第8話 色付く心
幸せな家族だったと思う。子供は難しいと言われた夫婦の間にできた奇跡の子。それはそれは愛情深く育てられた。知らないことはなんでも教えてくれたし、やりたいことはなんでもやらせてくれた。でも間違ったことをしたらしっかり叱られて、もう間違わないと約束の指切りをすれば、ニコリと大好きな笑顔で頭を撫でてくれた。心から愛していた。
だから失った時のショックも大きかった。ピカピカのランドセルを背負って家に帰ると、正月くらいでしか会わない親戚が家にいて、どうしたのかと問えば、告げられたのは両親が事故でなくなったという残酷な事実だった。
即死だったらしい。近くのスーパーまで夫婦仲良く徒歩で向かっていたところに飲酒運転の車が猛スピードで突っ込んで来た。周りの人が直ぐに救急車を呼んだが、二人は既に息を引き取っていた。
まるでテレビ越しにでも聞いているようで、気が付いたら世界から色が消えていた。全てモノクロで、つまらない。僕を引き取ってくれた親戚の人達も、友達も先生も、漫画みたいに線で形が作られた色のない存在。こんな世界で生きている理由が見つからない、だけど死んでしまえば、僕をあれほど愛していた二人は悲しむと知っているから。ただただ同じ日々を淡々と過ごしていた。
そんなときに出会ったのが秋元 奏だった。モノクロの世界のなか彼の瞳だけは綺麗な橙色をしていて、それを見たとき、日課になっていた家族一緒に、庭で夕陽が落ちていくのを見ている景色を思い出した。美しい、愛の思い出の色。彼の瞳を見た瞬間、今まで消えていた全てのものが色付いていくのが分かった。高鳴る鼓動を抑えられなかった。だから心のままに口を開いた。
「綺麗だね、君の瞳。」
彼はその言葉に腹を立てたらしい、殴られてしまった。何故だろうか。こんなにも美しい瞳をしているのに。この時の僕にはどうしても分からなくて、でもどれだけ殴られ蹴られても、その瞳から目を反らすことは出来なかった。僕に色をくれた美しい瞳。あぁ、本当に綺麗だ。心から愛おしい。僕を見つめるその瞳は怒りで歪んでいるのに、不安そうに揺れている。まるで愛して欲しいと泣いている子供のようだ。純粋で綺麗で。それを見てしまえばもはや瞳だけではなく彼そのものが愛おしくなっていた。
中学3年になると義理の両親の都合上転校することになったが、どれだけ経っても彼を忘れることはなかった。願わくばもう一度会いたい。その願いは2年後に叶えられた。
再び出会った彼は変わっていた。人に怯えいつも下を向いている。あぁ、俯いていては君の綺麗な瞳が見えない。なんて勿体ない。でも他の人に見られてしまうくらいならそのままでもいいと思ってしまう邪心を持つ自分もいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます