魅了の王子と翻弄姫君。※R-15
コウサカチヅル
本編
「あっ、ロゼッタだ。あーそーぼ?」
ここは王城の外れにある
彼の名はライオネル様。この国の、
彼に与えられている
「まずはお食事をいただきましょう。何事もからだが資本。健康あっての物種、ですわ!」
ぷっくりと頬を膨らませながら不満げな声を
「さ、ライオネル様はわたくしがずっと手にしていた分を。事前に毒味はいたしましたが、心配なようでしたら改めてわたくしが務めさせていただきますわ」
「いーよ。ロゼッタのこと、おれ、完全に信じてるから。それにしても、今日はメイドちゃんと会わせてくれないんだ?」
「
「むー」
そう。彼が生きのこれた最大の理由にして深刻な問題がこれなのだ。
……彼は死にわかれた実母である王妃から、『魅了の加護』を授かっている。
✿✿✿✿✿
ライオネル様は、国を治める夫妻の第一子として生を
ただし、共に生まれた相手――双子の弟のルカ様がいたのだ。
この国では双子は『
おふたりをお産みになった先の王妃様は(彼女もわたくしとはまた別の、異国の姫君であった)、
結果、ライオネル様は本来の奪われるはずだった運命から解きはなたれる。
――皆、ライオネル様と目が合うと
完全に厄介者兼崇拝の的となった彼は、時折目を合わさないようにした暗殺者に狙われながらも、すくすくと成長を遂げた。
そこに、ルカ様の婚約者に選ばれたわたくし・当時十三歳がやってきたのだ。
完全に
いや、一番の原因はわたくしには『魅了』が効かなかったことらしいのですけれど! わたくしが生まれつき持つ『聖』属性の魔力が、『闇』属性の『魅了』を無効化しているのですって。
……ライオネル様に一切
そんなの、そんなの知りませんわよー!!
✿✿✿✿✿
申しわけ程度に、幽閉塔に甘んじている第一王子へわたくしは、じとっとした瞳を向ける。
長い髪を無造作に垂らした
「なぁに、ロゼッタ。おれのこと
「そんないかがわしい目はしておりませんが!? 日常的に危ない行為をしているような物言い、おやめくださる?!」
この男、放っておくとぎりぎりの発言しかしないんだから……!
日に日に
「ねー、ロゼッタ」
「なんですの?」
食事を済ませ、自身で
「やっぱりおれと結婚しよ?」
「ぷぴゅっ!」
……あっぶない! 淑女の
とは言え、結局むせてしまったわたくしの背後に回り、リズミカルにぽんぽん背を
落ちついてから、わたくしはぎっ、と向かいに移動した『
「ライオネル様、お
「ふざけてなんかないんだけどなぁ」
「わたくしはっ、貴方の弟君、ルカ様の婚約者で――」
「ロゼッタも気づいてるくせに。あいつ、きみのこと
「っ!」
「愛してたら、
「それは、貴方がわたくし以外からの食事を受けつけないから」
「そっちのほうが
「ルカ様にまだ、確認されたわけではないのでしょう? おふたりは一度、しっかりお話し合いを……」
ライオネル様は、くっくっ、と
「きみだって知ってるでしょ? その、『忖度』を」
「!」
……本当のことを言うと何度か、ルカ様付きの家臣から『それ』を匂わされたことはある。未だに信じたくないけれど、ルカ様ご自身からも一度だけ。でも、ずっとずっと、気づかない振りを続けている。
わたくしには、納得がゆかなかったから。
彼は……ライオネル様は、いつもわたくしをからかってきたり、幼さを演出する口調を好むけれど、実際とても努力家で、能力もずば抜けて高いおかただ。わたくしは共にいることで、それを痛いほど感じる。……ルカ様よりも、
わたくしの考えを読むように、
「苦肉の策で、『魅了』が効かない姫を調べあげたのにね。その姫君は、とんでもないお
「もうっ、悪ぶらないでくださ――!!」
わたくしの口は、ライオネル様のくちびるによって
「〜〜っ!」
まるで時が、止まったかのよう。
頭を、腰を、強く
彼のくちづけは、手酷いのに怖いくらい甘くて。
わたくしは初めてのそれに耐えきれず、涙を落とし、意識を手放してしまったのだった。
✿✿✿✿✿
ライオネルは、気を失ったロゼッタのからだを抱きよせる。
ほんのり
「……本当に、欲しいのに。欲しいから、」
ライオネルは、彼女を支えたままベッド下の水晶を
「はろー、師匠♪」
「なんだよ、王子。今、最後の調整中……って、抱っこしてんのロゼッタ姫!? は!? いたしちゃったわけ!?」
「
「……お前、ノリが軽すぎ。せめて夜まで待て、教えただろ? 『暗殺術式』は月が出ているときに最も真価を発揮するんだ」
「だって師匠の実力なら、真っ昼間でも確実じゃん」
「俺様は万全を期すタイプなんだよ」
「んー、じゃあ月が顔出したらすぐね」
「へいへい」
あまりにも
「……きっと、この国の『忌み子伝え』はなくす。師匠……
「……そう願うよ」
この国の最も優れた魔術師で、貴族でもあるトーマス。二十代のようないでたちではあるが、その
そのような
当初、ライオネルは持ちかけられた
ロゼッタに、
どこか
「『恋』はひとを、狂わせるねぇ……」
そう
【了】
魅了の王子と翻弄姫君。※R-15 コウサカチヅル @MEL-TUNE
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