおじいさんのところです。でも、雪子にはとてもやさしい人でした。

 ちょうどおじいさんは小屋で仕事をしていましたので雪子が小屋に入ると、おじいさんの横に大きな乗り物がありました。

「おじいさん、これはなに?」

 雪子が聞くと、おじいさんは白い髭をなでながら、

「これはソリといって、雪の上をすべらす乗り物なんだよ」

と教えてくれました。 

「ソリ? 自転車みたいなもの? 雪子ものれる?」

「でも、これは10年前にすべらせたっきり、あれから雪がふらなくての。おかげでわしももう10年ここにいるハメになったんじゃ。」

 おじいさんはざんねんな顔をしました。


 雪子が家に帰ってこの話をお母さんにすると、

「でも、テレビで今夜から久しぶりに大雪がふるかもっていってたわよ。もしたくさん雪がふったら、ソリにのせてもらえるかもね」

「そうだったらうれしいなあ」

 お母さんのいうとおり夕方からふりだした雪に、雪子はワクワクしながら

「もっとふれ、もっとふれ」

とあしたの朝に目がさめたら、たくさん雪が積もっていることを祈りながらベッドに入りました。


 その夜のことです。夜中に「シャンシャンシャンシャン」と鈴の音とひづめの音で雪子は目がさめました。すると開いた窓から真っ赤な服をきたおじいさんが入ってきました。

「雪子ちゃん、お別れだ」

「おじいさん、どこかに行っちゃうの?」

「10年前に雪のふる日、君のお母さんに君をプレゼントして帰ろうとしたら、もう雪がなくて、あれから帰れなかったんだよ。やっと自分の国へ帰ることができるよ。今までありがとう」

 そういうと、おじいさんはソリに乗って空へ上って行きました。


 次の朝、おじいさんの小屋に行くとおじいさんはやっぱりいませんでした。夢じゃなかったと悲しくなりましたが、かわりにソリのあったところに「雪子ちゃんへ」と書いた紙がはった新しい自転車が置いてありましたとさ。

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