第11話



 学生と言えば勉強、勉強と言えばテスト。ここ黒ノ丘高校では、テストの成績上位者30名を載せた表が廊下に貼り出される。言わずもがな一番上には冬木 藍の名前が鎮座している。成績表を見に来た生徒は、流石生徒会長と彼を称賛しているが、そんな生徒会長はというと、教室の彼の席に置かれたあの鳩からの贈り物(バッタの死骸)に対して、


「ふむ、カラスが求愛や絆を築くために贈り物をすると聞いたことはあるが、その贈り物はちとセンスがないと思うぞ。」


 などと言うものだから、鳩につつき追いかけ回されている。鳩はカラスではない。さすがのクラスメイトも今のは冬木が悪いと擁護するものは誰もいないようだ。教室内を駆け回る鳩と生徒会長。騒ぎを聞きつけ入ってきた担任も、あまりのカオスさに叱ることを忘れて呆然としていた。事の経緯を生徒から聞いた担任はそれはお前が悪いと呆れていた。


「味方がいないッ!!」


 俺もよく贈り物を貰っているがそのどれもが綺麗な石や花である。悲鳴を上げる冬木には、その贈り物(バッタの死骸)がどう考えても煽りであることは言わないでおこう。

 後日、彼の席には黄色いカーネーションの花が送られていた。綺麗だと喜ぶ冬木には、花言葉が『軽蔑』であることは教えないでおこう。


「「頼む冬木(君)!俺たちに勉強を教えてくれ!!」」


 涙目になって頼み込んでいるクラスメイトの彼らはどうやら今回のテストで赤点を取り、再テストを受けることとなった。この再テストで合格点を下回ると夏休みに補習を受けなければならないそうだ。部活動に専念できる夏休みに補習で時間を取られたくないと話す。しかし冬木とて別々の科目を2人同時に教えなければならなく、テストの点数は100点満点中一桁という絶望的状態。よく高校受かったな。生徒会としての活動が忙しくなってきたこともあり負担が大きすぎる。困ったと悩む3人を隣で静かに見ていると、再テスト2組の中の一人、夏原 巴(ナツハラ トモエ)と目があった。直ぐさま顔を下に向けようとすると物凄い勢いで肩を掴まれた。え、怖い。小さな悲鳴が漏れたが彼には聞こえなかったのか、必死な形相で話しかけてきた。


「お前秋元だったよな、確か今回のテスト10位だったろ!覚えてるぞ!!頼む!!秋元!!勉強を教えてくれ!!!」


 なんで勉強は覚えられないのに俺の順位は覚えてるんだ。迫り来る夏原に震えが止まらない。怖い、怖い。バクバクと音を立てる心臓が痛い。ついでに掴まれている肩も痛い。


「夏原、そこまで。秋元君が怖がってるから。彼、あまり人が得意じゃないんだ。もっと落ち着いて接してあげてくれ。」


 呼吸が浅くなってきた時、冬木が助け船を出してくれた。俺の手を握り、親指で落ち着かせるように撫でてくれる冬木に少しずつ遠のきかけた意識が戻ってくる。


「あ、そうなの、ごめん!!怖がらせるつもりはなかったんだ!まじでごめん!!大丈夫??」


 眉をひそめて心配する彼は優しい人なんだろう。中学の頃の自分と冬木の関係を知ってもなお、こうして普通に接してくれているのだから。


「うん、取り敢えず大丈夫そうだよ。でもそうだな、勉強に関しては良いかもしれない。秋元君、二人に教えてあげてくれ、僕も手伝うから。」


 頭の中で船が転覆した。


「そろそろ他の人とも交流した方が良いと思ってね。良い機会じゃないか。彼らは優しい人達だから大丈夫だよ。ゆっくりで良いから友達になっていこう。」


「お前は秋元の母親か。」


「いえ、いずれ夫になる予定です。」


「キリッとした顔で言っても、お前の頭を鳥の巣にしてる鳩で台無しだからな。」


「このクソ鳩がッッ!!!!」


 見慣れた冬木と鳩の喧嘩を気にしている余裕は俺にはなかった。これからどうなってしまうのかと不安が募るばかりである。





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