第35話 謁見

 謁見の間には非公式ということで限られた人物しかいなかった。兵士が10人ほどとメイドや執事が数人、あと貴族らしい人が数人いるだけだ。

 一段高くなっている場所には椅子が2つ並んでいる。

 謁見の間に俺たちが入り、並んで待つと(俺が真ん中に立つことになった)、兵士の一人が高らかに声をあげた。


「国王陛下、ならびに王太女殿下のおなーりー。」


 他の人が頭を下げるのを見て、慌てて頭を下げる。ふと気になって後ろを覗くと、礼儀作法という言葉を知らないルナとリーフの頭を下げさせているオルガさんとウリアさんが見えた。お疲れ様です。


「面を上げるがよい。」


 その言葉を聞いて頭を上げると、さっきが椅子に座っていた。王様だったのかよ!!


「我が娘を助けてくれたことに礼をいう。ありがとう。」

「いえ、当然の事をしたまでです。」


 定型文で返す。


「褒美として、我が娘やろう。婚約者となるがよい。」


 ざわめく謁見の間。そりゃあ、ポッと出の庶民冒険者がお姫様の婚約なんて事を言ったらねぇ。

 ざわざわ言う中、俺は手を上げる。


「発言、よろしいですか?」

「うむ、許す。」

「では、……お断りします。」


 丁寧に頭を下げる。

 少し間を開けて、またざわめく。


「私の、何がよくないのでしょうか?」


 王女であるメフィが涙目で若干暗い顔で聞いてくる。


「えーと……、が邪魔?」

「「「「「立場が邪魔!?」」」」」


 この場にいる全員の声が揃った。まあ、一般的に王女様を娶るなら、その立場が重要だもんな。


「――――立場が邪魔ってどういうことですか?」


 まあ、聞くよな。


「それは、俺のやりたいことに関わっています。」

「やりたいこと?」


 俺は頷く。


「ええ、先程控え室で言っていた頼み事ですね。」

「ああ、そういえば言っていたね。」

「まあ、頼み事っていうのは、を結んでほしいんですよ。」

「契約?」

「ええ、契約です。鉄道建設許可の契約になります。」

「テツドウ?」


 俺は鉄道について簡単な説明をする。


「鉄道というのは、公共交通機関で、馬車よりも速く、 馬車よりもたくさん運ぶことができます。制限としては小回りが効かない、高低差に弱い、専用の場所がいる、といったところですね。」

「ふむ、それはなかなか良さそうだな。」

「契約の肝となる部分は、鉄道のです。」

「ん?それはどういうことだ?」


 お、理解していないな。為政者としてどうなんだろう……。


「馬車より速く、たくさんの軍人や食料、資材を運ぶことができるということは、それだけ軍を国境に最速で送れる、敵よりも速く。使。それを禁止するそのための契約だ。」

「なるほど。では、もしその条項を飲めないといったら?」

「俺はこの国を出て、別の国で鉄道を立ち上げるだけだ。俺が目指すのはの構築だから、この国から始める必要はない。」

「そうか……。なら、強制的に作らせるというのなら?」

「逃げるだけだな。俺の強さは知ってるだろ?」

「そこにいる者を人質にしてもか?」

「ああ、逃げる。」

「「「「ひどっ」」」」


 後ろで声が揃う。


「いやだって、3人は俺のだから、後から喚べるし、3人はだろ、自分で何とかしてくれ。」

「「「おい」」」


 またも後ろで声が揃う。


「まあ、どっちにしろ訳がないよな、王女様を救った恩人なんだから。親としてどうなんだ?」


 俺はニヤリと笑う。王は肩をすくめながら――――


「――――ははっ、負けたよ。といことは、王太女どころか、王女でも婚約をしてしまうと……。」

に鉄道を走らせられないです。」


 俺は頷く。


「では、私が王家を抜ければ――――。」

「変わらないな。」

「ですね。」


 メフィの提案に俺も王様も即座に否定する。


「なぜ、ダメなのですか。私じゃ貴方の元で寄り添うことも出来ないのですか。私がお嫌いなのですか?」


 絶望した顔で、問い詰めるメフィ。


「嫌いじゃないけど、あなたの肩書きはどこまで行っても付いてくるから。肩書き無しでいようとするならば、駆け落ちするしかない。だけど、”それ”だとことになり、この国に鉄道を走らせることは困難になる。」

「他の国でも難易度は上がるな。他国の元王女がいるなら穿った目で見ることができるからな。」


 ハッとした顔になり、そして、何かを考えるメフィ王女。


「娘の気持ちを考えるとなんとも言えないが……、メフィが考えている間に話を詰めていよう。まぁ、うちの国としてはあまり拒否する理由もないしなぁ。どう思う宰相?」

「――――そうですな、その話が本当なら、我が国の発展になることでしょうな。ただ、を押さえられたら――――。」


 そこで、メフィ王女が突然顔を上げる。


「そうです!流通網を押さえられたので、人質として私をヤマト様に差し出すというのはどうでしょう?」


 その発言を聞き、顔を見合わす俺と国王と宰相。


「確かに無理矢理ではあるけど、道理は通るな。」

「その状況なら釣り合いは取れるかと。」

「いや、まずこの国に走らせ、じゃないと、結局変わらない。なので数年かかるぞ。」

「数年間王太女が婚約者無し、もしくは婚約者を設定してもさせることが決まってるとなるのは……。」

「ヤマト殿、で開業させるのにどれくらいかかる。」

「手間ってことなら、車両等の開発と、地図作成を行ってルートの作成と建設、競合する馬車の説得と、資材の確保、あと運転士や駅員の育成も行わなきゃならないからな~。」

「あの~~ちょっといいですか?。」


 オルガさんが手を上げて発言を求める。


「うむ、発言を許そう。」

「ありがとうございます。で、その話って?というか、会議室でやってください。」


 あっという顔をする3人。


「ええと、ああ、あと褒賞金を支払うことになる。王女の輿入れも断られて、おそらく爵位も要らないというだろう。なら、白金貨で100枚を褒賞としよう。」

「ありがとうございます。」

「宰相よ、今日のこの後の予定はどうなってた?」

「ええと、グラス侯爵と、ルーヴェンス伯爵の謁見が予定されております。」

「内容は?」

「は、少しお耳を……。」


 宰相が国王の耳元で何かを伝える。


「ふむ。それなら、謁見を見合わせると伝えよ。こっちの方がになる。」

「そうですな。」


 へえ、俺の鉄道事業をそう見てくれるとはな。


「では、続きは執務室ですり合わせを行おう。」


 そう言い、国王陛下は退出した。その後、俺たちも先程待っていた控え室に戻る――――途中で俺は宰相に国王の執務室まで引っ張っていかれた。




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今回で第1章は終了です。


第2章ですが、諸事情により6月1日から再開し、第2章前半は週3回投稿します。

事情としては……、

①紹介文とタグの更新。

②本文の一部修正(本編の内容に関係ない部分)。

③想定以上に話数が増えて、ある程度消化したい(笑)。

と、なります。


第2章も読んでもらえたら嬉しいです。

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